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イエメン:予防可能な病気で10分に1人、子どもが死亡「和平が健康への唯一の道」

佐藤仁学術研究員・著述家
(UNICEF提供)

 ユニセフ(国連児童基金)とWHO(世界保健機関)が共同でコレラの予防接種キャンペーンをイエメンで実施していた。15歳未満の子ども16万4000人を含む30万6000人以上の人々がコレラの予防接種を受けた。

イエメンの子供たち(UNICEF提供)
イエメンの子供たち(UNICEF提供)

イエメンで蔓延するコレラ

 イエメンでは2017年4月以降、コレラが疑われる症例が120万件以上報告され、コレラでの死亡数が2515件にのぼり、近年最悪のコレラの流行のひとつとなった。予防接種は、これ以上の感染拡大を防ぐために必要不可欠とされている。今回の予防接種キャンペーンは、3つの保健区の54万人を対象。コレラの予防接種が必要な人はまだたくさんおり、さらに何百万人の子どもたちがポリオ、はしか、肺炎などの予防可能な病気に対する予防接種を必要としている。

10分に1人、予防可能な病気で子どもが死亡

 イエメンでは10分に1人の割合で、子どもたちが予防可能な病気が原因で命を落としている。そのため、予防接種は生死を分けるものだ。しかし、イエメンの保健制度は崩壊寸前の状況だ。水道施設や保健施設などの生活に欠かせない社会インフラ施設あるいはその周辺に対して日々攻撃が行われており、医療資材は不足しているだけでなく、ほとんどの保健医療従事者は過去2年間給料を支払われていない。

 子どもたちの間に広がる急性栄養不良は、彼らをさらに下痢を伴う病気にかかりやすくしている。ユニセフとWHOは、紛争当事者に対して、国際法を守り、社会インフラ施設に対する攻撃を止め、イエメンの必要とするすべての子どもたちに支援を届けるために安全で、無条件かつ継続的な移動を保証するよう求めている。

予防接種を受けるイエメンの子供たち(UNICEF提供)
予防接種を受けるイエメンの子供たち(UNICEF提供)

「究極的には和平が健康への唯一の道」

 ユニセフ事務局長ヘンリエッタ・フォア氏は「この予防接種キャンペーンの成功は、攻撃が止み、人道支援を届けることが可能になったとき、私たちが協力して子どもたちと家族に何を出来るかを示してくれました。しかし、今回は緊急的な措置でしかありません。紛争への包括的な政治的解決のみが、この国全土の子どもたちの幸福(健康)を確保できるのです」とコメント。

 WHO事務局長テドロス・アダノム・ゲブレェサス氏は「予防可能な病気で命を落とすなど、受け入れがたいことです。今回の攻撃の一時停止により、コレラの予防接種キャンペーンを終了できました。予防接種は人々が必要とする数多くの保健サービスのうちのひとつです。究極的には、和平が健康への唯一の道なのです」とコメント。

 イエメンのホデイダとイブの3つの保健区で3000人の保健員を動員して実施された今回の予防接種キャンペーンは、「静かな日々」と呼ばれる紛争当事者間が合意した攻撃の一時停止により可能になった。 「静かな日々」は人道支援従事者がイエメンの弱い立場にある子どもたちと家族のもとに行き、世界最悪の人道危機に見舞われた彼らが生き抜くための支援を提供するための前向きな一歩になった。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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