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全世界であいかわらず爆発的ヒットの「アバター2」、オスカー作品賞受賞の可能性は

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「アバター2」は世界興収で歴代4位のヒット映画となった

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」(以下、『アバター2』)の勢いが止まらない。

 なぜか一度も首位にならず、すでにトップ5から落ちてしまった日本にいると実感がないかもしれないが、ほかの国ではあいかわらず大ヒットしている。アメリカではデビュー以来、今に至るまでずっと首位をキープ。ひとつの映画が7週連続で北米1位に輝いたのは、「アバター」1作目以来、初めてのこと。一方、フランスでは、興行成績が1億3,000万ドルを突破した。フランスで1億ドル超えのヒットが出たのは、2014年以来、7年ぶり。「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」ですら、およそ半分の7,000万ドルだった。

 全世界興収は21億1,700万ドルで、史上4位。現在3位に君臨するのは、同じくジェームズ・キャメロン監督作である「タイタニック」だ。キャメロンは「アバター」1作目でも、当時史上最大ヒット作だった「タイタニック」を自ら打ちまかして新記録を作り上げている。それにしても、歴代のヒット作の4位までのうち3本を監督したキャメロンはすごい。

「タイタニック」は、オスカーでも、作品、監督部門を含む11部門で受賞するという快挙を成し遂げ、一般の映画ファンを喜ばせた。自分が見ていて、好きだった映画が賞を取るかもしれないと思うと人は興味を持つもので、この年、アカデミー賞授賞式は、史上最高の視聴率を獲得している。しかし、「アバター」1作目は、最後まで有力視されつつ、キャメロンの元妻キャスリン・ビグローの「ハート・ロッカー」に負けた。

「ハート・ロッカー」は、当時、歴代のオスカー作品部門受賞作の中で最も興行成績が低かった作品。女性監督による戦争アクション映画がオスカーを取ったことの意義はもちろん大きいし、この映画は賞に値する傑作でもある。しかし、「アバター」は、世界中の一般映画ファンから愛されただけでなく、その後、良くも悪くも3Dブームを巻き起こして映画の歴史に変化を与えた。そんな作品が美術、撮影、視覚効果という地味な部門でしか受賞しなかったというのは、応援していた一般人からすると、がっかりだ。

 そうでなくても、アワードシーズンに名前が挙がる作品と、ボックスオフィスで大健闘する作品の二極化は進むばかりで、業界以外ではオスカーに対する白けたムードが高まっている。多くの人が面白いと思った映画は無視され、聞いたこともない地味な映画ばかり讃えられては、「エリート気取り」と思われても無理はない。

今年は興行成績1位と2位の映画が作品賞に候補入りしたが

 ここをなんとかすること、すなわち、ヒットした商業的映画が候補入りするようにすることは、ずっとアカデミーの悲願だった。そもそも、5作品だった作品部門の枠が拡大したのも、「ダークナイト」が候補入りせず批判されたことがきっかけだったのだ。それでもなかなか思った通りの候補作ラインナップにはならず、アカデミーは「ポピュラー映画部門」を新設しようとして、これまた非難されている。

 だが、今年は、アカデミーにとってすばらしいことが起きた。興行成績で昨年の1位である「アバター2」と、2位の「トップガン マーヴェリック」が、両方とも作品部門に候補入りしたのである。では、これらの作品の受賞の可能性はどれほどのものだろうか。

 この2作品に共通するのは、ビッグスクリーンで見るべき映画ということだ。とりわけ「アバター2」(1作目もだが)は、3Dで見たかどうかで感動の度合いが変わる。つまり、テレビのスポットではなかなか良さを伝えられない。アワードの投票者は視聴リンクで作品を見ることが多く、「アバター2」もデジタルリンクを提供しているが、どれだけ多くの投票者に3Dの劇場体験をしてもらえるかは重要な要素だろう。

3Dで見るかどうかで感動体験が違ってくる
3Dで見るかどうかで感動体験が違ってくる

 もうひとつの共通点で、しかもマイナス点であるのは、どちらの作品も演技と監督部門に入らなかったことだ。演技部門にまるで候補入りしなかった映画が作品賞を受賞したことは100年近い歴史の中で12回しかなく、監督部門に候補入りしなかった作品が作品賞を受賞した例は、もっと少ない。もっとも、監督部門に関して言うなら、作品部門の枠が10本なのに監督部門の枠がその半分の5人というのがおかしいとの指摘もある。今年もまた女性監督が候補に入らなかったという批判が起こったが、枠が増えればその余裕もできる。実際、筆者も投票する放送映画批評家協会賞(Critics Choice Awards)は、今年から監督部門を10人に増やし、サラ・ポーリーが入った。オスカーにも10人分の枠があれば、キャメロンと「トップガン〜」のジョセフ・コシンスキーも入っただろう。

 さらに、「アバター2」は編集部門への候補入りも逃してしまった。一見地味だが、編集は作品部門の予想において鍵となる部門だ。編集部門に入らずして作品賞を受賞した例は非常に少ない。

そう遠くない昔には、商業的映画が作品賞を受賞していた

 とは言っても、これらの統計は、近年、あてにならなくなってきているのも大きな事実。2016年以来、アカデミーが多様化に向けて努力をし、会員数と会員の顔ぶれが大きく変わったせいだ。たとえば昨年も、「コーダ あいのうた」が、監督、編集部門に候補入りすることなく作品賞を取った。2020年の作品賞受賞作「パラサイト 半地下の家族」は演技部門に候補入りしていなかった上、外国語映画として初めて作品賞を取るという快挙を達成している。

 つまり、今年もどういう結果になってもおかしくはないのだ。どんでん返しがあってこそ、授賞式は面白い。「パラサイト〜」が受賞した時もそうだったし、フロントランナーだった「ラ・ラ・ランド」が「ムーンライト」に敗れた時もそうだった。

 もっとも、このふたつの例は、いずれもメジャーだったほうがマイナーだったほうに負け、いわゆる「通好み」を選ぶことになっている。だが、そう遠くない昔、オスカーは、「タイタニック」のほかにも「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」、「ブレイブハート」、「ダンス・ウィズ・ウルヴス」、「ロッキー」など商業的な映画に作品賞をあげているのだ。アカデミーと一般観客が同じ映画を祝福する時は、また来るのか。落ち続ける視聴率に悩むアカデミーは、そう望んでいる。

場面写真:2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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