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ハリウッドのストライキ「9月上旬に終わる」は本当か?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
WGAとAMPTPは、明日、ようやく話し合いを再開するが…(筆者撮影)

 膠着を続けてきたハリウッドのストライキに、少しだけ前進の兆しが見えた。スタジオや配信会社を代表する全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)が、全米脚本家組合(WGA)に、話し合いの再開を提案してきたのである。そのミーティングは、現地時間4日(金)に行われるとのことだ。

 WGAがストライキに入ったのは、5月2日。WGAが求めることと、AMPTPが受け入れることの間にはあまりに開きがありすぎ、ストライキ突入前から両者の話し合いは断絶していた。ストライキ中も、一度も話し合いの席には着いていない。そんなところへ、ようやく話し合いをしようと言ってきたということは、AMPTPは多少なりとも妥協を決めたと想像される。

 それとは別に、現地時間3日には、AMPTPの一員であるワーナー・ブラザース・ディスカバリーのCFOが、第二四半期の業績報告中、「(ストライキが終わって)仕事に戻れるのは9月上旬と見ている」と発言している。WGAのストライキは始まってから今日で94日目。もし9月上旬に終わるとなると、120日か130日続いたことになる。2007年から2008年にかけてのストライキは100日弱、1960年のWGAと全米映画俳優組合(SAG:現在は合併してSAG-AFTRAとなったが、当時はAFTRAとは別の団体だった)のダブルストライキは148日だったので、ほぼ同じくらいで終わるという読みだ。

 自分たちは組合より強い立場にあると信じているにしろ、スタジオ、テレビ局、配信会社も、そのあたりには製作が戻ってきてくれないと、本音では困るだろう。アメリカでは9月から10月にかけて始まるメジャーネットワークの新シーズンはすでに完全に遅れを取ってしまったが、9月なかばまでにストが終われば俳優たちに秋から年末にかけての映画の宣伝活動をやってもらえることになり、公開予定の映画を延期しなくて良くなる。作品のストックがある配信会社にしても、人気シリーズの撮影が止まったままでは次のシーズンの配信開始が遅れてしまい、会員数減少につながりかねない。先月、AMPTPの関係者は、「Deadline.com」に対し、脚本家たちがついに泣きついてくるであろう10月なかばまでは引っ張ると語っていた。9月上旬はそれよりやや早いが、つまり、もともとストライキは秋頃までと想定していたのではないか。

組合側は重要な要求を諦めない構え

 しかし、AMPTPの思惑通りに行くだろうか?

 もちろん、俳優と脚本家は1日でも早くストライキが終わることを望んでいる。だが、今回、俳優と脚本家は、目先の収入アップではなく、職業の存続をかけてストライキをしており、要求の最も重要な部分を諦めるつもりはさらさらない。SAG-AFTRAのプレジデントで交渉リーダーのひとりを務めるフラン・ドレッシャーは、今週、テレビに出演し、「あと6ヶ月はストライキを続ける準備ができている」と語っている。また、WGAの交渉リーダー、エレン・ストゥーツマンも、AMPTPとの交渉再開前夜である現地時間3日、組合員に宛てたメールで、「私たちは94日もデモ行進をしてきました。今日、そして将来にわたって、ライターという職業が立派に存続できるために。目的を半分だけ達成するために、自分たちにここまで犠牲を強いてきたのではありません。だから、金曜日のミーティングに、AMPTPにはフェアな契約をするつもりでやって来て欲しいです。あなたたちのビジネスのやり方のせいでストライキが起き、この業界の人たちが受けた打撃を修復するつもりで」と書いた。そうでないなら、苦しくてもストライキはやめないという宣言だ。

 ここまでを振り返るに、AMPTPが、WGAが最も重要視することをあっさり飲むつもりでやって来るとは考えづらい。たとえば、ひとつの作品に最低何人、最低何週間雇わなければいけないというルールを作るという要求を、AMPTPは鼻にも引っかけてこなかった。視聴数を反映させたレジデュアル(再使用料あるいは印税)を払って欲しいという要求に対しても、AMPTPの態度は同様だ。それに、AIの規制の問題もある。

 配信のレジデュアルとAIはSAG-AFTRAの要求の中にもあるので、もしAMPTPがWGAに歩み寄って合意を達成することができれば、俳優との交渉にもはずみがつくだろう。だが、そう簡単だったら、そもそもここまでこじれていないはずだ。現地時間金曜日のWGAとAMPTPの話し合いで、何が見えてくることになるのか。業界は、不信感と不安、多少の希望を抱きながら注視している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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