コロナが消したハリウッドの光。セレブ御用達ホテル、タレント事務所も大打撃

シャトー・マーモントはコロナショックを受け従業員を大量解雇した(筆者撮影)

 今からほんの7週間前、シャトー・マーモントは、ハリウッドのトップスターや、間近に迫ったオスカーで出席者にドレスを提供するファッション関係者、スタイリスト、業界の大物などで賑わっていた。

 サンセット通りにあるこのクラシックな佇まいのホテルは、ハリウッドの黄金時代からセレブに愛されてきた場所。80年代にジョン・ベルーシがドラッグの過剰摂取で亡くなったのも、人気絶頂期のリンジー・ローハンが長期間住んだのもここだ。ソフィア・コッポラの「SOMEWHERE」の舞台にもなり、「ラ・ラ・ランド」では、大スターになった後のミア(エマ・ストーン)が泊まっている。スターを見かけることを期待して、あるいはハリウッドの歴史を肌で感じたくて、訪れる一般人も多い。

 しかし、新型コロナウィルスでエンタメ業界が撮影、パーティ、インタビュー、ミーティングなどをストップして以来、このホテルも突然にして閑散となった。そして先週、ホテルは、従業員のほぼ全員を突然解雇したのである。ホテル従業員の労働組合「UNITE HERE! Local 11」が出したニュースリリースによると、従業員らは今月19日に通達を受け、翌20日付けで解雇になったそうだ。解雇手当は支払われず、健康保険の延長もなかった。リリースは、「23年もシャトー・マーモントに勤めてきたのに、このパンデミックのまっただなかで解雇され、家族全員の健康保険も奪われるなんて、あんまりです」という従業員の声を挙げている。

大手タレント事務所のトップは「年内の給料ゼロ」

 きらびやかなムードが一転したのは、タレントエージェンシー(芸能事務所)も同じだ。

 野球帽やジーンズが定番の監督や脚本家らと違い、彼らを“クライアント”と呼ぶエージェントたちは、デザイナーブランドのスーツを身につけ、高級車でビバリーヒルズやセンチュリーシティのオフィスに通勤する。大物スターが日常的に出入りする、かっこいいオフィスで働くのは、多くの人のあこがれだ。しかし、今週、最大手のエンデバー・グループは、コロナによる業績悪化を受けて、250人を解雇すると社員に通達した。同社のトップ、アリ・エマニュエル(ちなみにテレビドラマ『アントラージュ★オレたちのハリウッド』でジェレミー・ピヴェンが演じたアリ・ゴールドのモデルになった人)とパトリック・ホワイトセルは、年内は給料を取らない姿勢だ。

 ライバル会社ユナイテッド・タレント・エージェンシー(UTA)も、全社規模で給料の減額を決めた。ここでも、トップ3人は、当面、給料をゼロにする。ほかの社員は35%から50%の減給で、給料が高い人ほど減る割合が増える。ICMパートナーズも、先週末、アシスタントレベルの社員を対象にレイオフを行った。解雇された人々は、1ヶ月分の給与をもらい、健康保険は5月末まで支払われるようである。また、パラダイムでも、社員のうち100人ほどをレイオフするとの通達があったという。パラダイムは全社員が700人程度なので、およそ14%が職を失うことになる。

 エージェンシーの収入源の基本は、お抱えの俳優、監督、脚本家らが契約を結んだ時に発生するコミッション。ほかに、自分たちのタレントをパッケージにした企画をスタジオに売り込んで“パッケージ料”を取ったり、映画を配給会社に売るセールスを手がけたりもする。だが、映画やテレビの撮影がストップし、再開のめども立たない今は、契約の動きも止まり、映画祭がキャンセルや延期になる中では作品のセールスもまったく進まない状況だ。

 映画やテレビだけに頼る危険を回避すべく、とりわけエンデバーは、近年、スポーツのマネジメント会社や総合格闘技のUFC、トランプが持っていたミス・ユニバースの権利などを買収して、業務の幅を広げてきた。しかし、コロナはこれらの分野にも大きな影響を与えており、逆に被害が大きくなってしまっている。音楽業界に強い特徴をもつパラダイムも、同様だ。

 大手の中では、クリエイティブ・アーティスト・エージェンシー(CAA)が、今のところ減給やレイオフを決めていない。しかし、アメリカでコロナショックが本格化してまだ2週間程度、L.A.がロックダウンになってから、わずか1週間だ。コロナとの戦いは、始まったばかりなのである。そんな可能性を受け入れたくはないが、現実的には、これからも、悪いニュースを耳にする日々が続くのかもしれない。そのたびに、ハリウッドという世界に憧れ、実際に足を踏み入れてみせた人々の夢が、壊れていく。