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キム・カーダシアンのパパ、州知事選に出馬表明。アドバイザーはトランプの元側近

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
カリフォルニア州知事選への意欲を表明したケイトリン・ジェンナー(写真:REX/アフロ)

 お騒がせ好きなカーダシアン一家が、新たな話題を提供した。キム・カーダシアンの義父で、リアリティ番組でおなじみのケイトリン・ジェンナーが、カリフォルニア州知事選に出馬すると発表したのだ。

 現在、カリフォルニアでは、共和党の政治家がギャヴィン・ニューサム州知事(民主党所属)をリコールに持って行くべく、努力を行っている。元サンディエゴ市長を含む何人かの共和党員がすでに出馬を表明しているが、そこへ新たにジェンナーが加わったというわけだ。

 現地時間23日、ツイッターに投稿されたリリースで、ジェンナーは、「厳しすぎるロックダウンのせいで、小規模なビジネスは悲惨な状況に追いやられました。子供たちは1年も教育の機会を失われ、登校したり、活動に参加したり、友達を会ったりすることができませんでした」と、いかにも共和党らしい立場からニューサムのコロナ対策を批判。「凝り固まったサクラメントの政治家と、特定の目的を持つ人々が彼らに資金を提供することを撤廃するには、恐れずに正しいことをする戦士が必要。私は実績ある勝者。ギャヴィン・ニューサムの悲惨な州知事としての日々を終わらせられるのはアウトサイダーしかいません」と、オリンピックで金メダルを獲得した事実を人々に思い出してもらおうとしている。

 リリースの最後には「正式な発表は数週間後に行います」とあるが、実際、ジェンナーは、こつこつとそのための準備に取りかかっているようだ。「Los Angeles Times」の報道によると、キャンペーンのスタッフはトランプを忠実に支えてきた人々とのこと。最近、ジェンナーがトランプの元キャンペーンマネージャーらと食事をする姿も目撃されている。

 トランスジェンダーであるジェンナーが、LGBTQコミュニティを締め付ける共和党を支持することについて、人々は以前から奇妙さを感じてきた。ジェンナー自身も、「トランスジェンダーとしてカミングアウトした時よりも、共和党支持者だと宣言した時のほうが、(民主党が優勢なカリフォルニアでは)ずっと冷たい反応を得た」と語ったことがある。ジェンナーはトランプの長年の友達で、2016年の大統領選でも、トランプに入れると語っていた(ただし、最近のPoliticoの記事によると、実のところジェンナーは2016年の選挙に行っておらず、2000年以降カリフォルニアで行われた26回の選挙のうち9回しか投票していないようである)。しかし、2018年には「The Washington Post」に意見記事を寄稿し、反トランプに転じたことを宣言。「(トランプ政権に自分がかかわることに対して)LGBTQコミュニティの一部から批判されても、私はトランプ政権がポジティブな変化をもたらしてくれると希望を持っていました。悲しいことに、私は間違っていました。この大統領は、トランスのコミュニティをひっきりなしに攻撃する。それが現実だったのです。この国のリーダーは、すでに苦しめられているコミュニティに何の注意も払いません」と、トランプのLGBTQの人たちに対する態度を非難している。

 にもかかわらず、今回の出馬にはトランプの息が思いきりかかった人々にアドバイザーを求めることにしたのだ。これら一連の行動は、LGBTQコミュニティの間でも不信感を生んでいるようで、LGBTQアクティビストのシャーロット・クライマーは、「ケイトリン・ジェンナーは完全に資格に欠ける人。自分のことしか考えていない。彼女の視点はひどい。最悪の候補者」「ケイトリン・ジェンナーの唯一の政策はケイトリン・ジェンナーをもっと有名にすること。そのために誰かが傷ついても彼女は気にしない」などというツイートを連発、ジェンナーを批判している。

健闘しても、しなくても話題にはなる

 ジェンナーは、1949年10月生まれの71歳。生まれた時に与えられた名前はウィリアム・ブルース・ジェンナー。もともとはアメリカンフットボールの選手だったが、膝のケガをきっかけに陸上選手に転向。1976年のモントリオールオリンピックで金メダルを獲得し、有名人となった。その後は、トーク番組やドラマでテレビに出演。1980年の「ミュージック・ミュージック」では、映画デビューを果たしている。

 結婚歴は3度。最初の結婚は1972年で、息子と娘をひとりずつ授かった。2回目の結婚相手はソングライターで女優のリンダ・トンプソン。彼女との間にも息子をふたり授かっている。そして3度目の結婚相手が、クリス・カーダシアン(ジェンナーとの再婚後はクリス・ジェンナー)だ。彼女には、元夫ロバート・カーダシアンとの間に3人の娘コートニー、キム、クロエと息子ロブがおり、結婚後、夫妻の間には新たにふたりの娘ケンダルとカイリーが生まれた。

 この一家の様子が綴られるリアリティ番組「Keeping Up with the Kardashians」は大ヒットし、彼らは一気に全米で最も有名な家族となる。しかし、2013年、ジェンナー夫妻は破局、2015年には離婚が成立する。その直後にジェンナーは、テレビのインタビューでトランスジェンダーであることをカミングアウト。数ヶ月後にはケイトリン・マリー・ジェンナーに改名し、その夏にはジェンナーが女性として生きていく過程を綴るリアリティ番組「I am Cait」が放映開始となった。2017年には、回顧録「The Secrets of My Life」が出版されている。

 キムをはじめとする娘たちは、ジェンナーのカミングアウトをサポートしてきており、父娘として引き続き良い関係にあると言われる。しかし、ジェンナーが州知事候補として出馬することに関しては、今のところ静観するにとどめているようだ。元妻クリスやキムら娘たちはあまり政治的な発言はしないものの、2016年の大統領選ではヒラリー・クリントンを支持している。共和党支持者のジェンナーとはその点で意見が異なるのも、複雑な要因である。

 2020年の大統領選にキムの夫カニエ・ウエストが立候補した時も、家族はほとんどタッチしなかった。彼の立候補は、今回以上に奇妙だったとも言える。しかし、注目されるのが大好きな一家にとっては、決して迷惑なことではなかったはずだ。トランプ支持者だったウエストがトランプのライバルとして立候補したことは、出るのか、出ないのかという段階から、結構話題を集めた。もともと勝ち目がゼロだったにしても、出たことに意味はあったのである。

 そして今度は父が同じことをやってくれるというのだ。折しも、今月末には、長く続いた「Keeping Up with the Kardashians」が最終回を迎えようとしているところ。番組終了を決めたのは、ソーシャルメディアが主流の世の中になり、あえてテレビを使わなくても話題は提供できると考えたからだそうだ。事実、この家族の同行は、番組を見ている、いないにかかわらず、アメリカでは誰にでもよく知られている。それだけこの家族は、頻繁かつ上手にネタを提供しているのだ。今回のジェンナーの件にしても、健闘しようが批判されようが、勝ち目があろうがなかろうが、しばらく引っ張れるネタとして利用できるはずである。カーダシアン一家に着いていくのは、相変わらず、なかなか大変なのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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