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「ジョーカー」で大注目のホアキン・フェニックスはどんな人?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ホアキン・フェニックスと婚約者ルーニー・マーラ(写真:Shutterstock/アフロ)

「ジョーカー」の大成功で、ホアキン・フェニックス(44)のスター株が急上昇している。Imdb.comの “STARmeter”ランキングでは、今週も首位をキープ(ちなみに2位はトッド・フィリップス監督)。長いキャリアの中では「グラディエーター」「サイン」などヒット作にも出演してきたが、ここまで注目を浴びるのは、初めてといえる。それも、納得。近年、ポール・トーマス・アンダーソンやジェームズ・グレイ、スパイク・ジョーンズなど、個性的なインディーズ監督の作品に好んで出演してきた彼は、映画通好みの渋い役者。ボックスオフィスを引っ張る華やかなスターというイメージとは、ちょっと違ったのである。

 また、一定世代の映画ファンにとって、彼は長いこと、何よりまず“リヴァー・フェニックスの弟”だった。たしかに、人気絶頂期にあったリヴァーが、23歳の若さで亡くなった悲しさは、決して忘れられない。あの時、救急車を呼んだのがホアキンで、ホアキンはその後1年ほど俳優業を休業したことも、彼からあの悲劇を切り離すことを難しくする。

 だが、彼は彼で、本当にユニークな役者なのだ。興味深い側面が、この人にはたくさんあるのである。「ジョーカー」が興行成績で個人記録を打ち立てたこの機会に、そのいくつかを振り返ってみたい。

「ジョーカー」の主人公アーサー役のために、フェニックスは20kgほど体重を落としている(写真/Warner Brothers)
「ジョーカー」の主人公アーサー役のために、フェニックスは20kgほど体重を落としている(写真/Warner Brothers)

オスカー候補入りは3度

「ジョーカー」でオスカー候補入りの可能性がささやかれているホアキンだが、彼がノミネートされるのは、初めてではない。過去に彼は「グラディエーター」で助演男優部門、「ウォーク・ザ・ライン/君に続く道」と「ザ・マスター」で主演男優部門に候補入りしているのだ。もし「ジョーカー」で食い込むことになれば、全部で4度目、主演男優部門では3度目のノミネーションとなる。過去に彼が負けた相手は、「グラディエーター」の時がベニチオ・デル・トロ(『トラフィック』)、「ウォーク・ザ・ライン〜」の時がフィリップ・シーモア・ホフマン(『カポーティ』)、「ザ・マスター」の時はダニエル・ディ=ルイス(『リンカーン』)だった。

 しかし、ホアキンは賞レースというものをそもそも嫌っており、アカデミー賞について「ばからしい」と暴言を吐いたことがある。その言葉はすぐに撤回し、謝罪もしたのだが、後に出演したテレビ番組で、「映画はみんなで作るもの。自分だけが褒められることには納得がいかない」と、思うところを説明している。

3歳の時から完全菜食主義者(ヴィーガン)

 リヴァーは厳格なヴィーガンで、来日した時も蕎麦屋のつゆがカツオだしだと知った途端、食べるのをやめたというエピソードで知られている。それは両親の影響によるもので、ホアキンも3歳からヴィーガンだ。動物の素材で作られた服や小物もいっさい使わず、映画の衣装においてもそのポリシーを貫く。写真撮影のために用意されたプラダの靴を、革製だという理由で履かなかったこともあるそうだ。動物愛護団体PETAが製作した、魚を守るための短編ビデオにも出演している。

音楽の才能も豊か

 カントリー歌手ジョニー・キャッシュの伝記映画「ウォーク・ザ・ライン〜」で、歌のシーンを、ホアキンはすべて自分で歌った。2008年にはラップミュージシャンになるために俳優業を引退すると宣言したこともある。結局それは、彼がおふざけドキュメンタリー「容疑者、ホアキン・フェニックス」のために行ったしかけだったと判明したのだが、音楽への愛は本物。これまでに複数のミュージックビデオを監督し、ミュージックビデオ製作協会賞にノミネートされたこともある。

演技を始めたのは家庭が貧しかったから

 ホアキンが育った家は貧しく、彼を含む5人きょうだいは、幼い頃から道端で歌ったり、音楽を演奏したり、コンテストに出演したりしては、小銭を稼ぎ、家計に貢献してきた。デビューのきっかけになったのは、メジャーネットワークNBCで、母が秘書の仕事、父が庭師の仕事を得たことだ。そこで子供たち5人は、子役専門エージェントに会うことになり、コマーシャルなどに出演するようになるのである。ホアキンのテレビデビューは、リヴァーが出演した1982年の「Seven Brides for Seven Brothers」。映画デビューは、1986年の「スペースキャンプ」。この頃、彼は、リーフ という名を使っている。本名のホアキンに戻したのは15歳の時だ。

人生で初めて婚約中

 過去に女優リヴ・タイラーなどと交際したものの、結婚歴はない。だが、今、人生で初めて婚約中だ。お相手は「her/世界でひとつの彼女」「マグダラのマリア(日本では劇場未公開)」で共演したルーニー・マーラ(34)。ふたりは「マグダラ〜」の撮影中に交際を始め、ホアキンが「ドント・ウォーリー」で男優賞を受賞した2017年のカンヌ映画祭授賞式で、関係を公にした。ルーニーの左手の薬指にダイヤモンドが光る様子が目撃されたのは、今年5月。先月、L.A.で行われた「ジョーカー」のプレミアで、ふたりはカップルとしてレッドカーペットを歩いている。

 ホアキンの妹サマーがケイシー・アフレックと結婚していた時期、ホアキンはアフレック兄弟と親族関係にあった。ルーニーの姉ケイト・マーラはジェイミー・ベルと結婚しており、今度は新たなセレブ義家族ができることになる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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