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新たにバレたアンバー・ハードの嘘。“心理カウンセラーのノート”は存在しなかった

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 アンバー・ハードの嘘が、またひとつバレた。裁判に出してくることが許されなかった「強力な証拠」は、でっちあげだったのだ。

 ハードがその嘘をついたのは、判決後に受けたテレビの独占インタビューの中。長年通っていた心理カウンセラーにジョニー・デップによるDVについて詳しく打ち明けており、そのカウンセラーのノートを証拠として提出したのだが、判事によって却下されてしまったと、彼女は語っている。インタビュアーのサヴァンナ・ガスリーが見たそれらのノートには、「彼は彼女を殴り、彼女は床に倒れた」「彼は彼女のパジャマを破った」「彼は彼女を壁に押し付け、殺してやると言った」などといったことが書かれていた。これらのノートを見ていたなら、陪審員は違う判決を出していたはずだと、ハードは無念そうな表情を見せている。

ハードが独占インタビューで見せた心理カウンセラーのノート(NBC)
ハードが独占インタビューで見せた心理カウンセラーのノート(NBC)

 しかし、その後判事の判断で封印を解除された裁判準備記録に、心理カウンセラーのノートについて何も言及がなかったのだ。裁判の前には、両方の弁護士が、自分たちは何を証拠として出すのか、誰の証言を使うのかなどを伝え、相手に対して「それは使ってはいけない」「その人の証言は出してはいけない」などと要求し、判事が判断して命令を出す。この大量の裁判記録にはそういったことがつらつらと書き連ねられているのだが、このノートについてデップの弁護士が反対したということも、判事が却下したということも、書かれていないのである。

 これは、それほど驚きではない。ハードがテレビでその発言をした時から、ソーシャルメディアでは疑問の声が上がっていたのだ。ハードとデップは、カップルだった時、ひとつの日記帳をシェアしており、そこにハードが書いたことが証拠のひとつとして裁判に出されたのだが、その筆跡と心理カウンセラーのノートの筆跡がかなり似ているのである。

 また、実際に心理カウンセラーを職業とする人からも、プロはそういうメモの取り方はしないとの指摘が出ていた。カウンセラーは話を聞きながらメモを取るため、速記のような書き方をする。ハードがガスリーに見せたもののように、細かいところまで完璧に書く余裕などないというのだ。そもそも、もしそこに書かれていることが本当ならば、カウンセラーには通報義務がある。仮にハードが実際にそんな話をしたのに通報しなかったとしたら、それはカウンセラーが彼女の話を嘘だととらえたということだ。どの方向から見ても、ハードの言うことには信憑性がない。

ハードの弁護士は約束を破った

 この裁判準備記録を読むと、ハードとハードの弁護士チームが、自分たちからデップ側に要求したことを、自分たちが守っていなかったこともわかる。

 ハードの弁護士チームは、「原告(デップ)が、(ハードの)弁護士代を誰が出しているのかを証拠として使うことは許されるべきではない。そういった証拠は、ミスター・デップがアンバー・ハードに暴力を振るったかどうかには関係がない」「それぞれの弁護士代を誰が払っているのかという証拠を、原告は証拠として出すべきではない。それは陪審員を混乱させ、偏見を持たせる危険がある」と、文書に記述している。この段階ですでに、ハードの弁護士らには、ハードが加入する保険会社のひとつから支払いが始まっていた。この保険会社がハードの弁護士らに支払った金額は、裁判が始まった頃には600万ドルにも上っている。その事実が判決に影響を与えるかどうかは不明ながら、陪審員に知られないほうが同情を得る上で有利になると、彼らは考えたのだろう。

 事実、ハードは、離婚でデップからもらった700万ドルを寄付すると宣言しつつ実際には払っていないことを裁判でデップの弁護士から問い詰められると、デップが訴訟してきたので弁護士代にお金がかかるようになってしまったからだと言い、陪審員を納得させようとしている。別の質問への答で、ハードが「600万ドルも」と言いかけた時には、デップの弁護士は強く「異議あり!」と叫んで遮っていた。さらに、最終弁論では、ハードの弁護士イレーン・ブレデホフトが陪審員らに向かい、ハードは600万ドルもの弁護士代を払ったから寄付ができないのであって、まだ寄付をするつもりはあると語りかけている。これはそもそもが嘘である上、約束破りだ。

デップはディオールとの契約を更新

 ブレデホフトは裁判の冒頭陳述から、デップがハードに暴力を振るっていた証拠は「山のようにある」と言っていた。敗訴した後も、「強力な証拠があるのに裁判で使うことを許されなかった」と負け惜しみを言っている。だが、ここへきて、説得力のある証拠など、やはりなかったことが明らかになった。そんな中で、ブレデホフトは控訴の準備をどう進めているのだろうか。ハードはといえば、最近、最大の支持者で唯一の友人であるイヴ・バーロウとイスラエルで休暇を楽しむ姿がパパラッチされたばかりだ。しかし、その写真でハードが空っぽのベビーカーを押しているのは、なんとも謎である。1歳の娘はどこかに置いてきたのか?誰かが面倒を見ているのか?では、なぜベビーカーを押しているのか?

 一方で、デップには良いこと続きだ。ライブコンサートは大盛況で、フランスでロケをする映画の撮影ももうすぐ始まる。さらに、ディオールとの契約が更新されたのだ。報道によると、複数年の契約で、ギャラは7桁台(数百万ドル)ということだ。

(ディオール・ビューティのインスタグラムより)
(ディオール・ビューティのインスタグラムより)

 デップがディオールのメンズフレグランス「ソヴァージュ」の広告に出演契約をしたのは、2015年のこと(この時、ハードはデップに、『ディオールはセンスのあるブランド。なぜあなたのようなダサい人を使うの?』と言っている)。その翌年にハードがデップからDVを受けていたと主張するようになっても、ディオールは、テレビコマーシャル以外の広告を使い続けた。6月にデップが見事勝訴すると、それを祝福するかのように、ディオールはメジャーネットワークのプライムタイムにデップが出演するコマーシャルを放映している。

 ハリウッドがデップにそっぽを向いても流されなかったディオールは、デップの支持者から強く愛され、「ソヴァージュ」の売り上げは、とりわけ裁判の間に大きく伸びた。この契約更新は、双方にとって意味をなすといえる。そしてこれは、デップにとって新しい未来の始まりの象徴だ。まだ控訴を抱えているとはいえ、デップの周囲には、いい香りが漂っている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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