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女優にとっての「40歳の壁」は本当だった。ジーナ・デイヴィスが語るハリウッドの男女不平等

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 男性は何歳になっても映画の主役を張れる。だが、女性は若さが命で、40歳になったらキャリアは終わり。ハリウッドで長く語られてきたその定説は本当だったと、ジーナ・デイヴィス(66)は当時を振り返る。

「私が駆け出しだった頃、メリル・ストリープ、グレン・クローズ、サリー・フィールドらがいつもメジャーな映画に出ていて、賞にノミネートされていた。だから、彼女らが『40歳の定説』を破ってくれるはずだと思っていたの。私自身も良い役をもらえていて、贅沢に選べる立場にあったしね。だけど、40歳になった途端、突然崩れたのよ。すごいショックだったわ。わかっていただろうと言われればそれまでなんだけれど」。

 デイヴィスがそう語ったのは、放送映画批評家協会(Critics Choice Association)の会員に向けたオンライン記者会見。アカデミーが多様化への努力を始め、「#MeToo」「#TimesUp」運動で女性たちが立ち上がるずっと前から映画やテレビにおける男女不平等を訴えてきたデイヴィスが、その問題について語るために開いてくれたものだ。

 デイヴィスが非営利団体ジーナ・デイヴィス・インスティチュート・オン・ジェンダー・イン・メディアを創設したのは、2007年のこと。きっかけは、2歳の娘と一緒に子供向けの番組を見るうちに、登場人物が圧倒的に男の子であることに気づいたことだ。

「子供向けの番組やビデオ、映画を見るうちに、『ちょっと待って、女の子は何人出てくるの?』と思うようになったの。男女の数に、絶対的な開きがあったのよ。つまり、私たちは、男の子のほうが女の子より大事だと子供たちに伝えているということ。それは無意識の偏見を生み出す。21世紀になってまだこんなことをやっているなんて、驚いたわ」。

 その後、デイヴィスは、機会があるたびに監督やスタジオのエグゼクティブにそのことを指摘するようにした。しかし、彼らは「それは昔の話。今は改善された」と言うだけ。そこで、数字で事実を示そうと思いついたのだ。その調査には2年を要したという。

「この件におけるリサーチでは、当時、最大規模のものだった。結果は、私が思っていた通り。いえ、もっとひどかったわね。男女の不平等はどこから見ても明白だったの。私はそれを持ってスタジオやテレビ局を訪れた。彼らは全員、強いショックを受けたわ。みんな、『知らなかった』と言った。『変えないと』と。子供向けの作品を作る人たちは、子供が好きで、子供のためにやっている。それなのに自分たちが女の子のキャラクターを十分出してこなかったのだと気づいたのよ。ある女性のトップエグゼクティブは、『私は娘を持つ母親。なのに、考えなかったなんて』と言ったわ」。

無意識の偏見が作品に反映される

 対象の観客の年齢を問わず、映画やテレビが男性優位になるのには、先ほどもデイヴィスが口にした「無意識の偏見」がある。監督や脚本家は圧倒的に男性が多く、無意識の偏見が作品にそのまま反映されてしまうのだ。

「脚本家は、女性である必然性がある場合にかぎって女性のキャラクターを書く。恋人とか、妻とか、母親とか。市長、消防士、科学者のようなキャラクターは男だと思い込んでいるの。その人たちが女性であってもかまわないのに。だから、監督やキャスティングディレクターは、そこを意識しないといけない。それらのキャラクターを演じる役者は、性別も、人種も関係なく選ぶべきなのよ。私はそうアドバイスしている」。

 男性優位のハリウッドにいながら、デイヴィスは、「テルマ&ルイーズ」「プリティ・リーグ」という、女性が主人公の大ヒット映画に出演してきた。それは誇りに思っているが、だからこそ募るもどかしさもある。

「『プリティ・リーグ』がヒットした時、『この後、女性のスポーツ映画がどんどんできるぞ』とみんなが言った。でも、そうはならなかった。その少し後に『ファースト・ワイフ・クラブ』がヒットした時も、人は『これですべてが変わる。50代の女性を主人公にした映画がたくさん作られるようになるだろう』と言った。だけど、そうはなっていない。私はそのたびにがっかりしてきたわ。結局、変わらないのよ。考えてみて。この30年に、女性のスポーツ映画がいくつ作られた?」

 それでも、この数年、ハリウッドが良い方に向かってきたことは認める。とりわけ「#MeToo」は、男性の振る舞いに大きな影響を及ぼした。

「かつては、私も、女性の同僚も、誰かに何かをされても黙っていた。どうせ信じてもらえないし、別の女優に役を取られるだけだから。でも、今は違う。オーディションのためにホテルの部屋に行けなどと言われることはなくなったし、何かが起これば話すことができる。話すべきなの。そういう状況になったことに、心からほっとしているわ」。

ジーナ・デイヴィス:1956年、マサチューセッツ州生まれ。ボストン大学で演技を学ぶ。1982年、「トッツィー」で映画デビュー。「偶然の旅行者」(1988)でオスカー助演女優賞を受賞、「テルマ&ルイーズ」(1991)で主演女優部門にノミネート。その他の出演作に「ザ・フライ」(1986)、「ビートルジュース」(1988)、「プリティ・リーグ」(1992)、「ロング・キス・グッドナイト」(1996)、「スチュアート・リトル」(1999)など。ハリウッドの男女不平等をテーマにしたドキュメンタリー映画「This Changes Everything」(2018:日本未公開)のエグゼクティブ・プロデューサーも務めた。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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