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終わりの見えない脚本家ストライキ。さらに俳優のストまで始まるか?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ピケを張る脚本家たち(筆者撮影)

 全米脚本家組合(WGA)がストライキを始めて、ほぼ2ヶ月近く。メジャースタジオや配信会社のオフィス、撮影スタジオの前では、あいかわらずプラカードを掲げた脚本家たちがピケを張っている。

 正当な報酬をもらうために闘っている脚本家たちを多くの人は支持し、その気持ちを表明するため、行き交う車はクラクションを鳴らす。だが、ここまで長く続くと、近所の住人からは音がうるさいと不満の声も聞かれ始めた。ワーナー・ブラザースのスタジオ近くには、ほかの車に警告が必要な時以外にクラクションを鳴らすのは州の交通法に反すると知らしめる電子掲示板が設置されている。

 ピケをくぐり抜けて中に入るのは、気持ちの良いものではない。そのため、ストライキが始まっても撮影を続けてきた作品にも諦めて中断するケースが増え、経済的影響はより深刻になってきた。撮影がストップすると、現場の人たちはもちろんのこと、ケータリング、ドライクリーニング、運転手など多くのビジネスが打撃を受ける。

 しかし、肝心の交渉は、膠着したまま。それどころか、WGAと全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)は、話し合いのテーブルにも着いていない。両者の要求に開きがありすぎ、どちらも妥協の姿勢を見せず、ダンマリの睨めっこ状態なのだ。そこへ来て、いよいよ俳優たちまでストライキに入るかもしれない危機が迫ってきた。全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)の現行の契約は今月末で終了となり、SAGとAMPTPは新たな契約について話し合いをしているのだが、もし合意が得られなかった場合、ストライキに入ることを組合員は投票で可決しているのである。

 もっとも、SAGの代表の話によれば、交渉は順調に進んでいるとのこと。現地時間先週土曜日、リーダーらは組合員らに1分半弱の動画メッセージを送り、「ここまでの話し合いは非常に生産的」で、「俳優たちの貢献をリスペクトしたものでありつつ、スタジオ、テレビ局、配信会社にとってもフェアな契約を取り付けてみせる」と伝えた。WGAが古い契約が切れるかなり前からストライキは避けられないと見て、早々とプラカードを作っていたのと違い、ストライキをすることを可決したとはいえ、SAGはできるかぎり避けようとしているのだと思われる。

 ただし、本当にそううまくいくのかどうかはわからない。内部の状況に詳しい人がVarietyに話すところによれば、最も重要な事柄で、両者は大きくかけ離れているというのである。それはWGAの要求事項にも含まれる、配信におけるレジデュアルの問題だ。

アクセス数の公開を嫌がる配信会社

 レジデュアルとは、自分がかかわったテレビや映画が再放送されたり、DVDになったりするたびに発生する再使用料。これがあるから、俳優や脚本家は、仕事がない時もなんとか乗り切っていけるのだ。だが、伝統的なテレビや映画と違い、配信は、自分の出た作品が何度アクセスされたのか、目に見えない。そして配信各社は、それらの数字を秘密にしたがる。たまに何かが大ヒットすると誇らしげにニュースレターを出すことはあったりするものの、数字は基本的に、常に謎に包まれている。配信もレジデュアルは提供するが、最初に決められた一定の額で、爆発的にヒットしたとしても、それが反映されることはない。

 脚本家と俳優は、それはフェアではないと見ている。何かがヒットして収益につながったなら、貢献した人たちもその恩恵を受けるべきであり、ボーナスが支払われるべきだというのが彼らの主張だ。しかし、それをやるためには、映画の興行成績のように、配信のアクセスデータも公開されることが必要となる。

 現状では、アクセスを調べる方法自体も配信会社によって違うため、そこからして困難だ。それについてSAGは、パロット・アナリティクス社に統一して計算することを提案している。このリサーチ会社は、検索数、ファンサイト、ソーシャルメディアでどれほど話題になったかなどを総合して、それぞれの作品のヒットの度合いを判断している。

 だが、配信会社は、第三者の数字に頼ることに否定的だ。たとえば、有名俳優がソーシャルメディアで自分の新作について投稿したら反応はあるかもしれないが、それがそのまま作品へのアクセスにつながるとはかぎらない。配信会社にしてみたら、収益をもたらさなかったものに対してボーナスを払いたくはないのである。

 交渉の行方は、SAGがこの壁を打開する方法を見つけられるかどうかに大きくかかっていそうだ。もしそれに成功すれば、WGAにも道が開けるだろう。配信各社も頑固を通すのでなく、俳優(もちろん脚本家もだが、今、積極的に話をしているのは俳優なので、まずはそこから)の言い分を理解して、歩み寄るべきだ。そもそも、俳優たちがいてくれるからこそ作品が出来るのだということを、忘れてはならない。

ストライキを予期し、多数がサンディエゴ・コミコンを欠席

 しかし、その期限も、あと3日しかない。SAGは、締め切りを過ぎても延長して話し合いを続ける姿勢のようだが、AMPTPも同じ考えなのかどうかはわからない。AMPTPがそこで話し合いをやめてしまったら、ここでも膠着してしまう。

 すでに、マーベル、ソニー、ユニバーサル、Netflix、HBOは、来月中旬開催のサンディエゴ・コミコンに参加しないと発表した。ストライキ中とあれば、俳優に来てもらって登壇してもらうことはできないからだ。NBCは、俳優のストライキがなければ参加するとのこと。ワーナー・ブラザース、Apple TV+は、判断をしていない。まだなりゆきを見たいのだろう。

 ハリウッドにとって大事な新作のプロモーションイベントであるサンディエゴ・コミコンを逃すのは、とても痛い。しかし、話し合いに合意が得られなければ、もっと痛い状況が待っている。果たして来週、ハリウッドはどんなところにいるのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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