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作られなかった「セックス・アンド・ザ・シティ」3作目で、ミスター・ビッグは死ぬはずだった

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
2010年、2作目の映画が公開された時の主要キャスト4人とキング(写真:ロイター/アフロ)

 撮影開始直前に中止されて、1年。実現せずに消えてしまった映画「セックス・アンド・ザ・シティ」3作目では、ミスター・ビッグが死ぬことになっていたと判明した。

 このことが明かされたのは、アメリカ時間19日にリリースされた「Origins with James Andrew Miller」(Origins with James Andrew Miller)。56分にわたるポッドキャストの中で、ミラーは、「セックス・アンド・ザ・シティ」の主要キャストと、プロデューサーで脚本家のマイケル・パトリック・キングにインタビューしている。3作目が潰れた原因とされるキム・キャトラルだけは、参加していない。彼女のパブリシストによると「キムは、『セックス・アンド・ザ・シティ』について語るべきことはもう全部語った」ということだ。

 ビッグが死ぬというストーリーだったことを述べたのは、ミラー。なぜキャトラルが3作目への出演を拒否したのかを説明する過程で、彼は、「映画の比較的早い段階でミスター・ビッグが、シャワーを浴びている時に心臓発作を起こして死ぬ」ことを挙げたのだ。その後、映画は、夫を亡くしたキャリー(サラ・ジェシカ・パーカー)が悲しみを乗り越える話が中心になり、サマンサを演じるキャトラルには、あまりおいしくなかったと言うのである。

 興味深いことに、ミスター・ビッグを演じるクリス・ノースは、自分のキャラクターの身に起こる展開を知らなかったらしい。撮影が中止になった段階で脚本を読んでいたのは、主演女優4人だけだったからだ。

「でも、今回の脚本は良いと聞いていたよ」と言うノースはまた、「過去の失敗から学んだのかもね。とくに2作目から」と、本音を隠さずに語った。実は、彼は2本作られた映画のどちらも気に入っていないそうなのだ。「映画は、ユーモアにおいても、ほかの部分でも、テレビシリーズより劣っていた。そもそも僕はやや皮肉屋タイプで、陳腐なものが嫌いなんだ」と批判するノースは、映画1作目の最後で、クローゼットの中でビッグがやっとあらためてきちんとプロポーズをするシーンも「大嫌いだった」と告白。「お涙ちょうだいで、極度にロマンチック。全然現実味がない」と、ぴしゃりと斬っている。

テレビシリーズのミスター・ビッグとキャリー(写真/HBO)
テレビシリーズのミスター・ビッグとキャリー(写真/HBO)

 3作目にキャトラルが出演をしたがらなかった本当の理由は、キャトラル本人の現在の言葉がないのでわからないが、キングは、「この3作目のことでキムに会った時、彼女の中の恐れを感じた。もう1回、あれをやることはできない、もう自分はあれではない、というような。僕は、この脚本で、64歳になったサマンサを書いていたのだけど」と語った。撮影中止が発表された時、メディアは、キャトラルが出演の条件として、自分がプロデュースする作品を実現させてもらうことをスタジオに条件として突きつけたと報道している。後にキャトラルは、「私はあれに出たくなかっただけ。最初からずっとそう言っていた」とその報道を否定したが、このポッドキャストで、パーカーは、やはりそのような条件があったことを示唆した。「キムに出てほしかったから、(撮影前の)夏の間、マイケルと私はずっと努力をし、キムのマネージャーと何度も話をしてきたの。マネージャーが『キムはあなたから話を聞きたがっています』というので、キムにメールもしたわ。『ぜひ脚本を読んでほしい。すごく素敵で、感動できる話だから』とね。だけど、最後には、スタジオから『彼女の要求には応えられない。それをやることは、私たちにとって、経済的に意味をなさないので』と言われてしまったのよ。それで終わってしまった」(パーカー)。

 この話を聞いても、キャトラルが「やりたくない」という姿勢を示してきたことは明白だ。ミランダ役のシンシア・ニクソンは、「彼女がやりたくなかったのは、もう違うことをやりたかったからでしょう。それは正当な理由で、正当な選択。だけど(後になって)その理由をほかの人たちがひどい人たちだったからとしてしまったのは、間違った選択だった」と、キャトラルがインスタグラムでパーカーの非難をしたことを批判している。

 その投稿がなされたのは、今年初め、キャトラルの家族に不幸があった時。パーカーがお悔やみのメッセージを送ったのを受けて、キャトラルは「この悲しい時に、あなたからの愛とサポートなんていらないわ」と書いたのだ。彼女は、「私の母も、『あの偽善者のサラ・ジェシカ・パーカーは、いつになったらあなたを放っておいてくれるのかしらね』と言っている。あなたがコンタクトしてくることで、あなたが今も昔もいかに意地悪なのかを思い出してしまう。はっきり言わせて。あなたは私の家族ではないし、友達でもない。人の悲劇につけこんで良い人ぶるのはやめて」とも続けた。映画の撮影中止から4ヶ月後にソーシャルメディアで起こったこのやりとりが、3作目の可能性に、完全なとどめを刺すことになったのである。

男たちの争いは見ないふり、女だとおもしろがられる不公平

 ポッドキャストの中で、キングは、キャトラルとのトラブルはたしかにあったと認めている。ひとつのシーズンの前と後には、ほぼ必ず同じような揉めごとがあったそうだ。

 原因は、パーカーだけがポスターに出ていることや、お金のこと。それについてキングは、今でこそクオリティの高いドラマで知られるHBOだが、当時はボクシング中継などが専門で、オリジナルドラマを作るのはこれが初めてだったのだという事実を持ち出している。

「次に『ザ・ソプラノズ〜哀愁のマフィア〜』が出てきたけれど、最初は僕らだ。それに、サラは当時、映画スターだった。あの頃、映画スターはテレビに出なかったんだよ。なのに、ボクシングの試合のチャンネルで、しかもタイトルに『セックス』とついているドラマに主演してくれることになったのさ。彼女がいなかったら、この番組はなかった。その事実が反映されただけ」(キング)。

カメラの前で、キャリーとサマンサは大の仲良しだったが...(写真/HBO)
カメラの前で、キャリーとサマンサは大の仲良しだったが...(写真/HBO)

 ニクソンも、シャーロット役のクリステン・デイヴィスも、パーカーだけが大きく取り上げられることをなんとも思わなかったが、キャトラルは「『人気者は私なのに』という態度だった」とも、キング。そんな彼女に、パーカーは、「そうよね、だからこの番組はうまくいくのよね」と応じていたそうだ。

 キャトラルの言葉が聞けないので、これがフェアな視点なのかどうかはわからないが、そもそもこの番組の主要キャストの不仲説は、昔から密かに存在していた。それについて、パーカーは、「女性差別のひとつ」と以前から主張してきている。ここでもまた、彼女はその抗議を繰り返した。「たとえば、『ザ・ソプラノズ〜』のキャストたちが撮影中にケンカをする様子だって、私は目撃してきたわ。なのに、それがメディアで取りざたされることはない。私たち女性は、絶対に仲が悪いはずと決めつけられるのにね」(パーカー)。

 そのゴシップは、番組放映開始から20年が経った今も、落ち着くどころか、さらに煮えたぎっている。だが、意外にも、パーカーは、映画3作目への希望を捨てていないらしい。「アイデアはあるの。それは、マイケルにも話したわ。だから、あるかもしれないわよ。ないかもしれないけど」と、彼女はポッドキャストで語っているのだ。その新しい脚本で死んだことになるのは、ミスター・ビッグではなくサマンサなのだろうか。そうなったらなったで、また女のリベンジと騒がれそうである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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