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ハリウッド俳優と脚本家のストライキ、バイデン大統領の再選キャンペーンにも影響

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
レディ・ガガと。バイデン大統領の支持者はハリウッドに多数(写真:ロイター/アフロ)

 まもなく4ヶ月目に差し掛かろうとしている脚本家のストライキと、開始から丸々2週間が経過した俳優のストライキが、政治にもちょっとした影響を及ぼしている。TMZが報じるところによると、ジョー・バイデン大統領は、これらのストライキが終わるまでロサンゼルスでの選挙資金集めイベントを行わないと決めたとのことだ。

 圧倒的に民主党支持者が多いカリフォルニアは、バイデンにとって重要な州。2020年の選挙では、選挙活動費の21%がカリフォルニアで集められた。お金と影響力を持つハリウッドスターは参加費が高額なこれらのイベントに積極的に参加し、中には豪邸を会場として提供してくれるセレブもいる。次の選挙のためにも家を提供するというオファーがすでにかかっているという。

 しかし、今ロサンゼルスに来ないのは正解だろう。ストライキで仕事ができない俳優と脚本家が、フードバンクやいくつかの善意あるレストランに食料を頼りつつ、フェアな報酬を求めて猛暑にも負けずデモを続ける中、同じ街にやって来て、どこ吹く風というように美しいドレスをまとった人々に囲まれながら巨額なお金を集め、去っていくというのは、どう考えてもずれている。バイデンは労働者と組合の味方で、俳優のストが始まった今月14日にも、スポークスパーソンを通じて「大統領は、俳優を含むすべての労働者がフェアな報酬と福利厚生を得るべきだと信じます。大統領は労働者がストライキをする権利を支持します。両者にとって利のある合意が達成されることを願います」と声明を出している。ストライキをする人々を思いやる意味で、その判断はふさわしい。

 俳優と脚本家を支持するのは、ほかの民主党議員も同様だ。今週、カリフォルニアの民主党議員37人は、「これらのアーティストたちの貢献は、アメリカ人が受ける娯楽にとって欠かせないものである」とし、俳優と脚本家がストライキをする権利を支持しつつ、両者が互いに敬意を持ち、交渉をするよう奨励する手紙を全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)と全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)に送った。この手紙を主導したジミー・ゴメス下院議員は、AMPTPが「彼らが破産して、家を失うまでストライキを続ける」と言っていることや、デモをする人に陰を与えてくれていた木を切るような嫌がらせをすることに対し、「そのような手段はストライキをする人たちをより強く結託させるだけだ」と批判。この手紙はスタジオや配信会社に「政治家たちは関心を持って行方を見つめている」と知らしめるために出したものだと、「Los Angeles Times」に語っている。

両者はあまりにもかけ離れていて仲裁しづらい

 ロサンゼルス市長カレン・バスも、SAG-AFTRA、AMPTP、全米脚本家組合(WGA)に会って話を聞いたとのことだ。しかし、今のところ積極的に仲裁する姿勢は見せていない。カリフォルニア州知事ギャヴィン・ニューサムも、両者が望むのであれば仲裁に入るつもりでいるが、スポークスパーソンは「今はまだその時ではない」と述べている。

 今現在、仲裁に入りづらいのは、組合側とスタジオ、配信会社側が、鍵となる部分であまりにかけ離れているからだ。まず、配信のレジデュアル(再使用料あるいは印税)がヒットに応じて支払われるべきだという件。俳優と脚本家は、今のように低い一定額しかもらえないのは不当だと感じており、これは譲れない部分である。だが、スタジオ、配信会社にそのつもりはまるでなく、「この件のせいで話し合いが膠着するから要求リストから外してくれ」と言ってくるほどだ。また、俳優の最低賃金に関して、俳優側は当初、初年度15%アップを要求し、最終的に11%まで折れたが、AMPTPは5%でも「寛大だ」と思っていて、そこから動かない。SAG-AFTRAは、5%ではとても物価上昇に追いつけないと、その数字を受け入れることを断じて拒否する。

 一方、脚本家は、配信会社が少人数の脚本家を短期間雇い、大量の仕事をさせる状況を改善すべく、すべての作品で、最低何人の脚本家を最低何週間雇わなければいけないという新たなルールを求めているが、AMPTPはこの要求を「ありえない」とまるで無視している状態だ。これについては話し合うつもりもないのである。加えて、AIの問題もある。

ストライキは来年1月か2月まで続く?

 俳優、脚本家は、自分たちがスタジオ、配信会社に搾取されていると感じ、フェアな労働条件を勝ち取らなければ職業自体の未来がないと危惧している。スタジオ、配信会社は、利益を出さなければいけないプレッシャーがあり、社員をレイオフしているところで、さらにパンデミックの打撃もあった今、俳優や脚本家が突きつける要求は「非現実的」だと見ている。

 膠着状態が続けば、業界は計りしれないダメージを受ける。しかし、SAG-AFTRAの交渉リーダーであるダンカン・クラブツリー=アイルランドは最近、ストライキは来年1月か2月まで続くかもしれないと述べている。今週は、広報担当者たちも悲鳴を上げ始めた。俳優たちが宣伝活動を許されないため、彼らも仕事がなく、ストライキが長引けば閉鎖する広報事務所も出てくるだろうと彼らは予測している。

 来年2月から2024年の大統領選まではわずか9ヶ月しかない。そこまでロサンゼルスに来られないとなるとバイデンの再選キャンペーンも困るだろう。誰もが解決を願っているこの労働交渉は、果たしていつ解決するのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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