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歌うエル・ファニング。「いつかアルバムを出したい」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ティーンスピリット」は、歌のコンテスト番組に出場する女の子の物語

 エル・ファニングにこんな才能があったとは。「ティーンスピリット」を見たファンがそう感心してくれることを、彼女は本気で期待している。なにしろ、歌のコンテスト番組を舞台にしたこの映画に出たいと思ったそもそもの目的は、それなのだ。イギリスの田舎に住むポーランド移民というこの主人公の候補として、監督のマックス・ミンゲラは、アメリカ人のファニングをまったく考えていなかった。だが、情熱的な売り込みと、歌えるという証拠をもって、ファニングは見事に役を獲得してみせたのである。

「子供の時から歌が大好きだったの。家の中で大きな声で歌っては、しょっちゅう『うるさい』と言われたものよ(笑)。将来は、ポップスターか女優になるのが夢だった。女優のほうが実現したわけだけれど、今こうやってポップスターにも映画の中でなってみることができたの」。

 ミンゲラを説得したのは、彼女が2016年にモントリオール・ジャズフェスティバルに出演した時の映像。フランス人のミュージシャン兼映像作家であるウッドキッドが、一緒に出ないかと彼女を誘ってくれたのだ。

「私が出演したロリータ・レンピカのコマーシャルを撮影したのが、彼。私が歌えると知っていて、声をかけてくれたのよ。歌唱力に自信はあったけれど、人前で歌うのは、あれが初めてだった。マックスはあれを見て納得してくれたものの、この映画の歌のコーチには『こういうのはやらないように』と言われたわ(笑)。今見直すと、自分でもあれはひどかったと思う」。

 そうやって「うふふ」と笑う彼女は、いつものことながら、本当に明るく、愛らしい。そこもまた、ミンゲラを不安にさせたのだろうと、本人は自覚している。

「私がこの映画で演じるヴァイオレットは、ほとんど笑わないでしょう?移民の子である彼女は、学校で浮いているの。彼女のママはポーランド語で話すし、ほかの子たちのママとは違う。カルチャーギャップのはざまで、彼女は内側に怒りを抱えている。それが、歌という形で噴き出すのよ」。

内向的なヴァイオレットは、悩んだ末、歌のコンテスト番組に出演すると決める。だが障害はその後にも次々に出てきた
内向的なヴァイオレットは、悩んだ末、歌のコンテスト番組に出演すると決める。だが障害はその後にも次々に出てきた

 役のためには、ポーランド語、イギリスのアクセント、ダンスのトレーニングをした。だが、一番時間をかけたのは、もちろん、歌だ。レッスンを積むうちに上手くなっていくのが自分でも実感できたというが、必ずしもそれを存分に発揮してはいけないのが、映画の複雑なところだった。

「映画の始まりのほうで、ヴァイオレットは、『潜在性があるな』と感じさせる程度。彼女は地元のパブでマイクを握っているだけで、大きな舞台に立ったことはない。映画を通して彼女は歌手として成長していくので、今撮影しているシーンで彼女がどんなところにいるのかを、常に意識していなければいけなかったわ。最後になって、ようやく私は本領を発揮できるの」。

 この体験を「最高だった」と振り返る彼女に、「次にお会いするのは、あなたのアルバムデビューの時でしょうか?」と振ってみると、またもや「うふふ」と笑って、「そうかもね」と言った。

「アルバムは、ぜひ出してみたいわ。今、アップルミュージックで自分の名前を検索したらちゃんと出てくるの。そのことにすごく興奮している。ミュージシャンとしても名前が出るようになったのよ。今作では、テイラー・スウィフトやラナ・デル・レイがレコーディングしたスタジオに足を踏み入れることもできた。私にとっては完全なる新世界だったんだけど、不思議なことに、心地よくもあったのよね。それはつまり、もっとやるべきだということ。少なくとも私はそう思っているわ」。

 まずはこの映画で、その実力をごらんあれ。

「ティーンスピリット」は日本全国公開中。

場面写真:Mason Merritt (42 West)

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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