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英国アカデミー賞の受賞結果に「白すぎる」と大批判

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
助演男優賞を受賞したバリー・キオガン(写真:ロイター/アフロ)

 現地時間19日に発表された英国アカデミー賞(BAFTA)の受賞結果に大きな批判が起こっている。受賞した人たちが白人だらけだったからだ。

 作品賞を受賞したのは、白人キャスト、白人監督のドイツ映画「西部戦線異状なし」。主演男優賞は「エルヴィス」のオースティン・バトラー、主演女優賞は「TAR/ター」のケイト・ブランシェット。助演男優賞と助演女優賞は「イニシェリン島の精霊」のバリー・キオガンとケリー・コンドンだ。

 ここまで助演男優部門で連勝してきたアジア系俳優キー・ホイ・クァン(『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)を制して白人のキオガンが賞をかっさらったのは、とりわけ象徴的。アジア系キャストが中心であるこの映画自体も非常に勢いがあり、監督コンビのダニエル・クワンとダニエル・シャイナートは栄誉ある監督組合賞(DGA)を受賞したばかりだが、英国アカデミーが今作に与えたのは編集賞のみだった。しかも、エディターのポール・ロジャースは白人だ。

 ほぼ完全に真っ白な受賞者の集合写真は、多くの人にショックを与えた。ツイッターには、「#BaftaSoWhite」のハッシュタグと共に、さまざまな批判コメントが寄せられている。

 ある人は、「全員白人の受賞者の方々、おめでとう」と皮肉をツイート。別の人は「これは意図的な排除で差別。すごくイギリス人らしい」と投稿した。その投稿に対しては、賛成の声もあれば「彼らは演技がよかったから受賞したのでは?肌の色のおかげというの?」「じゃあ、受賞するべきでなかったのは誰?」などというコメントも見られる。そういう疑問に対してもまた、「受賞した人たちが受賞に値するというのは関係ないんだよ。有色人種の人もBAFTAを受賞するに値するのに、今年は誰も取らなかった(ということが問題)」との反論があるし、単純に「がっかりした」という感想もあった。この「がっかりした」は、おそらくもっとも的をえているかもしれない。

 なぜなら、昨年はもっと多様性があったのだ。ウィル・スミスが主演男優賞、アリアナ・デボーズが助演女優賞を受賞したし、ライジング・スター賞は黒人女性のラシャナ・リンチだった(今年はライジング・スターも白人のエマ・マッキー)。ツイッターには「2歩進んで、10歩戻った」というコメントもあるが、まさにそんな感じだ。

ノミネーションを多様にしても、投票者は白人を選んだ

 この逆戻りに英国アカデミーが頭を抱えていることは、間違いない。アメリカの映画芸術科学アカデミー同様、英国アカデミーも、近年、多様化に向けて積極的に努力をしてきた。ノミネーションに関しても、真っ白にならないよう、審査員がバランスを考えている。そのおかげで、候補入りが有力視されながらオスカーのノミネーションに漏れた「Till」のダニエラ・デッドワイラーや「The Woman King」のヴァイオラ・デイヴィスも入った。監督部門も、前述の「エブリシング〜」の監督コンビ(ふたりのうちひとりはアジア系)のほか、「別れる決心」のパク・チャヌク、「The Woman King」の黒人女性監督ジーナ・プリンス=バイスウッドが入っている。だが、そうやって候補者を多様にしても、いざ投票となると、英国アカデミーの会員は白人を選んだのである。

 最近はアメリカでも、ハリウッドのアワードになお人種に対する偏見が潜在する事実があらためて浮き彫りにされたばかりだ。先にも述べたように、オスカーのノミネーション発表で、有力視されていた黒人女優のデッドワイラーとデイヴィスが落ち、それまでほとんど話題に出てこなかった白人のアンドレア・ライズボローが入ったこと、また全黒人キャストの「The Woman King」が完全に候補入りを逃したことがきっかけだ。

 このことを遺憾に思ったプリンス=バイスウッドは、「The Hollywood Reporter」に対し、「撮影現場に黒人はいるかもしれないが、あなたの生活の中に黒人はいないのだ」と、多様化に努力はしても、アカデミーという組織そのものが白人の組織であることを指摘した。プリンス=バイスウッドはまた、「The Woman King」の試写の後でよく投票者から「あまり見に来たいと思わなかったんだけれど(見てみたらよかった)」と言われることも多かったと述べている。つまり、映画を見てもらう以前の段階から不利だということ。白人の投票者が共感しやすいのは白人の話で、そうでないものは見てもらうだけでも容易ではないのである。

 アメリカとイギリスのアカデミーも、それをわかっている。だから、近年は投票者にマイノリティを増やし、投票母体の顔ぶれを変えてきたのだ。それでも、またこんなことが起きてしまった。多様化への道を阻む要素は、複雑で根深い。来月のオスカーが「2歩進んで10歩戻る」結果にならないよう、アメリカのアカデミーは願いをかけている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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