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なぜEUは中国に厳しくなったのか。見るべき3つのポイント【後編】バルト3国、中露の違い、ボレル外相

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
EUの中で影響力を発揮するボレル外相。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

最近は、欧州連合(EU)の中国への姿勢が著しく変わってきた。

昨年度末に慌ただしく合意に至った投資協定は、5月、欧州議会の議決により凍結された。

ウイグル人権問題で、EUが厳しい制裁をくだすことになったのは、昨年末に成立した新しい法律「グローバル人権制裁制度」を使ってのものだ。

これは個人や組織に対して制裁を加えることを法整備化したもので、アメリカでオバマ時代に制定されたマグニツキー法がモデルとなっている。

前編では、EUと中国・ロシアとの関係を詳しく説明した。

【前編】なぜEUは中国に厳しくなったのか。前は擦り寄っていたのに:米マグニツキー法とロシアとの関係

後編の今回は、なぜEUの中国への態度が厳しくなったのか、見るべき3つのポイントを紹介したい。

1、北欧の動きと中国

7月3日、茂木外相は、バルト3国歴訪を無事に終了した。日本の外相として初となった訪問だった。

日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向けた協力や、2国間関係の強化で、両者は一致したという。日本は、東欧で積極的に経済協力を進める中国を念頭に、各国と連携拡大を図ったのだった。

この訪問は、欧州で起きていることを実によく見極めているものだと思う。

なぜこの時期だったかというと、EUは、9月までに中国の海洋進出などを念頭においた「インド太平洋戦略」を策定する方針だからだろう。茂木外相は、バルト3国が「EUの中で建設的な役割を果たしてもらえる手応えを感じた」と強調した

なぜバルト3国なのだろうか(北からエストニア・ラトビア・リトアニア)。これらの国は日本人にはあまり馴染みがないが、どのようなことが欧州で起きているのだろうか。

EU版の「マグニツキー法」を制定するまで

前編で説明したように、オランダ政府が「EUにもアメリカのマグニツキー法に相当する法律を」とイニシアチブをとった。しかし、当初は躊躇する加盟国もあったという。なぜそれでも実現したのだろうか。

北欧の国々が、強力にオランダを援護射撃したのだった

特にデンマークとスウェーデンは強力で熱心で、もしEUでマグニツキー法が実現しないのなら、「北欧理事会」の8者で独自の制裁メカニズムをつくることさえ示唆したのだという。

「北欧理事会」とは、EUとは別の組織である。加盟国は5カ国、デンマーク、スウェーデン、フィンランド(EU加盟国)、アイスランドとノルウェー(非EU加盟国)からなる。ここに自治地域が3つ(グリーンランド、フェロー諸島、オーランド諸島)が準加盟となっていて、合計8者となっている。

そして、バルト3国はオブザーバーとして参加している。

北欧理事会のメンバー。紺が正式加盟国。青が準加盟地域。その他バルト3国など。Wikipediaの地図をもとに筆者が作成。
北欧理事会のメンバー。紺が正式加盟国。青が準加盟地域。その他バルト3国など。Wikipediaの地図をもとに筆者が作成。

デンマークとスウェーデンが熱心だったのは、同じくEU加盟国の仲間であるバルト3国の要請があったからと言われている。

バルト3国は元ソ連の国で、ロシアに対する警戒感が強いためだろう、すでにマグニツキー法に相当する法律をもっている。

EU内で、バルト3国だけで「マグニツキー法を」と望むより、北欧理事会の中心的メンバーであるスウェーデンとデンマークと一緒のほうが、ずっと強い。彼らが一致協力してオランダを支持したから、一定の力がうまれたのだろう。

こうしてEUで昨年12月、EU版マグニツキー法である法律「グローバル人権制裁制度」が誕生した。

ただ、最終的には合意したものの、躊躇する国もあったので、ロシアを刺激する「マグニツキー」という名前は、配慮して法律につかなかったのだったという(欧州議会は望んでいたのだが)。

このように、EU内で同志を募って一致協力してグループをつくり、推し進めてEUの法律を制定していくのは、よくあることである。

地政学的には、バルト3国と日本で、ロシアを挟むことができる。ロシアは今のところ日本にとって、際立った軍事的脅威はないが、アメリカがからんで不穏な空気はすでに一部生じている。今後中国と連携してどのような行動をとってくるのか、警戒が必要だ。

バルト3国と日本の協力関係は、EUと日本の関係につながり、ロシアにとって牽制になり、中露関係、そして日本との関係にも影響を及ぼす可能性が大いにある。

茂木氏は、今後策定されるEUのインド太平洋戦略について「日本、EU、バルト3国が共有する方針がしっかり反映されるだろう」と述べた。

思えば日露戦争の際、ポーランドが日本に協力を申し出たことがあった。理由は上記と同じだろう。それを日本は断った。1世紀を経て、日本の国際感覚も飛躍的に向上したものだ。

2、中国とロシアの違い

さて、ル・モンドの論説委員であるシルヴィ・カウフマン氏が、大変面白いことを書いている。

EU27カ国は進んで制裁を行っているが、力の試練にはほとんど慣れていない。ジョゼップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表(以下、ボレル外相)は常々「力の言語を学べ」と言っている。明らかに学習には時間がかかるだろう。

EUは制裁を複数の国に課したが、顔面に棒を打ちつけられるのには慣れていない。

ロシアに関しては、ある程度までは報復措置の対応を知っている。目には目を、歯には歯を、である。

EUに対して、ロシアが同等性なのに対して、中国は激化する。EUは、中国はロシアとは違うと発見しているところである、

ーーというのである。

それでは、ロシアと中国はどう違うのか。

まずロシアである。

ロシアがEUに対して「目には目を、歯には歯を」だと聞くと、なんだかすさまじいような印象を与える。

確かに、どう出てくるかわからない怖さがロシアにはあるが、ここでより重要なのは「同等性」という発言のほうだと思う。

つまり、目の戦いなら目だけ、歯の戦いなら歯だけ、それ以上のことはして来ないという意味だと言えるだろう(これは古代バビロニアのハムラビ法典の記述だが、これが本来の意味でもある)。

プーチン大統領は、民主主義的な仮面をかぶることを知っている。

クリミア併合の時は、クリミアで住民投票を行い、「住民の意志でロシアに所属した」という形となった。

住民投票の結果の正当性には批判が絶えないが、それでも「ロシア帰属」という住民の意志がまったくのでっちあげとは言えない土壌が、クリミア半島にはある。

また毎年恒例で、「プーチンとの直接対話」という生放送番組に登場して、国民の質問に答えている。事前に寄せられたり、スタジオの観客や中継で結ばれた各地の人たちから聞かれたりするという形式だ。質問は100には届かないものの大変多く、4時間ぶっ続けで答えたこともあるという。

それに、ロシアで体制批判のデモは行えない訳ではないし、不完全とはいえ選挙も行われている。

筆者は常々「プーチン大統領は、ヨーロッパ人でいたいのだ」と感じてきた。しかし最近は強権化と反動化が強まり、それが欧州を不安に陥れている(プーチンも年取ったのかもしれない)。

一方、中国はどうだろうか。

EUは、ウイグル人の大規模な弾圧に関与した新疆ウイグル自治区の中国政府関係者4名に制裁を加えた。ところが北京はその報復として、10人のヨーロッパ人と、4つの機関を制裁するという2倍、3倍もの仕返しに出てきた。

10人のうち5人は欧州議員、あとの5人は、2020年6月に設立された「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC:Inter-Parliamentary Alliance on China)のメンバーである。これは、北米・欧州・オセアニア・日本・ウガンダの19カ国の議員が参加している(日本からは中谷元議員と、山尾志桜里議員が参加)。

また、フランスの財団の研究者の一人、つまり一般市民が、ツイッターで中国体制を批判した。すると、なんと中国大使館が乗り出してきて「小さなパンチ」とか「狂ったハイエナ」などと侮辱してきた。

外交官としてあるまじき行為だったために、フランスの外交責任者が勤務時間中に「外交ルールを思い出してもらう」ために、在仏中国大使を呼んだ。しかしスケジュールを理由にすぐには応じなかった。と今度は、北京のEU大使が真夜中にいきなり呼び出された。

このように、どんどん問題がエスカレートしてきている。ロシア人とは全然異なる。まるで野蛮人を相手にしているかのようなのだ。

特に問題になったのは、北京から制裁を受けた5人の欧州議会議員の中には、対中関係で大きな影響力を持つドイツのグリーン・ラインハルト・ビュティコファー中国議会グループ議長も含まれていたことだ。

中国共産党によれば、「ビュティコファー氏は、中国が新疆ウイグル自治区や香港の問題を処理していることを言い訳にして、頻繁に中国を批判し、中国とEUの投資協定を妨害している」から制裁リストに加えたのである。

このことが欧州議会で5月21日、中国との投資協定の凍結を「賛成599、反対30、棄権58」の圧倒的多数で採択した、最も大きな理由ではないだろうか。議員に対する中国の制裁行為は、党派を超えて、欧州議員達を怒らせたのだ。

中国は、アメリカとの関係が冷え込むなかで、EUとの投資協定の実現を切望していた。そもそも、一帯一路の終点はヨーロッパである。欧州議会をなめたために、習近平の一帯一路政策は、根本から見直しを迫られる可能性がある。

中国のなめきった態度

中国とロシアは、その関係の密接さを強調し始めた。

前編で解説したように、EUの頭の中にあるのはむしろロシアであり、ロシアと中国の結託を警戒している。しかし、ロシアと中国がそれほど一枚岩なのかは、まだよくわからない。

ロシアは、EUに対してもアメリカに対しても、関係の一層の悪化は望んでいないようだ。バイデン大統領との会談も成功させた。

対して中国は、アメリカには強気に出ては見せても、関係の悪化を望まないシグナルを同時に送っているのに、EUに対しては態度が異なる。

3月22日の中国共産党の『環球時報』は、以下のように伝えている

取り残されたと感じているEUは、中国とロシアに対して「人権問題」での制裁を求めることで、政治的な存在感を強調したいと考えている。EUは、人権を超大国間の競争に参加するために使用できる武器と見なしているためだ、とサイ部長(the China Institute of International Studiesの欧州部部長)は言った。ワシントンほどの財政力や軍事力を持たないEUにとって、人権は最も便利で有利な武器だと認識していると付け加えた。

3月2日、EUは野党のナワリヌイ氏の判決をめぐり、ロシアの4人の政府関係者に対して制裁を発動し、2020年に採択された「グローバル人権制裁制度」を初めて使用した。アメリカも同日、同様の制裁措置を発動した。

EUは、人権問題の武器化において米国に追随しているが、北京に懲罰的な措置を講じること自体が、ブリュッセルにとって深刻な逆効果になることを恐れていると、サイ部長は述べた。そして、アメリカに追随することで北京の反応から身を守ることができると期待していると語った。

アメリカに追随することで、EUは一つのことを忘れてしまった。中国とアメリカの報復合戦は、真剣に検討した結果であり、どのような結果になっても、世界を震え上がらせ、結果をもたらすだろうと、サイ部長は述べた。

北京はEUへの対抗措置を講じる際に、それほど多くの結果を考慮しないだろうし、中国が行動を起こせば、EUははるかに多くの苦痛を、いっそう高いコストで被ることになるだろう、とサイ氏は警告した。

一言で言うのなら、完全にEUをなめている。見下している。弱いものには徹底的に高慢な態度をとる、弱さを攻める。さすが、中国数千年の独裁国家は、年季が違うと感じさせる。

それに、アメリカが本気を出すことを恐れているくせに、アメリカが本気を出したら勝てるほど中国って強かったっけ、とも思う。それにパワーゲームだけではなく、中国がアメリカと最も異なるのは、文明の伝播力をもっていないことだ。

確かに、指摘は鋭い(正しい)と思わせる部分はある。でも、そこまで欧と米の分断に自信があるのか、不思議でもある。そうではなく、欧米の一致団結を恐れていることの裏返しなのだろうか。おそらく後者だろう。

そして、中国政治は「他国と価値観でつながる深い絆があって、一致団結する」という同盟が、理解できないのではないだろうか。長い中国の歴史にあるのは、力による支配と被支配、上下関係だけに見える。冷戦下で、共産主義ブロックにいたことはいたのだが・・・中国人に「人権」「市民の権利」をいくら説いても全く理解できないのと同じで、知らないものは知らない。そんな感じがする(理解できないのは中国人だけではないが)。

余談だが、これが相手では、韓国はさぞかし苦労していることだろう。常々筆者は、何十年か先に明らかにされるような、国家を揺さぶる根本的な脅しを、習近平氏は文政権に陰でかけているのではないかと疑っている。日本はどうだろう。

ともあれ、このレポートを読んだヨーロッパ人が不愉快極まりないのは、想像がつく。この中国の見下した態度は、今後欧州にどのような影響を与えるのだろうか。

3、存在感を示すボレル外相

最後に注目したいのは、ジョゼップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表(以下、ボレル外相)の活躍ぶりである。

ボレル外相といえば、前述したあの発言。「EUは力(権力)の言語を使うことを学ばなければならない(The European Union has to learn to use the language of power.)」

外相が常々語り強調しているのが、このセリフである。このところEU行政の中で、彼の力が強い印象がある。

彼は、欧州統合の長い歴史の中で、価値観や経済、平和の構築のために結びついてきたがゆえに、力の行使に慣れておらず、顔面を打ち付けられるのにも慣れていないEUに対して、変わらなければいけないとハッパをかけているのである。

ボレルEU外相は、以前からその動向が欧州レベルで注目される人であった。彼がもつ政治の経歴と思想によるところが大きい。

彼が2018年にスペインの外相に就任したときは、仏・独・伊・英の主要紙が合同で彼にインタビューしているほどの大物だ(こういう合同インタビューは時折ある)。

◎ボレル外相の方針を述べた全スピーチはこちら(2019年10月7日。EUの外相指名後で、欧州議会の承認前の、外交委員会での公聴会)

まずは経歴である。

ボレル外相は74歳。バイデン米大統領の78歳よりは年下だが、大変長い政治経歴をもっている。彼は2004年から07年まで欧州議会の議長だった。

さらに、先立って2001年には、「欧州の未来に関する条約」という機関に参加する、スペイン議会代表に任命された。 この機関は、欧州憲法の草案を作成することが目的のもので、最終的には現在のリスボン条約につながっている。このように、彼はEUの建設に関わる大きな仕事に携わってきた。

このことは、デアライエン委員長とミシェル理事会議長の二人と、対照をなしている。

ボレル外相は、国を代表する政治家としてEUに携わるだけではなく、EU組織内の要職を経験してから現職に就いた。前のユンケル委員長もそうだった。

それに比べて、デアライエン委員長とミシェル理事会議長の二人は、そのような経歴が見当たらない。ということは、それだけコネクションや知識が低いということだ。能力はさておき、EU経歴の点では、ユンケル前委員長やボレル外相に比べると、いまひとつに見えると言わざるを得ない。

そして、この二人は関係がうまくいっていないことが、外に見えるレベルでわかってしまっている。どちらがEUの代表かと争っているという意味だが、これは二人ともEU内経歴がいまひとつであることと、大いに関係があるように思える。

「ソファーゲート」事件は象徴的な例である。

今年4月6日、トルコのエルドアン大統領を訪問したときに、EU側には椅子が一つしか用意されていなかった。そこにミシェル理事会議長が「さっさと」座り、デアライエン委員長は椅子がなくて困惑したという話だ(ユンケル委員長&トゥスク理事会議長の時代、2017年のトルコとの会談では、EU側に椅子は二つ用意されていた)。

4月26日になって、デアライエン委員長は、欧州議会で、トルコにおける女性差別を批判、ミシェル氏に対しては名指しはしないが、「傷ついた」という表現で、間接的で一段柔らかい批判をした(「傷ついた」は感情表現だから、のちにミシェル氏がそうしたように謝罪すれば、終わらせることができる種類のものだと思う)。

参考記事(BBCニュース):会談で席がない… 女性の欧州委員長、トルコを性差別と批判 2021年4月の記事

二人とも、仕事には真摯にとりくんでいるし、特にデアライエン委員長の能力は高いのだが、なんだか情けない状況である(前のユンケル委員会のチームワークが良すぎたのかもしれないが)。

そのために、よけいにボレル氏がいっそう重きをなして見えるのかもしれない。

さらに、ボレル外相は明確に左派(中道)の人で、社会主義者としての長年の実績がある。

彼はコロナ禍の前の時代、あのすさまじい移民の流入を前にして、それでも移民の人権を考え、左派の思想を決して捨てなかった筋金入りである。

移民を全員受け入れろという訳では決してないが、欧州で極右が台頭して移民排斥を唱えた状況で、人道は忘れずに、理性的な解決策を講じようとした人である。

欧州の多くの国の左派リーダーは、それができなかった。動揺して、ためらいや逆行を見せてしまった(無理もないが・・・)。これが、欧州の中道左派の政党は、全体的に弱体した理由の一つである。

支持者の市民たちは、自分も動揺して右に振れる人もいれば、逆行した中道左派に失望してもっとラジカルな左(極左)に行く人、緑の党系に行く人、新しい党に行く人など、様々だった。

そんな中で、移民の人権への意識を決して捨てなかったボレル氏は、人間の権利を語る資格のある人物として認識され、信頼されたのだと思う。当時の政策には、多分にポーズも含んでいる所はあったとは思うが、それができるだけでも大したものであったと思う。

EUに携わるヨーロッパ人は、このことを決して忘れていないに違いない。だからこそ今、彼が人権問題で力を振るうことには信頼がおけるし、任せられる。安全保障政策はきなくさい要素をはらむものであるが、この人なら強気の態度を示しても、EUの理念に反する行動はしないと思えるのだろう。

彼が進める対中政策は、今後どのようなものになっていくのだろうか。少なくとも日本のように、お金と人権問題を天秤にかけて、人権問題を犠牲にすることはないに違いない。

参考記事1(2018年6月):イタリア:五つ星運動と同盟の極右連立政権にみる欧州の苦悩 移民問題であなたは人権を語る資格があるか

参考記事2(2018年6月):2018年前半の欧州を振り返る。極右とスペイン左派政権(ボレル・スペイン外相・元欧州議会議長インタビュー紹介)

終章:インド太平洋へ。そして「EUの独自性とは何か」という問い

EUは5月、インドとの自由貿易協定の交渉を再開することを決定した。

何年も交渉したのち、2013年に一度挫折していたものだ。

ポルトガルのポルトで行われた欧州首脳会議では、インドの首相モディ氏が、オンラインで招待された(コロナ禍のために訪問は取りやめた)。

共同インフラ計画の話や、投資協定の可能性など、これまでEUと中国の間で主に扱われてきたテーマがたくさん出てきたという。

インドは中国ではなく、一方が他方に取って代わることはない。しかし、コロナ禍という悲劇に見舞われ、アジアの大きなライバルに対して弱腰になっているインドにとっては、この和解の利益をEUと共有しているのだという

さらに6月、バイデン大統領は、G7サミットと北大西洋条約機構(NATO)の会議に参加するために、欧州を訪問した。

バイデン氏は、独自の冷静かつ直接的な方法で、G7、NATO、EUとアメリカの制度的な関係において、「中国の挑戦」というテーマを同盟国に課すことに成功した

中国の軍事的挑戦、国際秩序、ヨーロッパ人にはとうてい受け入れられない中国の基準や規範・・・でもそれらは、元々はソ連(ロシア)をターゲットに設立されたNATOとどのような関係があるのだろうか。

さらに、トランプ時代に、EU内で「戦略的自律性」が叫ばれて、欧と米の違いを反発によって考える時代を、ヨーロッパ人は経験してしまった。中国は遠いし、貿易には大きな魅力がある。

それに、対中人権問題では一致したくても、親中的なハンガリーというたった一国のみが反対するがゆえに、足並みが揃えられない困難がある。これをどう解決するかという、制度改革の問題にも取り組む必要がある

歴史の水脈はアジア・太平洋へーーそのような大きな変化の中で、いまEUでは、真剣に「EUの独自性とは何か」を考える時代が到来している。

日本はどうだろうか。欧州とまったく異なり、中国の隣国である日本は、ますます軍事やその他の問題で、アメリカに頼るようになるだろう。

しかし、欧州とは逆のベクトルだが、アメリカに追随すればするほど、同じように日本人にも「日本の独自性とは何か」という問いが必要になってくるのではないか。

※アップが遅くなり申し訳ありませんでした。思ったよりも書くのがかなり大変でした。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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