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アカデミー映画博物館が宮崎駿展でいよいよオープン。紆余曲折を経て

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(筆者撮影)

「今、ようやく、やっと、みなさんにこう言えることに、胸が熱くなります。アカデミー映画博物館に、ようこそ」。

 アカデミー映画博物館のグランドオープニング記者会見で、トム・ハンクスは、そう今の心境を述べた。

 ようやく、やっと、というのは、まさに誰もが感じていることだ。ロサンゼルス郡立美術館の隣に映画博物館を建設すると映画芸術科学アカデミーが発表したのは、2012年のこと。当時の予定では、グランドオープニングは2017年、予算は2億5,000万ドルだった。だが、レンゾ・ピアノがデザインした斬新で大胆な建物を建築するには思いのほか時間がかかり、予算は4億ドル以上に膨む。展示内容についても意見が分かれ、建築が終了に近づいた2019年には、ディレクターが交代することに。新たにやって来たビル・クレイマーのもと、映画の歴史が中心だったそれまでのコンセプトは捨てられ、映画を通じて語られる多様な物語とその語り手に焦点を当てるという、柔軟でモダンなアプローチが取られることになった。

 そうやってようやく形をなし、あとは2020年12月のオープンを待つばかりとなった時、パンデミックがやってきたのである。カリフォルニアではミュージアムがすべて完全に閉鎖され、イベントも禁止される中、グランドオープニングは2021年4月に延期された。そこからさらに変更され、最終的に落ち着いたのが、2021年9月30日なのだ。

建築家レンゾ・ピアノによる斬新なデザイン(Josh White, JWPictures/ Academy Museum Foundation)
建築家レンゾ・ピアノによる斬新なデザイン(Josh White, JWPictures/ Academy Museum Foundation)

 この新しい博物館の最初の特別展に選ばれたのは、宮崎駿。北米で宮崎駿の回顧展が行われるのは、これが初めて。6つの部屋で構成されるギャラリー内には、宮崎駿が手にしたふたつのオスカー像(長編アニメ部門作品賞と名誉賞)も展示されている。この特別展に合わせ、館内のデビッド・ゲッフィン・シアターでは、宮崎駿の映画が上映される。

 別のフロアには、スパイク・リーやペドロ・アルモドバルに焦点を当てる展示が。ほかに、アカデミー賞の歴史を振り返る部屋や、名作に使われた衣装が展示されている部屋などがある。吹き抜けの天井から吊るされているサメは、「ジョーズ」に使われた中で唯一まだ残っているモデルだ。

 また、「The Oscars Experience」という、アカデミー賞を受賞する瞬間の擬似体験ができる部屋も。中に入り、オスカー像の前に立つと、目の前のスクリーンに自分の名前が受賞者として出て、拍手をしてくれる観客の映像が映し出されるというものだ。その動画はメールで送られてくる。ただし、この体験には、入場料に合わせて15ドルの別料金がかかる。

天井のサメは、「ジョーズ」に使われた中でまだ残っている唯一のモデル(筆者撮影)
天井のサメは、「ジョーズ」に使われた中でまだ残っている唯一のモデル(筆者撮影)

 記者会見の前日に初めてギャラリー内を歩いたというハンクスは、これらの展示内容に大いに満足したようで、「映画博物館の話は20年くらい前からありましたが、結果は期待を10倍も上回るものになりました。展示されているすべての情報を読み、映像を見て回るには3日半かかるでしょう。途中、ファニーズにも寄らないといけませんね」と、館内にオープンする予定のレストランについても触れた。「ファニー・ガール」の主人公ファニー・ブライスにちなんで名付けられた、この1階のレストランのほかに、最上階にはティールームもある。

 役員のひとりでもあり、資金集めキャンペーンのリーダーも務めてきたハンクスは、このプロジェクトの実現のために尽力した人物のひとりだ。「映画博物館は必要でしょうか?答は、イエスです。なぜなら、この街が世界に提供してきたものを祝福すべきだから。映画は、すべての人に語りかける芸術。その芸術に、僕らは敬意を払うべきなのです」と、ハンクス。ディレクターのクレイマーも、この博物館は「間違いなくロサンゼルスで絶対訪れるべき場所になるでしょう」と、誇らしげに語る。

アカデミー賞の歴史を振り返る部屋(筆者撮影)
アカデミー賞の歴史を振り返る部屋(筆者撮影)

 念願のグランドオープニングを祝い、この土曜日には、ジェイソン・ブラム、ライアン・マーフィ、エヴァ・デュヴァネイら主催のパーティが行われる予定。また28日には役員や大きな寄付をしてくれた人々に向けたオープニングナイトイベント、29日にはフィルムメーカー、ミュージシャン、デザイナーなどを招待するプレミアパーティが開かれる。さらに、10月12日には、メジャー局ABCで、特別番組「A Night in the Academy Museum」が全国放映される予定だ。出演は、ハンクス、ローラ・ダーン、アネット・ベニング、ジーナ・デイヴィス、シェール、メリッサ・マッカーシーなど。

 お祭り気分は、当分続きそうだ。

ロサンゼルスに新たな名所が誕生した(Academy Museum Foundation)
ロサンゼルスに新たな名所が誕生した(Academy Museum Foundation)

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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