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裏口入学事件のハリウッド女優が早くもTV復帰。「金持ちは金持ちを支える」と批判の声

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ハフマンは出所からわずか1年でテレビ主演の仕事を得た(写真:Splash/アフロ)

 不倫は家庭内のことで、仕事とは関係ない。依存症は病気なので、支えてあげないといけない。ハリウッドは、そういったトラブルを起こした芸能人にも、きわめて寛大だ。しかし、昨年の裏口入学事件に関しては、さすがに違うだろうと思っていた。

 昨年3月、FBIは、金を積み、テストの点数を操作したり、やってもいないスポーツ優待生の枠に入れ込んだりして有名大学にわが子を入学させた疑いで、およそ50人の親を起訴している。その中に、オスカー候補女優でテレビドラマ「デスパレートな妻たち」で知られるフェリシティ・ハフマンと、「フラーハウス」のロリ・ロックリンおよびその夫でデザイナーのモッシモ・ジャンヌリが入っていた。ハフマンの夫ウィリアム・H・メイシーも、何が起こっているかは知っていたが、起訴の対象外となっている。

 ハフマンは、長女のSAT(大学入学適性試験)の点数を高く操作してもらおうと、娘本人が知らないところで金を払ったとされる。ハフマンは素直に罪を認め、謝罪をし、実刑14日、保護観察期間1年、250時間の社会奉仕活動、罰金3万ドルを言い渡されている。刑務所入りは昨年10月15日で、その11日後に出所した。

 事件発覚まで、ハフマンは、自分のウェブサイトで、「わが子には自分で失敗をさせないと」などと子育てのアドバイスをしていたこともあり、世間から、「偽善だ」と大バッシングを受けている。14日間という実刑に対しても、「軽すぎる」「不平等だ」と強い批判が出た。当時、ニュースでは、わが子を良い学区の学校に入れたいがために、父の家の住所を使って5年の懲役を受けそうになった黒人の母親の話が、比較として浮上している。普通の子たちが一生懸命頑張って勉強し、奨学金という借金を背負ってまで大学に行こうとしているのに、高い学費を余裕で払えるばかりか、苦労せず子供に学歴を与えてやろうとしていたハフマンは、これですべてを失ったと、その時は思われた。

「彼女は罪を償った」と応援の声も

 ところが、今週、そのハフマンが、早くもテレビドラマに主演すると報道されたのである。タイトル未定の野球をテーマにしたコメディで、放映するのはメジャーネットワークのABC。しかも、deadline.comが伝えるところによると、出所してからというもの、ハフマンのもとにはほかにも多数の出演オファーが押し寄せていたというのだ。

 このニュースに、ソーシャルメディアには、さまざまな意見が寄せられた。ツイッターを見るかぎりでは、「私の子供は自分のために自分で頑張っている。彼女のような人間が問題なのよ」「金持ちはお互いを支えるんだね」「中年で、仕事を欲しがっている女優はほかにいないの?その人たちは怒っているだろうな」「先に教えてくれてありがとう。この番組は避けます」など、当然のごとく、批判が圧倒的に多い。また、「黒人が同じことをしたら一生が終わりだよ。それは間違いない」「黒人だったら11日じゃなくて11年だろう」「金と人脈があれば、何からも逃れられる。たった11日で出所して、すぐ仕事があるの?刑は誰にとっても平等であるべきだ」「普通、刑務所入りしたら仕事を見つけるのは大変なはず。フェリシティ・ハフマンはどこが違うの?」と、不平等を訴えるものもある。

 だが、中には、「自分は怒らないよ。彼女は刑期をまっとうしたんだ。罪は償った。彼女には才能がある。社会に復帰してもらおう」「罪を犯した人も、社会復帰して好きな仕事をする権利がある」「ここはセカンドチャンスの国なんだから」と、ハフマンを応援する声もある。さらに、そのギャラを、お金はないが大学に入りたい子供たちのための基金に寄付するべきだという意見や、この番組を放映するABCへの批判も見られる。ディズニー傘下のABCが、これら人々の反応をどう受け止めるかも注目される。

 いずれにせよ、このニュースが、ロックリンに希望を与えることは間違いない。あっさり罪を認めたハフマンと違い、ロックリンは、長いことあがいて夫と共に無罪を主張した末、今年9月になって、ようやく罪を認めている。夫妻は娘ふたりともを裏口入学させていることでハフマンより罪が重く、反省の度合いからも、反感はより強い。それでも、ハフマンがたった1年でハリウッド復帰を許されたとあれば、ロックリンにも同じことが起こっておかしくはない。ロックリンの刑期は2ヶ月、夫は5ヶ月。これからの2ヶ月、彼女は刑務所の中からエージェントに連絡を取り続け、職探しを行うのだろうか。その時にはまた間違いなく論議が起こりそうである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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