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コロナウイルスでリスクのある薬【前編】:日本薬剤師会が参照としている資料の内容とは/WHOとEMA:

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
様々な成分の薬が市販されていて、一般人にはわかりにくい(写真:アフロ)

【注!】慢性疾患で、医師の処方でイブプロフェンを服用している人は、勝手に中断せずに、必ず医者に相談してください。あるいは、具合が悪くなってきているのに自己判断で飲み続けないで、必ず医者に相談して下さい。これはフランスでも盛んに発せられている注意です!

WHO(世界保健機関)が迷走している。

新型コロナウイルスにかかったら、あるいはその疑惑があるときに、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を服用することは問題がないのかどうか。発言が二転三転しているのだ。

このことは別途記事に書くつもりだが、このように「世界の権威」が右往左往しているとは、情けない限りである(国連組織に最前線のことを聞くのは向いていないとは思うけれど・・・)。

日本の厚生労働省の反応はどうか。

厚労省の山本史・大臣官房審議官(医薬担当)は3月18日の参院厚生労働委員会で、ドラッグストアや薬局におけるイブプロフェンを含有した薬の購入について、「購入を考える方は、店舗や薬局の薬剤師あるいは登録販売者とよく相談をしてください」と述べたという。

参議院議員の田島まいこ氏は、以下のようなツイッターを発信した。

「薬剤師にこうした判断の重責を担わせるのは間違いです」は、本当にそうだと思う。厚労省は、明確な指示も出さないで、なんだか薬剤師に責任を転嫁しているように見えてしまう。

日本薬剤師会の反応

それでは、薬剤師の団体はどう反応しているのか。

現在、日本薬剤師会のホームページには、以下のように書いてある。

▼新型コロナウイルス感染症へのイブプロフェン使用について

現在、新型コロナウイルス感染症へのイブプロフェン使用に関して報道等がなされています。

当該報道の情報元へのリンクを作成しましたので、ご参照ください

当会では引き続き、厚生労働省等と連携して情報の収集に努めて参ります。

〇WHO(英語)

https://www.unog.ch/unog/website/news_media.nsf/(httpNewsByYear_en)/A7A3ADF8F0C61E3DC125852A005D57A0?OpenDocument

〇EMA(英語)

https://www.ema.europa.eu/en/news/ema-gives-advice-use-non-steroidal-anti-inflammatories-covid-19

〇ANSM(フランス語)

https://www.ansm.sante.fr/S-informer/Points-d-information-Points-d-information/COVID-19-l-ANSM-prend-des-mesures-pour-favoriser-le-bon-usage-du-paracetamol

でも・・・厚労省があれでは薬剤師会も大変なのではと想像はするけれど、これらのリンクを情報元として参考にしろと言われても、現場の薬剤師は一層大変ではないだろうか。それに、一般の人だって参考にしたいでしょうに、これではとてもわかりにくい。

第一報を報じた立場としては、意義のあることだったとは信じているけれど、重圧を感じてしまう(それにしても、もっと大メディアや大きな医療団体が本格的に取り上げてもいい問題だと思うのだが、静かすぎるのではないか。「飲むべき薬」だったら、特に薬が新しい場合、先発の様子を見る慎重な姿勢は悪くないと思う。でも「飲むべきではない薬」で、しかも市販薬で、公に情報を広く共有する姿勢で議論すらしないというのは、あまりにも不可解である)。

医学の専門家ではない筆者にできるせめてものことは、翻訳者としての職業経験をいかして、上記の日本薬剤師会が参照としてあげた「情報元のリンク」を訳すことくらいだと思った。以下に訳を掲載する。

(長くなったので前編と後編に分けました)。

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国連公式サイトに書かれていること

3月17日定例記者会見

これは国連の定例記者会見であり、WHOを含む4つの国連機関が、COVID-19と東アフリカにおけるイナゴの大群問題について答えたものだ。

文章は長いが、イブプロフェンに関して書いてある所は1段落と短い。「On another question, Mr. Lindmeier .....the WHO recommended using paracetamol instead.」の部分である。

●「別の質問で、(WHOの)リンドマイヤー氏は、エボラとは異なり、COVID-19は飛沫を通して広がり、故人の遺体は伝染しないことを強調しました。WHOの専門家は、COVID-19に感染した人々にイブプロフェンが有害な影響を与えるかどうかの可能性を調査していました。当分の間、WHOは代わりにパラセタモール(別名:アセトアミノフェン)の使用を推奨しました」。

EMAの公式サイトに書かれていること

EMAとは、欧州医薬品庁/European Medicines Agencyの略である。これは欧州連合(EU)の専門機関であり、本部はオランダのアムステルダムにある(イギリスのEU離脱の前は、ロンドンにあった)。

参照記事:EMA ファーマコビジランス強化で新委員会を設置(ミクスonline)

薬の分野においては、世界で大きな力をもっているのは、アメリカとEUと日本の3極である。長い間(数年前まで)この3極が公的機関と製薬団体でタッグを組んで、世界を動かしてきた。特にアメリカとEUの力は巨大である。

このページは全訳する。

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●EMAはCOVID-19に対する非ステロイド系抗炎症薬の使用に関するアドバイスを提供します

プレスリリース2020年3月18日

EMAは、特にソーシャルメディアで、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を悪化させる可能性があるかどうかについてを問う報告を、認識しています。

現在、イブプロフェンとCOVID-19の悪化との関係を確定する科学的証拠はありません。EMAは状況を綿密に点検しており、パンデミックの状況で、この問題に関して入手できる、どのような新しい情報も検討していきます。

2019年5月、EMAの医薬品安全対策・リスク評価委員会(PRAC)は、フランス医薬品・保健製品安全庁(ANSM)による調査に続いて、非ステロイド性抗炎症薬のイブプロフェンとケトプロフェンのレビューを開始しました。これは、水痘や一部の細菌感染による感染は、これらの薬によって悪化する可能性を示唆しているものです。

多くの非ステロイド性抗炎症薬の製品情報には、それらの抗炎症作用が感染の悪化の症状を隠す可能性があるという警告がすでに含まれています。欧州医薬品安全対策・リスク評価委員会は、利用可能なすべてのデータを点検して、追加の対策が必要かどうかを見ていきます。

COVID-19で発熱または痛みの治療を開始する場合、患者と医療専門家は、パラセタモール(アセトアミノフェン)および非ステロイド性抗炎症薬を含む、すべての利用可能な治療オプションを検討するべきです。各医薬品にはそれぞれ独自の利点とリスクがあり、それらは製品情報に反映されていますし、EU各国の治療ガイドラインとあわせて検討するべきですが、そのほとんどは、発熱や痛みの最初の治療の選択肢としてパラセタモール(アセトアミノフェン)を推奨しています。

EUの各国の治療ガイドラインに沿って、患者と医療専門家は、承認されたそれぞれの製品情報に従って(イブプロフェンなどの)非ステロイド性抗炎症薬を引き続き使用できます。現在のアドバイスには、これらの薬は可能な限り最も短い期間で、最も低い有効量で投与されることが含まれています。

どのような質問でも、質問がある患者は、医師または薬剤師に相談してください。上記に基づいた上で、現在、イブプロフェンを服用している患者が治療を中断する理由はありません。このことは、慢性疾患のためにイブプロフェンまたは他の非ステロイド性抗炎症薬を服用している患者にとっては、特に重要です。

イブプロフェンおよびケトプロフェンについて、進行中の「欧州医薬品安全対策・リスク評価委員会」による安全性のレビューに加えて、EMAは、COVID-19の疾患予後に対する非ステロイド性抗炎症薬のどのような効果であれ、そのことについて適切な証拠(evidence)を提供するために、疫学研究をタイムリーに実施する必要性を強調しています。EMAはその利害関係者(stakeholders)に協力を求めており、そのような研究を積極的に支援する用意ができています。このことは、将来の治療勧告を導くのに役立ち得るでしょう。

EMAは、必要に応じてさらに情報を提供していきますし、「欧州医薬品安全対策・リスク評価委員会」のレビューが終了したら情報提供を行います。

薬の詳細

EU加盟国において、ほとんどのイブプロフェン含有医薬品は、痛み止めとして、また国によっては解熱剤としても、各国のレベルで認可されています。それらは、店頭および処方箋で広く利用が可能となっています。経口イブプロフェン(店頭または処方箋で)は、症状に応じて、3か月以上の乳児、子供、成人に対して、頭痛、インフルエンザ、歯痛、そして月経困難症のような発熱、および/あるいは痛みの短期の治療のために使われます。イブプロフェンは、関節炎およびリウマチ性疾患の治療にも処方されています。ケトプロフェンは同様の薬で、主にさまざまな痛みや炎症の状態で使用するために処方されていますが、EU加盟国の中には店頭で売られている国もあります。

イブプロフェンは、新生児未熟児の「動脈管開存」を治療するPedeaとして中央で認可されています。

手順の詳細

イブプロフェンとケトプロフェンのレビューは、安全性シグナルの手順に即して実行されます。安全性シグナルとは、さらなる調査が必要な医薬品の安全性についての新しい情報のことであり、それ自体は、医薬品と関連する副作用との因果関係の証拠(evidence)ではありません。

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後編:ANSM(フランス語)の訳に続く

EU機関「欧州医薬品庁」(EMA)の結論(同年5月):EU機関がコロナ感染症でイブプロフェンのリスクを認める:取説書の内容変更を指示。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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