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新型コロナと米エンタメ:「ピーターラビット2」延期、ブロードウェイ大幅値下げ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
2008年、「ピーターラビット」1作目のプレミアに出席したマーゴット・ロビー(写真:Shutterstock/アフロ)

 新型コロナウィルスの感染者がアメリカでも増え続ける中、娯楽業界への影響も拡大している。先週は「007」が公開を延期したが、現地時間10日にはソニー・ピクチャーズが「ピーターラビット2/バーナバスの誘惑」の公開延期を決め、2番目の例を作った。

 2018年に大ヒットしたオリジナル同様、この続編も、イースター前を狙い、今月19日にオーストラリア、26日の週末にドイツ、ポルトガル、イギリス、アイルランド、スウェーデンなど、来月頭に残りのヨーロッパ諸国と北米でデビューする予定だった(日本は5月22日)。スーパーボウルでのTVスポットも含め、万全に行ってきたマーケティングキャンペーンもいよいよ終盤に入りつつあったが、イタリアで映画館が営業停止し、フランスでも一部休業する中、このまま突っ走るのは賢くないと判断したようだ。先週末の北米興行成績は前の週と比べて4%増しで、アメリカの映画館はまだ直接にコロナの影響を感じてはいないのだが、1作目の世界興収の7割ほどが北米外から来たことを考えても、妥当かと思われる。

 一方で、ハリウッドとブロードウェイの大物プロデューサー、スコット・ルーディンは、自身が製作するブロードウェイ劇のチケットをすべて50ドルにすると発表した。ブロードウェイのチケットは200ドルかそれ以上が相場なので、相当な値下げだ。対象の作品は、アーロン・ソーキン脚本、エド・ハリス主演の「アラバマ物語(To Kill a Mockingbird)」、サム・メンデス演出の「ザ・ラーマン・トリロジー(The Lehman Trilogy)」「ブック・オブ・モルモン(The Book of Mormon)」、「ウエストサイド物語(West Side Story)」、ローリー・メトカーフ主演の「ヴァージニア・ウルフなんか怖くない(Who’s Afraid of Virginia Woolf?)」。今月12日から29日までに上演されるすべての回が対象で、この値段で購入できるのは12日以降となる。

 ブロードウェイの観客には、海外や国内からの旅行者が多い。「The Wall Street Journal」によると、今月8日(日)までの1週間、ブロードウェイでは、少なくとも15本の作品で客足が減少したそうだ。ルーディンは、「The Hollywood Reporter」に対し「この危機の中でも満席の状態を保ちたい。(舞台に立つ)役者が誰も座っていない椅子を見るようなことにはしたくない」と述べている。さらに、声明を通し、「こんなことでもなければ見ることができなかったショーをお手頃価格で見られる、過去になかったすばらしい機会です」と、人々に来場を呼びかけた。

コーチェラ音楽祭も半年延期の方向

 音楽関連でも、新たなキャンセル、延期の動きがあった。パール・ジャムは、来週トロントでスタートする予定だった北米ツアーのキャンセルを発表。彼らは新型コロナの感染者が北米で最も多いワシントン州在住で、複数にわたるツイートを通じ、「いかに早く状況が悪化するのかを自分たちの目で目撃しました。わが子の学校も休校になっていますし、大学やビジネスも同様です」「ここシアトルで起こっていることがほかのところでも起こらないことを願います」「ごめんなさい。私たちも本当に辛いです」とファンに謝罪。同時に、「政府は国民の安全のための明確なメッセージを何も伝えません。彼らが状況をコントロールしていると言っても、信じられるはずがありません」とトランプ政権を批判した。

 現段階で公式発表はないが、来月に控える南カリフォルニアの野外音楽祭、コーチェラ・フェスティバルも、半年先の10月に延期する形になったようだ。2回の週末にわたり、合計25万人を集客するこの大型イベントは、パーム・スプリングスなど周辺のリゾート街に大きな収益をもたらす。しかし、リタイアした高齢者が多い土地柄ということもあり、先週末、テキサス州オースティンでサウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)がキャンセルされると、主催者や地元民の間で不安とプレッシャーが高まっていた。現在、主催者側はミュージシャンや彼らの事務所に通達をしている段階のようである。

 また、ジェフリー・カッツェンバーグが立ち上げるQuibiのローンチイベントも中止となった。短編動画を携帯で配信する新たなサービスで、来月6日のデビューに向け、5日にL.A.でパーティが行われる予定だった。同社の広報は、「新型コロナに十分な警戒をした上での判断。関係者全員の健康が何より大事です」と述べている。

 ほかに、サンフランシスコでは、先週土曜日、市長が、市が所有するふたつの劇場、デイビス・シンフォニー・ホールと戦争記念オペラハウスを2週間クローズすると発表した。それを受けて、サンフランシスコ・シンフォニーやサンフランシスコ・バレエなどが上演のキャンセルを余儀なくされている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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