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米国海軍特殊戦コマンド、戦場でのAI活用について語る。非対称戦での勝利に向けて

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカ国防総省のAI(人工知能)を軍事分野での応用に研究している機関「Joint Artificial Intelligence Center:JAIC」の副所長のナンダ・ムルチャンダニ氏はアメリカ海軍特殊戦コマンド(Naval Special Warfare Command:NSWC)を訪問して、N9と呼ばれる2020年初頭に設置された将来の戦争やイノベーションについて研究を行うチームと軍事におけるAIの優位性と戦略と将来の戦争がどう変わっていくのかについて議論した。N9では米国防総省や関連の防衛機関、AI開発を行っている企業と協力して、軍事オペレーションにおける最新技術の活用による戦場での精確性、致死性、スピードの向上、コストと危険の削減に関する研究を行っている。

 ムルチャンダニ氏は「我々は特殊作戦軍(Special Operations Command : SOCOM)と連携しながら、AIに関する重要なイニシアティブになるような研究をしています。今回の海軍特殊戦コマンドの訪問で、皆さんとも協力関係を拡大していきたいと思っています。海軍特殊戦コマンドではAIなど最新の技術力を活用した兵器の活用に向けた開発やテストを行っています。それらは将来の戦争において非常に重要になります。アメリカ軍にとってリアリティのある戦術を見出していけるように海軍特殊戦コマンドと協力していけることを期待しています」と語っていた。

 アメリカ海軍特殊戦コマンドはテロ組織への対応策やロシア、中国、北朝鮮、イランといった仮想敵に対する戦略を講じており、その中でもアメリカ軍は戦場におけるロジスティックやメンテナンスにおいてAIの支援を拡大することを予定しており、戦争におけるAIの重要性が高まってきている。海軍特殊戦コマンドのN9のキャプテンのクリスチャン・ダンバー氏は「海軍特殊戦コマンドは歴史的にも新しい技術を常にいち早く取り入れてきました。AIは既に戦争の在り方と雇用体系を変えようとしています。AIを活用した自動化と自律化は戦場の在り方を根本的に変えていくでしょう」と語っていた。戦争におけるAI活用として「AIによる操縦」「AIによる諜報活動(インテリジェンス)」「AIによるコマンド・アンド・コントロール」「AIによる銃撃・攻撃」がある。

 海軍特殊戦コマンドN9のブルース・モリス氏は「N9ではAIが戦争において重要な役割を果たすことは理解しており、2030年の海軍特殊戦コマンドのビジョンの達成に向けてAIが大きな役割を果たすことは間違いない。我々の究極の目標は軍隊のデジタル化によって、将来の非対称戦において勝利することであり、我々はそれに向けて現在順調に進んでいます」と語っていた。

 テロ組織との戦いだけでなく、「Kamikaze Drone(神風ドローン)」と呼ばれる安価な攻撃型ドローンや、AIを搭載したロボット兵器による攻撃など非対称な戦争が増加することが想定されている。また軍事にAIを活用しようとしているのはアメリカだけでなく、他の国々も同様である。そして従来の戦闘力と異なり、AIを活用した軍事力においてもアメリカが優位に立てるとは限らない。AI技術力の高い国と低い国での階層関係にある国家間での紛争も起こりうるし、アメリカが他国よりもAI技術力が高いとは限らない。特に中国もAI開発と軍事力への応用は注力している。AI技術力が低い国から高い国へ、AI技術力が高い国から低い国へといったAI技術力に差がある階層関係にある国家間でいわゆる非対称戦が起こりうる。そういった非対称戦に備えても多くのデータや情報を収集し機械学習させることによってAIを強化し、そのAIを軍事力に活用することによって、将来の非対称戦も勝ち抜いていこうするアメリカ軍の意志が表れている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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