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[訂正あり]全米1位を獲得した、豊川悦司ハリウッド出演作はどんな映画?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ミッドウェイ」は豊川悦司の本格的ハリウッドデビュー作(Reiner Bajo)

 この週末、ボックスオフィス戦線に異常が起きた。圧倒的強軍「ドクター・スリープ」を相手に、負け戦に挑んだと見られていた「ミッドウェイ」が、見事首位を獲得してみせたのである。第二次大戦を舞台にしたこの映画は、豊川悦司が重要な役を演じる超大作。豊川が演じるのは、海軍大将の山本五十六。山口多聞役で浅野忠信、南雲忠一役で國村隼も出演する。

 タイトルが示すとおり、映画は1942年6月5日から7日にかけて起きたミッドウェイ海戦を語るもの。真珠湾攻撃の前からスタートし、日本側の動きを察知した米軍によって打ち負かされるまでを描く。

 予告編には日本人が全然出てこないが、映画の中では、日本側にもかなり時間が割かれている。その時日本はどのような状況にあったのか、戦争を始める上ではどんなやりとりがあったのかなどが公平な視点から語られるのだ。ハリウッド映画にありがちなヘンテコ日本描写もなく、会話も自然である。

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「そこはとても大事だった」と、ハワイでのプレミアの前、筆者とのインタビューで、プロデューサーのハロルド・クローサーは語った。「実は、長い間、日本の配給がつかないままだったんだよ。でも、撮影が終わり、編集作業も中盤まで来た時に、日本の部分を見せたところ、たくさん手が上がったんだ。僕たちが日本に敬意を持っていることをわかってもらえたからだろうと思う」(クローサー)。

 日本人同士の会話は日本語なので、英語の字幕がつくシーンも、かなり多い。これもまた、過去にはハリウッド映画が避けてきたことだ。「字幕が長く続くと普通はしんどいと感じるものだが、日本人俳優たちの演技が本当にすばらしいおかげで、気にならないんじゃないかな」と、脚本家のウェス・トゥック。そもそもこのプロジェクトを立ち上げたのも、彼だ。子供の頃から軍隊オタクだったという彼は、映像でも何度か語られてきているミッドウェイ海戦の話に、新鮮な視点からアプローチしたいと願ってきた。そんな彼にとって、日本側の状況は非常に興味深く、その部分を徹底的にリサーチしたのだという。

豊川悦司と浅野忠信。日本人のシーンは、アメリカ側のシーンをすべて終えた後に撮影されたため、アメリカ人俳優との接点はほとんどなかった(Reiner Bajo)
豊川悦司と浅野忠信。日本人のシーンは、アメリカ側のシーンをすべて終えた後に撮影されたため、アメリカ人俳優との接点はほとんどなかった(Reiner Bajo)

 米軍側のキャラクターを演じるのは、エド・スクレイン、デニス・クエイド、ウディ・ハレルソン、パトリック・ウィルソン、アーロン・エッカート、ルーク・エヴァンス、ニック・ジョナスら。だが、状況が状況であるため、アメリカ人と日本人が一緒のシーンはほとんどなく、唯一、同じシーンに登場する機会があるのはウィルソンだけだ(ウィルソンには、かなり長い日本語のセリフもある)。

 撮影自体も、先にアメリカ人の部分をやり、終わってからセットを組み替えて日本人の部分に入ったそうである。戦闘シーンはすべてグリーンスクリーンをバックにしたCGで、製作予算は推定1億ドル。インディーズ映画としては史上最高にお金のかかった作品でもあり、投資を取り戻すためには今後も引き続き健闘することが必要だ。シネマスコア社の調査で観客評価がAと出ていることから口コミ効果も期待できるが、次の週末にはやはり男たちのドラマである「フォードVSフェラーリ」の公開が控える。次の戦いは、果たして切り抜けられるだろうか。日本公開は来年。

[訂正]当初の記事で今作を豊川悦司の「ハリウッドデビュー作」としましたが、1995年の「NO WAY BACK/逃走遊戯」がアメリカでも劇場公開されているとの指摘を受け、訂正させていただきました。お詫び申し上げます。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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