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コービー・ブライアントが事故死。ハリウッドにも愛された真のスーパースター

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
コービー・ブライアントは、2018年、短編アニメ部門でオスカーを受賞した(写真:ロイター/アフロ)

 L.A.が、最大のスターを失った。元L.A.レイカーズの選手コービー・ブライアントが、現地時間26日(日)、ヘリコプターの墜落事故で亡くなったのである。同機には、ブライアントの13歳の娘も乗っていた。

 キャリアの最初から最後までの20年、ずっと地元のチームで活躍したブライアントは、有名人が集まるL.A.においても、他に類を見ない特別級のセレブリティだ。華々しい引退からわずか4年、41歳での突然の死は、あまりに早すぎる。この悲劇が起きたのはちょうどグラミー賞授賞式が行われる日。会場は、レイカーズが本拠をかまえるダウンタウンのステイプルズ・センターで、授賞式ではブライアントに追悼が捧げられた。

 また、レイカーズの熱狂的ファンであるジャック・ニコルソンは、CBSニュースに電話出演し、ブライアントへの思いを語っている。特等席でレイカーズの試合を見る姿がたびたび目撃されているニコルソンは、「僕の反応は、L.A.に住むみんなと同じだ。コービーに会って、話をすることが普通だったのに、まるで穴が空いたよう。本当に辛い」と告白。彼と初めて会った日のことについても、「それは(ニューヨークのマジソン・スクエア・)ガーデンだった。彼にボールを渡してサインしてほしいかと聞くと、彼は『何を言っているんだ』という表情で僕を見返したものだ」と振り返った。

27日のL.A.Timesは、一般、スポーツのトップでブライアントの死を取り上げ、さらに12ページの特別版で彼に追悼を送った(筆者撮影)
27日のL.A.Timesは、一般、スポーツのトップでブライアントの死を取り上げ、さらに12ページの特別版で彼に追悼を送った(筆者撮影)

 レイカーズのファンには、ほかに、レオナルド・ディカプリオ、ダスティン・ホフマン、デンゼル・ワシントン、ジョナ・ヒル、ウィル・フェレルなどがいる。フェレルは、主演とプロデューサーを兼任する2015年のコメディ映画「Daddy’s Home」でブライアントにカメオ出演してもらったこともある。当時、フェレルは、「コービーはとても寛大だった。脚本で、彼は手を振るだけになっていたんだが、喜んでせりふもやってくれたんだよ」と語っていた。

自伝的短編アニメ映画でオスカーを受賞

 彼のハリウッドとのかかわりは、それだけではない。ブライアント自身も、オスカー受賞者なのだ。

 その作品は、短編アニメ「Dear Basketball」。ブライアントがエグゼクティブ・プロデューサー、脚本家、ナレーターを務める、この5分半の2Dアニメ映画は、プロバスケットボールからの引退を決めた彼が書いたポエムにもとづくもの。子供時代の彼、成長した彼、レイカーズ選手として活躍する彼の姿を織り交ぜながら、人生を通して彼がいかにバスケットボールを愛してきたかを語る、とてもパーソナルな作品だ。鉛筆で描いたようなデッサン風のビジュアルは、全体的にモノトーンだが、レイカーズのユニフォームだけに鮮やかな色がついているのも印象的である。オリジナルの音楽を作曲したのは、ジョン・ウィリアムズ。監督のグレン・キーンは、元ディズニーのベテランアニメーターだ。

 ブライアントはまた、2018年に、「The Mamba Mentality: How I Play」という本を出版している。ブライアントの死を受けてアマゾンにはこの本の注文が殺到し、現在、ハードカバー版は売り切れ状態だ。ところで、このマンバとは、タランティーノの「キル・ビル」でユマ・サーマンが演じたキャラクターから来るものである。このニックネームを彼が自分に与えたのは2003年から2004年にかけてのこと。彼が、19歳の女性をレイプした疑いで逮捕された頃だ(刑事裁判は、被害女性が供述を拒否したことから棄却。民事裁判はブライアントが女性に示談金を払って解決している)。無敵の殺人鬼を意味するこの名前は、コートにいる自分を、私生活と切り離す上で役立ったという。

 2011年には、このテーマで、5分47秒の尺をもつナイキのコマーシャルも製作した。監督はロバート・ロドリゲス。ロドリゲスがブライアントに「ブラック・マンバ」のアクション映画を作ろうと売り込むという設定で、彼が想定する映画の出演者として、ブルース・ウィリス、ダニー・トレホ、カニエ・ウエストなどが登場する。ブライアントの演技やユーモアのセンスも、なかなかのものだ。そして最後に、ブライアントは、「Heroes come and go, but legends are forever」と言うのである。

 ヒーローは次々出てきても、伝説の人物は永遠。その言葉は、今、なおさら、ずっしりと響く。コービー・ブライアントは、最大の伝説。彼は、ずっと、歴史と人々の記憶の中に刻みこまれる。

 ご冥福を心よりお祈りします。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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