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CNNアンカーが語る新型コロナのリアル:幻覚、震え、3日で6キロ弱の減量

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
兄アンドリューとテレビでヴァーチャル対談をするクリス・クオモ(右)(筆者撮影)

「感染しても8割は回復する。その統計だけを報道するのは無責任というもの。死ぬか生き残るかのふたつだけでなく、その間があるのです。これにかかるのは、本当に苦しいこと。肉体的にはもちろん、精神的にも」。

 新型コロナに感染したCNNのアンカー、クリス・クオモは、視聴者に向けてそう語る。陽性反応が出た後も、自宅から「Cuomo Prime Time」に毎晩出演している彼は、現地時間2日には別の局の番組にも出演し、ニューヨーク州知事で兄のアンドリュー・クオモとヴァーチャル対談をした。これらを通じて彼が伝えるのは、この病気と戦うことのリアルだ。

 毎回の映像で明らかなように、彼がこもっているのは、自宅の地下室。食事は手袋とマスクをした妻がドアのところまで届けてくれる。妻は「つきあっていた頃よりも手厚い」料理を作ってくれて、彼はそれをしっかり食べ、水も十分に飲んでいるのだが、陽性反応が出てからのたった3日で13ポンド(約5.9キロ)も痩せてしまった。「病気が体を消耗するのです」。

 熱は常に高い。「僕はめったに熱が出ることのない人なので、こんなことは初めて。脱水症状になるというのも理解できます。高熱が12日間も続いたという人の話も聞きました。僕もこれからあと8日なり、10日なり、この戦いを続けなくてはいけないのです」。

 彼の顔が熱っぽいのはテレビを通じてでもわかるが、「頭痛がするし、顔も痛い。それに左目が疲れています。それもよくある症状だそうです」と、その時の様子を伝えている。熱はとくに夜になると上がることから、不眠にも悩まされるそうだ。先日は震えが止まらず、寝ている間に歯が欠けてしまった。そして、夢ではなく、幻覚を見る。検査結果が出た夜には、幻覚の中で兄が「変な服装でやってきて、魔法の棒を振ってコロナを追い出そうとしてくれました」。

 番組に出ている時以外は、ただぐったりしているが、できるかぎり呼吸のエキササイズをしようとしているという。自分よりもっと健康な友人がやはりコロナに感染し、最初の3、4日は大丈夫だったのに、突然呼吸器を付けなければならなくなったことに恐怖を感じたからだそうだ。「この病気は、すごいスピードで悪化することがあるのです」。

どうせなら早くかかればよかった。真実を伝えられたから

 アメリカでは昔から病気にはチキンスープと言われてきている。それはあながち間違っていないというのが、クオモがこの数日で学んだことのひとつだ。「これのおかげで、ちょっとだけ熱が下がったことがあるんですよ。だから、効くと思います」。血中酸素濃度測定器も、とてもいい。今はなかなか手に入らないそうだが、「もし入手できたら、コロナにかかった知り合いに、ぜひあげてください」という。

 一方で、嘘の情報がいかに多いのかには呆れるばかりだ。「この薬で治るとか、このトニックに効果があるとか、嘘だらけ。ビタミンCやDが良いのは本当だけれども、異常なくらい飲めというのは違う。不安につけ込んで金儲けをしようとしている人が、たくさんいるんです」。

 そんな中だけに、彼は、コロナにかかることの真実を伝えていきたいのだという。兄との対談では、どうせかかるのならば「もっと早くかかればよかった」とすら言った。そうすれば、もっと早くから、いったいこれがどういう体験を意味するのかを正確に報道できたからだ。

「ほとんどの人はかかっても軽い」とよく言われてきたことから、あまり深刻に受け止めてこなかった人たちは、今ですら多い。その人たちを怖がらせるつもりはないが、「バカなことはするなと言いたいのです」と、クオモ。バカなこととは、すなわち、「社会的距離(ソーシャルディスタンス)」の忠告を無視することだ。

「これがいつ収束するのか、コントロールすることはできません。今、僕たちにやれるのは、社会的距離を置くこと。これが終わった後、みんな、この時のことをしっかり覚えているでしょう。誰がどんな行動を取ったのか、誰が人助けをしたのか。それだけは確実です」。

 彼の真摯な言葉もまた、ずっと人々の記憶に残るに違いない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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