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俳優ストライキ初日。「高級ヨットを買える生活がしたいと言っているわけじゃない」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
Netflixのオフィスが入ったビルの前に集まった俳優と脚本家(筆者撮影)

 全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキがいよいよ始まった。

 初日の現地時間14日、俳優たちは、午前9時からディズニー、パラマウント、ワーナー・ブラザースなどメジャースタジオや、Netflix、アマゾンなど配信会社のオフィスの前に、プラカードを持って集合。2ヶ月半前からピケを張ってきた全米脚本家組合(WGA)の仲間たちと一緒になって、抗議のマーチをした。

 この光景はすでにお馴染みだが、俳優たちが入ったおかげで人数が倍以上になり、インパクトがさらに大きくなったのは明らかだ。通りかかる車は、支持を表明するべくクラクションを鳴らす。脚本家のストライキが始まってしばらくした頃、「警告の必要がないのにクラクションを鳴らすのは道路交通法違反」との通達も出たせいか、最近はあまり聞かれなくなっていたが、今日は誰もが鳴らしていて、すごい音量だ。プラカードに「honk!(クラクションを鳴らして!)」と書き込んでいる人もいるし、サンセット通りにあるNetflixが入っている建物の前では、クラクションを鳴らしてもらうことを奨励すべく、数人の俳優たちが通りかかる車に向かってプラカードを振っている。同じように、パラマウント・スタジオがあるメルローズ通りでも、クラクションを鳴らす車が頻繁に行き交う。

 ここ40年以上もストライキをしていない俳優たちが入ったことで、ピケを張る現場にも新たな活気も出た感じだ。これだけの人が集まるので、車を停める場所を探すのも容易ではないが、かなりの距離を歩いてきて現場に到着した人々の表情には、ポジティブさが溢れている。今日のロサンゼルスの最高気温は31度。湿気はないものの、陽射しは強く、建物の前には日陰もない。現場を仕切るスタッフのひとりは、「日焼け止めを忘れないで」と組合員たちに呼びかけた。それに対して、「日焼け止めをしていてもみんな真っ黒になるよ」と笑う声が聞こえる。みんな元気いっぱいだ。

「法外なことなど何も求めていない」

 SAG-AFTRA のトップによる昨日の記者会見の影響も大きかったのではないか。プレジデントのフラン・ドレッシャーによる「私たちは欲の被害者なのです」「彼らは金がない、儲かっていないというけれど、CEOは何億ドルもの報酬を得ているのです」という感情的な訴えも、ナショナル・エグゼクティブ・ディレクターのダンカン・クラブツリー=アイルランドによる「私たちが求めていることすべてをかなえても、彼らの経営にはまるで支障が出ないのですよ」という言葉も、俳優たちはもちろんのこと、脚本家たちをも鼓舞したと思われる。

 クラブツリー=アイルランドはまた、1960年のストライキの意義を組合員に思い出させることもした。あのストライキで、俳優組合は、映画がテレビ放映された時にレジデュアルと呼ばれる再使用料をもらえること、スタジオに俳優の健康保険や年金プランへ貢献してもらうことを勝ち取ったのだ。「今、1960年のストライキはやらなくてもよかったのにと言う人はいないでしょう」と、クラブツリー=アイルランド。その時と同じで、仕事ができないのは辛くても、将来のためにここで折れてはいけないと、組合員たちは確信している。

 サンセット通りで現場を仕切っていたスタッフのひとりは、メガホンで「私たちの要求のどこが法外?高級ヨットを買える生活がしたいと言っているわけじゃないんだよ」と訴えた。それはまさにストライキを通じて俳優たちと脚本家たちが主張していることだ。配信が台頭してそれまでのビジネスモデルが崩壊したせいで、ミドルクラスの生活をすることが難しくなってしまった。彼らが求めるのは、新しい時代を反映したシステムを作り、正当な報酬をもらえるようにすることだ。しかし、スタジオや配信会社は、俳優組合と脚本組合に提示した自分たちのオファーはとても寛大だと信じていて、それ以上歩み寄ろうとしない。

「話したいと言ってくれば、私たちは今晩でも話す」

 この睨み合いっこがいつまで続くのかは、誰にも読めない。ただ、そう簡単に収まらないであろうことは明らかだ。脚本家に対して、スタジオ側は、破産して、家賃を払えなくなって泣きついてくる人が出てくるであろう10月を見据えているというし、俳優のストライキに関しては9月上旬ごろまでではないかとの予想がちらほら見られる。一方では「それは楽観的すぎる」と、もっと長引くと見る声も聞かれる。

 昨日の記者会見で、クラブツリー=アイルランドは、「(スタジオと配信会社が)話したいと言えば、私たちは今晩にでも話し合いに応じます」と言った。経済への打撃を心配するロサンゼルス市長カレン・バースは、現地時間14日、声明を発表し、自ら仲裁に入ることを買って出ている。それを実現させてくれるのが誰であれ、建設的な話し合いの一刻も早い始まりが待たれる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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