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誤射事件映画関係者のヤバい過去:24歳の武器担当者はニコラス・ケイジも怒らせていた

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
記者会見を開いたサンタフェ警察(写真:ロイター/アフロ)

 アレック・ボールドウィン主演映画「Rust」の撮影現場で撮影監督ハリナ・ハッチンスが死亡、監督兼脚本家ジョエル・ソウザが負傷した事件が起きて、丸1週間が経つ。現地時間水曜日午前10時には、サンタフェ警察と検察による初の記者会見が行われた。会見はサンタフェ警察のフェイスブックページでライブ配信されたが、まだ捜査の最中だということが強調され、多くについてはっきりとした回答はなされていない。

 ただし、刑事事件として起訴される可能性は「すべての関係者に残されている」と、捜査の結果次第ではボールドウィンも例外でないことが示唆されている。また、この現場で武器の責任者を務めたハンナ・リードと、問題の銃をボールドウィンに手渡した助監督デイヴ・ホールズの過去の仕事ぶりについても「考慮する」とのことで、これら直接の関係者の立場は、より深刻になった。

 そんな中、リードとホールズに関する良くない情報や証言が、いろいろなところでさらに出てきている。

 24歳という若さのリードが初めて映画の武器担当者を務めたのは、今年の夏にモンタナ州で撮影されたニコラス・ケイジ主演作「The Old Way」。リードは、先月配信されたポッドキャスト「Voices of the West」で、ケイジとの仕事が楽しかったと話していた。しかし、実際のところ、ケイジは彼女の仕事ぶりに不満だったようなのだ。

 この映画でクルーを務めたスチュー・ブラムボーという男性が「The Wrap」に語ったところによると、武器が到着した時に現場の全員にそれを知らせるなど基本的なルールを守らないリードに、ケイジやクルーは不満を募らせていたという。彼女が周囲に警告もなくキャストとクルーの近くで銃を撃った時には、ケイジが「ちゃんと警告しろ!鼓膜が破れるじゃないか」と怒鳴ったとのことだ。彼女はその前にも一度、前触れなく現場で銃を撃ったことがあり、この出来事を受け、ブラムボーは、彼女をクビにするべきだと上に忠告した。

 職場を離れたところでも、リードはトラブルを起こしている。「TMZ」によると、昨年8月、リードの男友達がバイクの事故で亡くなり、リードの保険会社から遺族に5万ドルが支払われているのだ。

 事故が起きた夜、リードと彼女のボーイフレンドは、亡くなったこの男性と一緒に飲んでいた。その帰り道、この男性とリードのボーイフレンドはそれぞれのバイクに乗っていて、男性が壁に衝突。ボーイフレンドが乗っていたのは、リードが所有するバイクだ。ボーイフレンドは過去にも飲酒運転で逮捕されており、ブレサライザー(アルコール度測定器)が装置されたものにしか乗ってはいけないのだが、それを知っていながらリードは彼にその装置がない自分のバイクを貸したのである。リード本人はその事故現場にいなかったものの、以後、訴訟されないことを条件に、自分の保険会社から保険金を支払うことに同意したということだ。

 リードはポッドキャスト「Voices of the West」の中でもバイク好きを自認し、ハーレイ・ダビッドソンを持っていると話している。銃は2丁所有しているとのことで、そのうちひとつは父がクリスマスにプレゼントしてくれたもの。さらにもう1丁、別の銃を買いたいと思っているとも語っていた。

プロデューサーの過去にも問題が

 一方、助監督ホールズに関しては、2019年、撮影現場の安全管理に不注意すぎることを理由に、インディーズ映画「Freedom’s Path」をクビになっていたことがわかった。この現場でも、小道具の銃をめぐるアクシデントがあったとのことである。同じ年、ホールズは、別のインディーズ映画「The Pale Door」でも仕事をした。彼に回ってきたのは、安全管理がいい加減な現場の状況にしびれを切らした助監督が辞めたからだ。この助監督は、「Los Angeles Times」に対し、「デイヴは安全に対して緩いことで有名。助監督が辞めたらこの人に頼めばいいということで知られているのでしょう」と語っている。

 事実、今年2月にジョージア州で撮影された「One Way」というアクションスリラー映画の現場でも、ホールズは、危険なシーンを撮影するにあたって安全についてのミーティングを行わなかったそうだ。そんな彼の態度に不安を覚えたカメラアシスタントは、プロデューサーおよび組合に苦情を申し立てている。「彼は何事においても不真面目。私たちの安全なんか気に留めていない」と、彼女は「Los Angeles Times」に述べている。

 プロデューサーにも過去の問題が浮上した。「Rust」のプロデューサーとエグゼクティブ・プロデューサーには12人が名を連ねるが、そのうちのふたり、ライアン・スミス(36)とアレン・チェイニー(33)は、数年前に訴訟されていたのである。インディーズ映画を作ろうとしていたスミスとチェイニーは、ある女性から25万ドルを出資してもらったのだが、そのお金の一部は個人のクレジットカードの支払いなどに当てられたとのこと。訴状の中で、スミスとチェイニーは、「映画業界でほとんど何も実績をもたない駆け出しのプロデューサー」と描写されている。

警察の捜査はこの後もしばらく続く

 そんな信頼のおけない人たちが責任の大きい役割を担った「Rust」の現場には、事件当時、ダミー、実弾を含め、およそ500個の銃弾があったと、本日の会見で警察は明かしている。ただし、その内訳はわからない。会見ではまた、ハッチンスを殺した銃弾がソウザの肩から出てきたこと明らかにされた。

 警察の捜査はこの後もしばらく続く予定だ。その中では、すでに聞き込みをした主要な関係者を再度呼び出す可能性もあるとのこと。会見の後には早くも、ホールズが警察の調べに対し、ボールドウィンに銃を渡す前に中をちゃんと確認しなかったと認めたとの報道が出た。この事件についてはまだわからないことだらけだが、こんなふうに少しずつ事実が明らかになっていくことだろう。捜査の展開と、次の会見が待たれる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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