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アレック・ボールドウィン誤射事件:実弾の出どころには24歳武器担当者の父が絡んでいた?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 映画の撮影現場にあるはずのない実弾が、どうしてそこにあったのか。

 アレック・ボールドウィン主演映画「Rust」の現場で起きた誤射事件の焦点となるその部分について、ひとつの手がかりが出てきた。その情報を提供したのは、「Rust」で武器担当者を務めたハンナ・リード(24)の父であるセル・リード(78)だ。

 セルは「3時10分、決断のとき」「カウボーイ&エイリアン」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」などで武器の担当を務めた、業界の大ベテラン。「Rust」に小道具の武器を提供した会社PDQアーム&プロップLLCの創設者セス・ケニーとも以前からの知り合いだ。そもそも、まだ映画の仕事を1本しかこなしていないハンナが「Rust」に雇われたのも、すでにこの映画への武器提供を依頼されていたセスによる紹介だったのである。

 撮影開始日が迫っても、今作のプロデューサーは、武器担当者を見つけられないでいた。経費削減を重視するばかりに、ベテランの武器担当者が「絶対必要」とする条件を満たせないどころか、ひとりに武器と小道具両方を担当してもらおうとしたため、まともな経験のある人たちから断られ続けたのだ。ロケ地のニューメキシコ州は、税金優遇制度のおかげで、近年、映画やテレビの撮影が増え、そもそも人手不足の状態。経験の浅いハンナに、武器の担当者と小道具係のアシスタントをやらないかと声がかかったのは、撮影開始まで10日もない9月27日だった。ハンナは、キャリアアップの大チャンスだと大喜びで引き受けている。

ハンナの父とセス・ケニーは直前の仕事で実弾を使用していた

「Rust」のように武器が数多く使用されるウエスタンでは、撮影前に最低でも2週間の準備期間が必要だとベテランは言う。そこで、経験の浅いハンナをフォローするべく、セス・ケニーにはこの映画の「武器担当者の指導者」という肩書きが与えられた。セスは、捜査に対し、その役割は担っていない、撮影現場に直接足を運んだことすら一度もないと主張。だが、そうやって事件と距離を置く一方、紛れ込んだ実弾が自分のところから来た可能性については完全に否定せず、自分なりの推測を供述していた。そこへ、ハンナの父セル・リードが、彼が言ったのとはまた違う推測を述べたのである。

 先月15日にセル・リードが警察に語ったところによると、彼とセス・ケニーは、「Rust」の撮影が始まる1か月か、2か月前に、別の作品で組んだ。俳優たちに射撃の特訓をするにあたり、セス・ケニーから「足りなくなった時のために実弾を持ってきて欲しい」と頼まれたセルは、200個か300個の銃弾が入った缶を持参した。それらの弾は使い切られなかったため、残りを返して欲しいと言うと、セス・ケニーは「そっちで経費として落とせばいいだろう」と、缶ごと持って帰ってしまったと、セルは述べている。それらの実弾には工場で製造されたのではないものも混じっており、「Rust」の現場で発射された弾と同じタイプかもしれないというのだ。

 もしそれが本当なのであれば、問題の実弾は、直接「Rust」にかかわっていないセル・リードが出どころだったことになる。それが娘の手を通じて、ひとりの人間を殺してしまったということだ。しかし、そうだったとしても、まだ疑問は残る。セス・ケニーは、その缶の中にあるのは実弾だと知っていた。それがなぜ「Rust」の現場に提供する偽物の弾の箱に混じることになったのか。

 現地時間今週火曜日、セス・ケニーの会社に対する捜査状が出され、現地警察は書類、銃弾、防犯ビデオなど多くのものを押収している。

「自分は引き金を引いていない」とアレック・ボールドウィン

 そんな中で、渦中の人であるアレック・ボールドウィンが、事件後初めてテレビのインタビューを受けた。メジャーネットワークABCによる、その独占インタビューが放映されるのは、現地時間明日2日夜。その予告映像で、ボールドウィンは「彼女(亡くなったハリナ・ハッチンス)はみんなから好かれていた。尊敬されていた。今もまだ信じられない。本当のこととは思えない」と、涙を流しつつ語っている。だが、インタビュアーのジョージ・ステファノプロスから「脚本に引き金を引くとなかったのに、どうしてあなたは引き金を引いたのですか」と聞かれると、「僕は引き金を引いていない。誰かに銃を向けて引き金を引くなんていうことを、僕は絶対にやらない」と断言した。

 本当に彼は引き金を引いていないのか。だとしたらどうして弾が発射されたのか。彼はまた、これは人生で起きた最悪のことだと認め、「今、思い返しては、自分は何をすればよかったのだろうかと考える」と深刻な表情で語っている。

 明日のこの番組のために、ボールドウィンは1時間20分のインタビューを受けたという。実際に放映されるのがそのうち何分なのかは不明だが、彼自身の言葉で心境を聞ける貴重な機会になることは間違いない。このほかにABCは現地時間10日放映のニュース番組「20/20」でも2時間にわたってこの事件を特集すると発表した。ここでも、ボールドウィンのコメントが使用されるとのこと。事件から6週間、謎が少しずつ解かれようとしている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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