Yahoo!ニュース

ラスベガス銃乱射事件にハリウッドが大きく反応

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「アメリカでは銃を買うのが簡単すぎる」とツイートしたマドンナ(写真:Shutterstock/アフロ)

「ベガスで起こったことは、そこだけの話(What happens in Vegas stays in Vegas)」。

 はめをはずすことが奨励されるラスベガスで、それは、ずっと言われてきたこと。だが、今月1日夜に起こった大きな悲劇の衝撃は、全米に広がった。現在までに死者59人が確認され、負傷者が500人にのぼるこの事件は、現代アメリカにおいて、最多の犠牲者を出すことになった銃乱射事件。ラスベガスはL.A.から近く、映画や音楽業界と密接なつながりをもつ土地で、しかも狙われたのがミュージックフェスティバルとあり、ハリウッドに与えた衝撃は、ことさら大きい。犯人が犯罪行為に及んだマンダレイ・ベイでは、「オーシャンズ13」「ロッキー・ザ・ファイナル」などが撮影されている。

 事件を受けて、クロエ・グレース・モレッツ、エレン・デジェネレス、リアーナ、レディ・ガガ、テイラー・スウィフトなど、多くのセレブがツイートを通じて犠牲者と遺族にお悔やみのメッセージを送った。中には、ブリトニー・スピアーズやセリーヌ・ディオンなど、長期にわたってラスベガスでショーを行ってきた人も含まれる。

 マドンナは「アメリカでは、銃を買うのが簡単すぎる。これは止めなければ」、ジョシュ・ギャッドは「議員さんたちへ。今は追悼する時ではありません。行動する時です。今すぐ」と、銃規制も主張した。だが、とりわけ心を動かしたのは、コメディアンでトーク番組ホストのジミー・キンメルだ。

 ラスベガス出身のキンメルは、現地時間2日(月)の自らの番組に、最初からやや涙声で登場。キンメルは、「病んだ人が、17個も銃を持ち込んで、向かいにいる2万2,000人に向かって銃を撃ち始めたのです。その結果、今朝は、両親がいない子供、息子を亡くした父、娘を亡くした母などが出ることになりました。こういうことを聞くと、吐きたくなって、あきらめたくなります」と語った。続いて、「この男には犯罪歴が無く、彼に銃を売った店も、政府が要求する経歴チェックをしたところ、通過したのだと言っています。政府の要注意者のリストにも載っていませんでした。どこからともなく現れたわけです。外から来る人には入国規制をしたり、壁を作ろうと言ったりするのに、アメリカの中にいる人には、何もなされていないということですよね」と、以前から多くが指摘してきた矛盾を、あらためて追及。さらに、「この水曜日に、トランプはベガスの被害者を訪問すると言いますが、彼は、2月、銃を買いやすくする法律に署名しているのですよ」と、トランプを攻撃した。その後には、銃規制をとくに反対してきた上院議員を、顔写真つきで紹介している。

事件を受けてふたつのプレミアがキャンセルに

 この事件を受けて、L.A.で行われる予定だったふたつのプレミアがキャンセルされている。ひとつは話題作「ブレードランナー 2049」、もうひとつは、チャドウィック・ボーズマン主演の「Marshall」だ。

 今年5月には、マンチェスターでのテロ事件を受けて「ワンダーウーマン」のロンドンプレミアがキャンセルされたばかり。同作品を製作配給したワーナー・ブラザースは、昨年にもブリュッセルでのテロを受け、「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」のロンドンプレミアをキャンセルしている。

 「ブレードランナー〜」はSF、「Marshall」は伝記映画で、テロと直接の関係はなく、公開日に変更はない。今のところ、ほかの作品にも公開延期の話は聞かれないが、それはたまたま、この時期に、事件を連想させるような描写がある映画の公開予定がなかったからだろう。たとえば、2012 年に「ダークナイト ライジング」が上映されていたコロラドの映画館で乱射事件が起こった時には、映画館での射撃シーンがある「L.A.ギャング ストーリー」が、差し替えのシーンを撮影するために公開延期となっている。もっと前に遡れば、「V・フォー・ヴェンデッタ」が2005年のロンドン同時爆破事件を、「コラテラル・ダメージ」が9/11を受けて、公開が延期された。

  映画やビデオゲームのバイオレンスが実社会の犯罪を煽っているとの批判は、古くからなされてきたこと。だが、悲しくも無差別大量殺人が日常化してきた今、それは逆に聞かれなくなってきている。手口は多様化し、むしろ単純化もして、今や、犯罪は映画の先を行くようになっているのだ。

 そして、映画と違い、実際の犯罪では、実際に人が死ぬ。今回のベガスの事件の犠牲者には、ディズニーランドの従業員も含まれていたとのことで、ディズニーのCEOボブ・アイガーは、追悼のメッセージを、ツイートを通じて送っている。

 アイガーは、現地時間火曜日、「わが国にとって最大の危機」「政治家と真面目な話し合いをしないといけない」とも語った。しかし、トランプと選挙を争ったヒラリー・クリントンをはじめ、民主党は、以前から銃規制を推進してきている(もちろんアイガーも民主党派)。それがかなわないのは、保守派が全米ライフル協会とつながっているから。そこでは大きなお金が動いている。この問題の解決は、映画のように2時間では終わらせられないのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事