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アンジェリーナ・ジョリーがプロデュースしたアニメ、トロント映画祭で上映

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ジョリー、トゥーミー監督、主人公の声を務めるサラ・チョードリー(写真:Shutterstock/アフロ)

 女優、母、慈善活動家、映画監督。去年まであった「妻」こそ失ったものの、それを補うかのように、アンジェリーナ・ジョリーに新しい肩書きができた。アニメのプロデューサーだ。

 現在開催中のトロント映画祭でプレミアされたその映画のタイトルは、「The Breadwinner」。物語の舞台は、2001年のアフガニスタン。11歳の少女パルヴァナは、父、体の弱い母、姉、幼い弟と、カブールの小さな家で暮らしている。だが、ある日、パルヴァナが父の商売を手伝っている途中、理不尽なことから、父はタリバンの手下に連れ去られ、刑務所に入れられてしまった。

父が連れ去られるまで、5人家族は幸せに暮らしていた
父が連れ去られるまで、5人家族は幸せに暮らしていた

  唯一の男手をなくした一家は、途方に暮れる。アフガニスタンでは、女性は男性の付き添いなしに外出することが許されないのだ。一家はもはや、稼ぎに出ることも、食品を買いに出ることもできない。そんな中、パルヴァナは大胆なことを思いつく。髪を切り、亡くなった兄が遺した服を着て、男の子を装うのだ。

 男の子になったパルヴァナは、外に出て、一家の稼ぎ頭(breadwinner)として働く。 看守に賄賂を渡し、刑務所にいる父にこっそり面会させてもらうためにも、パルヴァナはせっせと仕事をしなければならない。

  ジョリーが今作に関わったのは、脚本もまだ初稿段階の、とても早い時期のこと。難民や紛争地区の人々の支援に長年たずさわってきた人だけに、今作に興味をもってくれるのではないかと、プロデューサーが彼女に脚本を見てもらったのが始まりだ。期待どおり、ジョリーは関心を示し、アイルランド人の監督ノラ・トゥーミーは、彼女と会うべく、L.A.行きの飛行機に乗ることになる。

パルヴァナの声を務めるのは12歳のカナダ人女優サラ・チョードリー
パルヴァナの声を務めるのは12歳のカナダ人女優サラ・チョードリー

「飛行機の中で、これはただの出張なんだと自分に言い聞かせていたわ」と、トロント映画祭本部にほど近い建物の一室で、トゥーミーは当時を振り返って笑った。「空港のターミナルを歩いている時も、売店に置いてある雑誌の表紙に、 彼女の写真が出ているのを見た。それも、素敵に着飾った、美しい姿の写真がね。でも、実際に会ってみたら、すごく優しい、話しやすい人だったの。彼女はアフガニスタンの子供たちに教育を与えるための活動を行ってきている。実情をよくわかっている。彼女との会話は、今始めたというよりも、以前からの続きみたいな感じで展開したわ」。

 トゥーミーによると、ジョリーが今作に与えた影響と貢献は、はかりしれないものがあるそうだ。

「当時のカブールの様子やアフガニスタンの子供、文化を忠実に描くために、彼女は何人かのコンサルタントを紹介してくれた。ほかにも、いろいろ細かいアドバイスをくれたわ。正しいビジュアルと雰囲気を作り上げる上で、彼女は大きな手助けをくれたの」。

男の子のふりをするパルヴァナ(左)
男の子のふりをするパルヴァナ(左)

 この映画祭では、ジョリーの関わる映画がもう1本上映されている。 彼女自身が監督する「First They Killed My Father」だ。彼女の親しい友人でもあるルオン・ウンのメモワールの映画化で、クメール・ルージュ政権のカンボジアが体験した恐怖を描くもの。映画の最後にはウン本人が登場し、ジョリーの長男マードックス君がエクゼクティブ・プロデューサーに名を連ねるなど、彼女にとって個人的に大きな意味をもつ作品だ。実写とアニメという違いこそあれ、この2作品には、明らかに通じるものがある。

「娯楽大作とは違うタイプの物語を語りたいという部分でも、私と彼女は共通している。私たちは、会話のきっかけを作り、深く考えてもらえるような映画を作っていきたいの」とトゥーミー。アニメは、その意味でも有効な手段だ。

「私自身も母親。この映画は、わが子のためにも作った。できるだけたくさんの子供たちに、この映画を見てほしい。そうすることで、次の世代が変わってくるかもしれないわ」。

場面写真/Courtesy of TIFF

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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