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ドリームワークスアニメ、買収決定。カッツェンバーグは4億 800万ドル(441億円)を獲得

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
買収成立後、ジェフリー・カッツェンバーグはアニメの現場を離れる(写真:ロイター/アフロ)

コムキャストによるドリームワークス・アニメーション(DWA)の買収が、早くも決定した。二社が買収の話し合いをしていることをWall Street Journal紙が報道してから、48時間もたたないうちに結論が出されたわけだ。DWAのCEOジェフリー・カッツェンバーグが、これまでさまざまな会社と交渉をしては決裂に終わっていたことを考えると、驚きのスピードだった。

買収価格は38億ドル。DWAの市場価値は23億5,000万ドル前後で、コムキャストはそれを上回る30億ドルを払うつもりでいると報道されていたが、実際にはさらに高い金額がオファーされた。DWAの筆頭株主であるカッツェンバーグは、この買収で、4億800万ドル(約441億円)を手にすることになる。DWAの共同創設者であるスティーブン・スピルバーグも1億8,760万ドルを受け取るが、3人目の共同創設者デビッド・ゲッフィンは、現在では少量の株しか所有しておらず、大きな儲けは期待できない。

コムキャストはすでに「怪盗グルーの月泥棒」などを成功させているイリュミネーション・スタジオを傘下に抱えるが、ディズニーがピクサー買収後もピクサーとディズニー・アニメーション・スタジオズを統合せずに残したように、イリュミネーションとDWAは別のブランドとして経営を続ける模様だ。ふたつのアニメスタジオは、イリュミネーションのトップであるクリス・メレダンドリが率い、カッツェンバーグは、ドリームワークス・ニューメディアの会長に就任する。ドリームワークス・ニューメディアは、DWAが先に買収しているAwesomeness TVをはじめとするニューメディアのビジネス展開を行う。カッツェンバーグはまたNBCユニバーサルのコンサルタントも務めることになるという。

コムキャストがDWAをあっさりと買った理由のひとつは、買えるから。大手ケーブル会社で、アメリカ最大のインターネットプロバイダーでもあるコムキャストは、ユニバーサル・ピクチャーズ、メジャーネットワークNBCを所有し、市場価値は1,500億ドルといわれる。38億ドルの買い物など、ローンを組まずしてもできるのだ。実際、買収の話が進んでいるという報道が出た時、DWAの株価は16%跳ね上がったが、コムキャストの株価は1%しか上がっていない。

市場価値以上を払ったとはいえ、その値段で創業20年以上のDWAがもつコンテンツが手に入るなら、彼らにとっては十分魅力的だ。イリュミネーションはたっぷり利益を上げているが、歴史が浅く、まだ作品もキャラクターも少ない。テーマパークはコムキャストの重要なビジネスで、今年最初の四半期、ユニバーサル・スタジオの収益は、前年同時期に比べ、58%もアップしている。コムキャストはすぐにでも「シュレック」や「カンフー・パンダ、」「ヒックとドラゴン」などのアトラクションを企画し始めるだろう。

この買収劇を見て、コムキャストはディズニーを手本にしているのではと指摘する声も聞かれる。ボブ・アイガーがCEOに就任して以来、ディズニーは、ピクサー、マーベル、ルーカス・フィルムを買収し、それらのコンテンツやキャラクターを、映画、テレビ、関連商品、テーマパークなど、すべての側面で最大限に活かし、収益を上げてきた。コムキャストが同じことを狙っても、不思議ではない。近年ヒットに恵まれず、負債も多いDWAは、ピクサー、マーベル、ルーカスには完全に劣るが、本業のケーブルとインターネットで2,300万世帯に入り込んでいるコムキャストには、消費者動向を知ったり、データを集めたりできる強みがあり、より有利な形でコンテンツを活用していくことができるかもしれない。

ところで、DWAに高値がついたことを喜んでいる人々の中に、パラマウントの親会社ヴァイアコムのCEOフィリップ・ドーマンがいる。ヴァイアコムは、パラマウントの一部のオーナーシップを競売にかけているところなのだ。ドーマンは、アナリストたちに対し、「DWAは、年にたった2本しか映画を公開しないのに」と、この買収は映画スタジオのもつ価値の大きさを証明するものだと語った。パラマウントは、1年に10本から15本を公開する上、100年の歴史の間に製作された、膨大な数の映画を所有している。競売には、すでに中国の大手企業などが興味を示しているとされるが、DWAの買収で、新たな注目が集まる可能性はある。DWAの買収発表直後、パラマウントの株価は9%弱アップしている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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