ホームランはありえない?意外にも厳しい、世界における野球映画の活躍状況

ハリソン・フォード(左)とチャドウィック・ボウズマンの「42」は批評面でも成功

「42~世界を変えた男~」が、今週末、日本でも公開になる。黒人で初めてメジャーリーグ入りをしたジャッキー・ロビンソンの苦悩を描くこの映画は、4月に北米公開され、9500万ドルを売り上げるスマッシュヒットとなった。野球映画としては、「プリティ・リーグ」に次いで史上2番目という快挙だ。

 だが、日本を含まない海外の興行収入は、なんとたったの4万9897ドル。片手で足りる程度の国でしか公開されなかったというのもあるが、それにしても低い。かつては閉鎖的だった中国、ロシアなどの市場が急成長し、近年はハリウッド映画の全体成績に占める海外の割合が全体の7割を占めるなどということもよくある時代だけに、なおさら驚きだ。

 野球映画のハードルは、単純に、野球が出てくること。国民的に野球が愛されている国は非常に限られており、ヨーロッパでは野球というだけで、多くの人はその映画に興味を失う。たとえば「マネーボール」も、ブラッド・ピットが主演で、オスカーに複数の主要部門でノミネートされたにも関わらず、北米興収が7500万ドルなのに対し、海外は3400万ドルだった。ブレット・ミラー監督や、プロデューサーも兼任するピットは、公開前、海外のジャーナリストに対し、これは野球映画ではなく、既存のシステムに疑問をもち、新しい視点からアプローチした人たちの経営戦略ストーリーだとひたすら強調した。宣伝ポスターを、背景に球場こそ見えるものの、世界的スターであるピットを見せるようなデザインにしたのも、意図的だろう。彼らの主張はたしかに正しいが、選手のトレードやドラフトといったシステムをまるで知らないと、やはりちょっとわかりにくい部分があるかもしれない。

 クリント・イーストウッド主演作「人生の特等席」は、アメリカでも大コケで、北米興収はたった3500万ドルだった。海外はその3分の1の1300万ドル。野球選手のスカウトマンである父(イーストウッド)と、長年うまくいっていない娘(エイミー・アダムス)が絆を取り戻していく父娘の語が中心ではあるが、野球もストーリーに非常に重要な役割を果たす。それぞれの国でどんなタイトルに訳されたかはわからないものの、「Trouble with the Curve」という原題からして、いかにも野球だ。

 こんな状況の中で、まだ野球の映画を作りたければ、何よりもまず、バジェットを低く抑えなければならない。「42」は4000万ドルで製作され、1億ドル近く売り上げたのだから、まさに成功例。最初から海外をほとんど見切り、ドジャースのジャッキー・ロビンソン・デーに合わせて公開日を設定し、L.A.のメディアにたっぷり取り上げられたのも、賢いマーケティングだった。「マネーボール」は予算が5000万ドル、世界興収1億ドル強なので、まずまずと言ったところ。

 低いバジェットの作品に大スターを惹きつけたければ、彼らがやりたがるような、魅力的な物語であることが大前提だ。良い話で、人気スターが出演を約束しているといえば、スタジオも金額次第で検討する。大型アクションやスーパーヒーロー物など、ハリウッドがますます海外受けしやすい映画を作ろうとする中、それでも出てくる野球映画がこれからもあるならば、そんなハードルをクリアした分、良い映画であることが期待できるかもしれない。