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L.A.TIMES紙の「アカデミーが考慮すべき100人」に北野武、菊地凛子、種田陽平

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
菊地凛子はL.A.TIMESが挙げる100人に選ばれた

演技部門候補者20人が2年連続で全員白人だったことが激しく非難された今年のオスカー。スパイク・リーらがボイコットを表明する中、アカデミーはすばやく動き、ルールを変更して、2020年までに女性とマイノリティの会員数を現在の2倍にするという目標を発表した(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160123-00053708/。)

この“白すぎるオスカー”バッシングをリードしてきたのが、L.A.TIMES紙だ。アカデミーの94%が白人、76%が男性、平均年齢63歳という実態を、2012年に独自の調査で暴露して以来、L.A.TIMESは、この問題を追いかけ続けてきている。アカデミーにさらなるプレッシャーをかけるべく、同紙は、米西海岸時間5日(日)の文化面で、「私たちが挙げる多様な100人」と題した、アカデミーに入るにふさわしい女性、マイノリティ、LGBTの映画人たちをリスト出しする特集記事を掲載した。

アカデミーから考慮してもらうための重要な条件のひとつは、劇場用映画の世界で“並外れた仕事をしてきたこと。”この100人を選ぶために、L.A.TIMESは、俳優、監督、撮影監督、衣装デザイナー、脚本家、映画祭関係者、ジャーナリスト、マイノリティ団体などに取材し、意見を聞いたということだ。俳優、監督はもちろん、視覚効果、音響、ドキュメンタリー監督なども含む100人の顔ぶれには、北野武、菊地凛子、種田陽平の名前も混じっている。

以下が、北野、菊地、種田氏の選出理由。

北野“ビート”武(『座頭市』『HANA-BI』『バトル・ロワイアル』)

アメリカ人の中には彼の作品を知らない人もいるかもしれないが、彼の出身国日本では、コメディアン、テレビ番組司会者、監督、俳優として活躍してきた、伝説的人物だ。カンヌ、ヴェネツィア、トロントなどの映画祭で作品が上映され、受賞もしている。

菊地凛子(『バベル』『Kumiko, the Treasure Hunter』)

2006年の「バベル」でオスカーにノミネート。日本人女優が候補入りするのは、50年ぶりのことだった。2010年の「ノルウェイの森、」2013年の「パシフィック・リム、」2014年の「Kumiko, the Treasure Hunter」に出演している。「Kumiko〜」では、インディペンデント・スピリット賞にノミネートされた。

種田陽平(『キル・ビル Vol.1』『ヘイトフル・エイト』)

プロダクションデザイナーとして、アメリカ、中国、台湾、日本などで仕事をしてきている。手がけたプロジェクトに、「モンスター・ハント」や、クエンティン・タランティーノの「キル・ビル Vol.1」「ヘイトフル・エイト」などがある。

そのほかに、アジア人では、チャン・イーモゥ(『初恋のきた道』『HERO、』)ジェームズ・ワン(『ソウ』『ワイルド・スピード SKY MISSION、』)カリン・クサマ(『ガールファイト』『イーオン・フラックス、』)ケン・チョン(『ハングオーバー! 消えた花婿と史上最悪の二日酔い』)などがリスト入りした。

黒人では、今年のオスカーに候補入りするべきだったという声が強かったマイケル・B・ジョーダン(『クリード チャンプを継ぐ男』『フルートベール駅で、』)イドリス・エルバ(『Beasts of No Nation(日本未公開)』『マンデラ 自由への長い道』)のほか、チャドウィック・ボーズマン(『42〜世界を変えた男』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ、』)ジョン・ボイエガ(『スター・ウォーズ/フォースの覚醒、』)ナオミ・ハリス(『007 スカイフォール』『マンデラ 自由への長い道、』)ライアン・クーグラー(『クリード チャンプを継ぐ男』)など。そのほかの人種では、エドガー・ラミレス(『ゼロ・ダーク・サーティ』『悪の法則、』)ロドリゴ・サントロ(『300<スリー・ハンドレッド>』『チェ 28歳の革命、』)オスカー・アイザック(『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』『アメリカン・ドリーマー 理想の代償、』)アジス・アンサリ(『ピザボーイ 史上最凶のご注文』)らが入った。LGBTからは、ラナ&リリー・ウォシャウスキー(『マトリックス』『ジュピター、』)ミア・テイラー(『Tangerine』)などの名前が挙がっている。

自らもマイノリティ女性である現アカデミー会長シェリル・ブーン・アイザックは、就任以来、会員の多様化に積極的に取り組んできた。今年1月に改定されたルールでは、現会員が新会員候補を推薦するというやり方のほかに、世界規模で優れた人物を探し、アカデミーのほうから声をかけるというやり方もできるようになっている。現会員が推薦する形だと、親しい人を勧めることになりやすく、新しく入ってくるのもまた白人の男性ということになりがちなので、これは有効なルールと思われる。

とは言え、アカデミーの全体会員数が6,261人で、毎年新しく入れるのが300人程度という事実を考えると、実際に顔ぶれが変わっていくのに長い時間がかかるのは必至だ。昨年も、ジャスティン・リン、ケビン・ハート、エマ・ストーンなど、マイノリティや若手を意図的に入れたにも関わらず、今年のオスカーの演技部門は全員白人という結果を生んでいる。

アイザックが目標に掲げるとおり、2020年までにマイノリティと女性の会員数を倍にするためには、毎年130人のマイノリティと、375人の女性を入れなければならないと、L.A.TIMESは算出している。多様性を重視するがために、会員の基準が下がることになるのではという不安を感じている現会員は少なくない。過去にアカデミー会長を務めたホーク・コックは、「どの人種や性別であれ、そんなにたくさん資格をもつ人はいない」と発言している。事実、このL.A.TIMESの100人のリストにも、主にテレビに出てきた人や、ミア・テイラーのようにまだ映画に1本しか出ておらず、その前は素人だったという人の名前が見受けられる。「劇場用映画の世界で並外れた仕事をしてきた」という基準を保つならちょっと苦しいというのは、否定できない。

その一方で、このリストの中には、十分すぎるほど資格をもつ人たちも、たくさんいる。この中から実際に招かれる人も出てくるだろうし、出てくるべきである。それが誰なのか、結果が待たれる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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