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ジェフリー・ラッシュが語る「パイレーツ・オブ・カリビアン」成功の理由

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「パイレーツ〜」最新作でストーリーの鍵となる部分を担うジェフリー・ラッシュ(写真:Shutterstock/アフロ)

オスカー(映画)、トニー(舞台)、エミー(テレビ)賞の3つを制覇した、ごくひと握りの超実力派 。だが、 ジェフリー・ラッシュは、世間一般には「パイレーツ・オブ・カリビアン」のバルボッサで広く知られている。 彼は、この役を、14年の間に5回も演じてきたのだし、シリーズは過去4作合わせて世界で37億ドルも稼いだのだから、それも当然だろう。

実在の人物を演じる「シャイン」でオスカーを受賞し、その後も「エリザベス」「クイルズ」などシリアスな時代物で知られてきた彼が、テーマパークのアトラクションにもとづく娯楽大作に出演するというのは、当時、やや意外に受け止められた。だが、彼がこのシリーズの人気に多くの貢献をしてきたのは、間違いない事実。バルボッサがストーリーの重要な鍵を握る最新作「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」では、これまで以上に彼の存在が光る。

今作は、彼の出身国オーストラリアで撮影され、彼の娘もスタッフのひとりとして現場で仕事をした。「娘は、僕がこの映画に出ることを誇りに感じてくれているよ」と嬉しそうに振り返るラッシュに、このシリーズの魅力を語ってもらった。

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「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉」から6年ぶりに作られる今作では、あなたが演じるバルボッサの過去が語られます。脚本を読んでどう思いましたか?

今作の前に、前の4作をあらためて見直したんだよ。そして、今回のストーリーは、とても意味をなすと思った。今作では、1作目の前のバルボッサが語られる。彼は、辛い思い出と罪悪感を、ずっと隠してきていたんだ。あのことはなかったと思おうともしている。彼が猿を連れているのにも、それは関係しているんだよ。そんなふうに、全部がつながったんだ。シリーズが続くにつれて、キャラクターはみんな年をとってきた。バルボッサも、もう全盛期は過ぎている。そんな彼の前に若くて頭が良い女性が現れるのも、良いと思ったね。彼女は彼より明らかに優秀。だから彼は嫉妬を覚えるんだ。

そもそも、なぜ最初の「パイレーツ〜」に出ようと思ったのですか?

楽しそうだと思ったんだよ。僕が演じるキャラクターは悪役で、最後に死ぬし、共演はジョニー・デップだというんだから。「ギルバート・グレイプ」などにでてきた彼は、当時、インディーズ映画のヒーロー的存在だった。その彼がこの大作映画に出て、キャリア初のオスカー候補入りを果たすことになったわけだよ。続編を作って三部作にすると言われた時、僕は「僕のキャラクターは映画の終わりで死んだよね?最初からもっと考えてストーリーを作ったらよかったのに」と、正直に言った(笑)。でも、2作目では彼が政治家のような立場にあるとわかり、それはおもしろい方向にキャラクターを引っ張っていけるかもしれないなと、興味を感じたのさ。

「パイレーツ〜」は、なぜここまでのヒットになったのだと思いますか?

海賊映画は、昔から人気があった。灼熱の太陽の下、広い海を漂っているというところに、人はなにかロマンチックなものを感じるのだろう。「パイレーツ〜」には、想像力をさらに刺激するものがある。一番大きな要素は、ジョニー・デップだ。彼は、過去に誰も考えたことがない海賊を作り上げてみせた。ジョニーは、とてつもなくクリエイティブな人で、次々にアイデアを出してきたよ。

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ジャック・スパロウはいつも太陽の下にいてラムを飲んでいるから、脳みそが溶けているというのが、そのひとつ(笑)。映画には、海の上にいる場面も、地上にいる場面も出てくるが、どちらの場合も、ジャックは足元がおぼつかず、奇妙な歩き方をするというのも、彼が持ち出してきたことだ。服装やメイクも彼のアイデアだし、 「この人をモデルにする」と、ミュージシャンの名前を挙げてもいる。

つまり、ある程度、伝統的なイメージを守ってはいるけれども、ステレオタイプにはほど遠いのさ。バルボッサにも、それは言える。バルボッサが、オウムではなく猿を連れているのもそう。自由な精神を象徴するジャックと、コントロールフリークのバルボッサが生み出す独特の関係も、興味深いと思う。

あなたが考える優れた役者とは、どんな役者ですか?

見ていてときめきを感じさせる俳優だね。派手で大げさな演技という意味じゃないよ。

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常にシフトを変えるので、見る側が目を離せなくなる、そんな演技のことだ 。今作で共演したハビエル・バルデムは、まさにそれをやる。彼の役は怒りを抱えているが、その背景にあるものを、彼はしっかり考え尽くした上で演じている。

「パイレーツ〜」シリーズは、この後も続くのでしょうか?

僕にはわからないな。ただ、今作は、現場で娘と一緒に仕事ができたこともあって、僕にとっては特別な1作となった。娘は、僕がバルボッサという重要な役を演じることを誇りに思ってくれたよ。それはさておいても、この映画は、ハリウッドの夏の超大作の中でも、一味違う作品だと思うな。

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「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」は、7月1日全国公開。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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