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ハリー王子にトム・クルーズと同じ賞。「セレブのエゴをくすぐるだけ」「なぜ彼に?」と疑問の声

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
航空界のレジェンドに与えられる賞を授与されたハリー(ヘンリー)王子(写真:REX/アフロ)

 ハリウッドはアワードシーズン真っ盛り。年が明けてからというもの、連日のように授賞式やアフターパーティ、ノミネーション発表が続き、セレブは大忙しだ。そんな中、現地時間19日(金)には、ハリー(ヘンリー)王子が受賞者として舞台に立った。

 彼に与えられたのは、「Legends of Aviation」賞。その名の通り、航空界に貢献した人々に与えられる賞だ。主催は、子供たちに航空業界への興味を持ってもらうことを使命とする非営利団体キディ・ホーク航空アカデミー。基本的にハリウッドとは関係がないが、過去にこの団体から賞を受け取った人たちには、トム・クルーズ、ハリソン・フォード、カート・ラッセル、ジョン・トラボルタ、モーガン・フリーマン、アンジェリーナ・ジョリーら飛行機を操縦する映画スターたちも含まれる。

 この夜のホストを務めたのは、トラボルタ。授賞式のテレビ中継はなかったが、YouTubeに投稿された映像を見ると、受賞スピーチでハリー王子は開口一番、「あなたが僕のママとダンスをした時、僕はまだ1歳でした。たぶんあなたはその話を毎晩みんなに語ってきたのでしょうね。でも、今、こうやって一緒にいるのは素敵です。僕たちが一緒にダンスすることはないかもしれなくても、一緒に飛ぶことはできますよね」と、トラボルタに語りかけている。1985年11月、当時の大統領ロナルド・レーガンに招待されたダイアナ妃とトラボルタがホワイトハウスで一緒にダンスをしたのは、有名な出来事だ。

1985年、ダイアナ妃とジョン・トラボルタはホワイトハウスで一緒にダンスをした
1985年、ダイアナ妃とジョン・トラボルタはホワイトハウスで一緒にダンスをした写真:ロイター/アフロ

 カップル社会の欧米では、こういった授賞式に配偶者または恋人を同伴するのが普通。配偶者や恋人は、愛する人が賞をもらえることを誇りに思い、支えるためにそこにいるし、受賞者はそんな相手に対して受賞スピーチの中で愛と感謝の言葉を捧げる。しかし、ハリー王子は、この晴れの舞台にメーガン妃抜きで出席し、スピーチでも妻や子供たちに向けた言葉は何もなかった。

 また、報道によれば、ハリー王子は授賞式につきもののレッドカーペットもすっ飛ばして会場に入ったようである。Spotifyからは契約を切られ、Netflixとの契約も王室批判をネタにした「ハリー&メーガン」以外ヒットがなく、新たなプロジェクトの話もないままの彼らは、ハリウッドのキャリアという意味ではお尻に火がついた状態。夫婦仲の良さとドレスアップした美しい姿を世間に披露できるレッドカーペットは、ブランドのために良い機会だったはずだ。しかし、最近は、チャールズ国王とキャサリン妃に健康上の不安が浮上したばかり。そんなタイミングだけに、派手な行動を避けようという配慮もあったのかもしれない。

ハリー王子と聞いて航空界を思い浮かべる人はいるのか

 ハリー王子は、イギリスの軍隊に所属していた頃、アパッチヘリコプターのパイロットを務めていた。「People」が報じるところによると、特訓期間中、最高の共同パイロットとして賞をもらったこともあるという。昨年出版された回顧録「Spare」にも、ハリー王子は、「僕の数字(殺したタリバン戦闘員の人数)は25。その数字に満足を感じるわけではないが、恥とも思わない」と書いた。その記述には批判の声も寄せられたが、ハリー王子は「そういった詳細をあえて語ったのは、退役軍人の自殺を阻止したかったからだ」と弁明している。

 それはさておき、ハリー王子が軍隊の一員として生活し、アフガニスタンを戦った勇気と愛国心は、以前から評価されてきた。その経験から、負傷した退役軍人のためのスポーツの祭典インビクタス・ゲームを立ち上げたのも、ポジティブなことだ。それによって救われた人たちの姿は、ハリー王子が製作したNetflixのドキュメンタリーシリーズ「ハート・オブ・インビクタスー負傷兵士と不屈の魂―」でも描かれている。

ドイツでインビクタス・ゲームを観戦するハリー王子とメーガン妃
ドイツでインビクタス・ゲームを観戦するハリー王子とメーガン妃写真:ロイター/アフロ

 それでも、今回、「レジェンド(伝説)」と名の付く賞を与えられたことには、疑問の声も聞かれる。英海軍武官の元司令官ロード・ウエストは、イギリスのメディアに対し、「彼は航空界の生きた伝説ではない。そうであるかのように言うのはばかげている。彼が選ばれたなんて信じられない。軍隊にいる間、彼は並外れた操縦の腕を見せたわけではない」、「話題を集めたいだけなのだろう。すべてが茶番だ」とコメント。リチャード・ケンプという名の元大佐も、この賞について「セレブリティがお互いのエゴをくすぐり合うためのもの」と一蹴する。

 王室コメンテーターのジョナサン・サチェルドティも、Foxニュース・デジタルに対し、「彼のことを航空界の人だと思う人なんて、いるのか?彼の名前を聞いた時、それは最初に浮かぶことではない。いや、最初に思いつく10個の中にも入らない。確かに彼はパイロットだし、イギリス空軍に所属した。だが、それは航空界への大きな貢献と言えるのか?本当に多くの貢献をしてきたパイロットは、この話を聞いてどう思うのだろう」と厳しく指摘。さらに、「彼と彼の妻がどんどん面白くなくなり、古い話になるにつれ、この奇妙な賞のように、変な話にかかわるようになってきた」と、辛辣なコメントをした。

 やはり王室のエキスパートであるヒラリー・フォードウィッチも、「何の基準を持って同じように従軍した人より彼のほうが秀でていると決めたのか」と疑問を投じる。彼女はまた、「これは『South Park』の新たなネタとして使われることになると予測しよう」とも皮肉を付け加えた。

王室離脱から5年目の今年はどんな年に?

「South Park」は、アメリカの人気アニメ番組。昨年、この番組は、「World Privacy Tour」というタイトルの回でハリー王子とメーガン妃をネタにし、大ウケをした。番組に彼らの名前は出ず、カナダの王子とその妻という設定にはなっているが、どこから見ても誰であるかは明白。「プライバシーがほしい」と言いつつわざと目立つ行動を取り続け、周囲を辟易させるという筋書きだ。これとは別に、昨年は、もうひとつの長寿アニメ番組「Family Guy」でも、たいしたこともしないのにNetflixから多額の契約金をもらっていることをネタにされている。

 専門家が予想するように、この賞はジョークのネタとしてこれらの番組のクリエーターやコメディアンたちを喜ばせることになるのだろうか。それとも、それにすらならないのか。どちらであっても、彼らにしたら面白くないことだろう。そうではなく、ハリウッドの映画スターと同じ賞をもらったことを、新たな年のポジティブなスタートにしたいに違いない。だが、果たしてそれはかなうのか。王室離脱から5年目に入る今年、彼らのブランドは、これまで以上に試されている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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