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ジョニー・デップ裁判:アンバー・ハードの証言に疑問の声。「これがDVを受けた翌日の顔?」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
デップからDVを受けたという翌日、テレビに出演したハード(YouTube)

 アンバー・ハードが言っていることは本当か?ジョニー・デップが起こした名誉毀損裁判でのハードの新たな証言が、人々の間で疑問を呼んでいる。

 先に証言を行ったデップは、ハードを含め、女性に対して暴力を振るったことは人生で一度もないと主張。暴力を振るうのはハードのほうで、自分はDVの被害者だったのだと述べた。一方で、現地時間今週水曜日に初めて証言台の椅子に座ったハードは、デップからいかにひどい暴力を受け続けたのかを涙顔で劇的に語っている。それらの証言はデップの証言と完全に矛盾するが、中でもデップのファンの間で疑問視されているのは、2015年12月15日に起きたという出来事だ。

 ハードによると、この日、デップはキッチンで彼女を追いかけ回した挙句、顔を何度も平手打ちし、続いて自分の頭を彼女の鼻に強くぶつけ、彼女の髪を引っ張って別の部屋に連れ込んだ。さらに彼女をベッドに押し倒し、自分の膝で彼女の背中を押さえつけて殴ってきたという。デップによる暴力のせいで、唇は腫れ、目の周囲は黒くなり、引っ張られたせいで多くの髪が抜けた。「痛みは覚えていません。覚えているのは、彼の叫び声だけです。彼は『お前が憎い』と何度も言いました。繰り返すたびに、その声は大きくなっていきました」とハードは語っている。

 その翌日、ハードは出演作「リリーのすべて」を宣伝するために、深夜番組「The Late Late Show with James Corden」に出演することになっていた。

「このあざと腫れを隠すことはできないのではないかと、私は不安を覚えました。とりあえず一晩、氷で冷やし、翌朝、鏡でチェックした結果、賭けてみようと思い、ヘアスタイリストとメイクアップアーティストに来てもらいました。(頭皮の)ケガをした部分にスプレーが当たるとしみるので、そこを気をつけながらやってもらい、顔のあざは普段より濃いメイクで隠しました。唇からはまだ血が出ていたため、口紅はマットな赤以外、ありえませんでした。ほかに選択肢はなかったのです」とも、ハードは語った。

 だが、彼女のいうところの「The Late Late Show〜」の映像をチェックしてみると、暴力を受けた形跡は一切見られないのである。たしかにメイクは濃いものの、彼女が描写するような恐ろしい暴力を受けた翌日の顔がこれなのだろうか。

 ツイッターには、この件に関する投稿がいくつも寄せられている。それらの中には、当時の恋人クリス・ブラウンからDVを受けた後のリアーナの顔写真と比較するものや、この時に限らずハードはいつも赤のリップスティックを好んで使ってきたことを指摘する投稿も見られた。あるDV被害者は、「あなたがやっていることは本物のDV被害者への侮辱。嘘つき」というメッセージと共に、暴力を受けた1ヶ月後の自分の顔写真をアップしている。

 常にメイクでデップによる暴力の跡を隠してきたのだというのは、最初からハード側が主張してきたこと。裁判の初めの冒頭陳述でも、ハードの弁護士は、デップと一緒にいる間、ハードはいつもコンシーラーであざを隠してきたのだと、特定のコスメを陪審員に見せていた。だが、その商品はハードとデップが結婚していた頃には存在しなかったことをコスメ会社が暴露したせいで、嘘だったとバレている

 また、デップがハードに暴力をふるう様子を目撃したという証言は、今のところない。元夫妻をよく知る人たちはハードの顔にあざがあるのを見たことはないと証言しているし、DVの通報を受け、ペントハウスを訪れた警察官らも、ハードに暴力を受けた形跡はなかったと述べている。

ハード側の弱すぎる証拠

 2015年12月15日の出来事の証拠として、ハード側は、暴力を受けた後だとする顔写真をいくつか提示している。だが、それは彼女の言うような「唇が腫れ、血が出ていて、目の周りが黒くなった」という状態よりかなり弱く、ソーシャルメディアには「どこにあざがあるの?」「光の加減で工夫しているだけでは」とのコメントも見られる。

 それでも、それらの写真は、ほかの証拠に比べればまだまともだ。ハードの弁護士は大量の写真を出してきているのだが、彼女の発言の裏付けになるとは思えないものばかりなのである。

 たとえば、ハードは、ビリヤード台などが置かれた、遊びのための部屋に置かれた卓球台のようなものの上でデップに性暴行を受け、性器にボトルを押し込まれたと証言した。しかし、ハードの弁護士が見せたのは、ただ、その部屋の写真。それとは別に、ハードの弁護士は、デスクの上に酒のボトルが2本ある写真も見せた。するとハードは、それまで「自分の中に押し込まれたボトルがどんなものだったか見ていない」と言っていたのに、その酒のボトルこそそうだったと気づいて泣き出したのである。「ボトルを見ていない」という供述は変えなかったが、「四角いもののような感触がした」のを覚えているのだと彼女は証言している。

デップにボトルを挿入される性暴力を受けたというハードの証拠写真(CourtTV)
デップにボトルを挿入される性暴力を受けたというハードの証拠写真(CourtTV)

 もうひとつ焦点になっているのは、「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」のロケでオーストラリアにいる時、デップが指先を切断するケガをした時のことだ。デップは、ハードがウォッカのボトルを投げてきたせいだと言っているが、ハードは否定している。ここでもハードの弁護士が出してきたのは、荒れ果てた家の中を見せる写真の数々だった。赤ワインが飛び散っていたり、床にボトルが転がっていたり、鏡に落書きがされていたり、ベッドに血の跡がついたりしているような写真を30分近くにもわたって陪審員に見せたのだが、あくまで部屋の写真で、どこまで説得力があるのかは不明である。

 だが、ハード側は強気だ。現地時間金曜日、ハードの弁護士は声明を発表し、「ミスター・デップの話は一貫していると彼らは言いますが、彼はイギリスでの名誉毀損裁判にも負けたのですから、被害者を責め、責任逃れをするという従来のストラテジーを変えるべきではないでしょうか」「結婚している間、アンバーをがっかりさせたことのひとつに、ミスター・デップには事実とフィクションの区別がつかないということがありました」と、デップを攻撃した。彼らはまた、裁判の間、デップがハードのほうを見ようとしないことにも触れ、臆病者扱いしてもいる。

 一方でデップ側は、「ミス・ハードの話は都合の良いことがどんどん足されていっていますが、ミスター・デップの話は、彼女が最初に被害を訴えてきてからの辛い6年間、まるで変わっていません。彼の真実は、どこにいても変わらないのです」「これからやってくる反対尋問で、彼女が事実としてごまかそうとした多くの間違いがさらされることになるでしょう」との声明を発表している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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