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コックス法務長官の爆弾発言「バックストップは法的に保証されていない」。イギリスEU離脱ブレグジットで

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
採決の日3月12日英国下院で演説するコックス法務長官(写真:ロイター/アフロ)

メイ首相は、前日の夜遅くに、欧州連合(EU)側と修正の合意に至った。しかし、コックス法務長官は、英国はEUの規則に拘束されて「何も変わらない」状態のままになる危険性があると述べた。BBCニュースが12日正午過ぎ(現地時間、以下同)に報じた。

彼は、EUの同意なしにアイルランドのバックストップを離れることができる「国際的に合法的な手段」はないままであると述べたという。

コックス氏によるとーー。

メイ首相が勝ち取った追加の保証は、両者が今後決めていく未来の関係について、話し合いがEU側の『不誠実』によって途絶えた場合、英国がバックストップに無制限に不本意に縛られるリスクを軽減するものである。

しかし、法的なリスクは変わらず、もしその状況が、どちらの側にもそのような明らかな落ち度がなく、単に解決困難な両者の違いのために起こったのだとしても、少なくとも基本的な状況は同じままで、議定書の取り決め(arrangement)を終了するための国際的に合法的な手段は、協定(agreement)がなければ、英国にはないだろうーーと。

彼は、合意(deal)に同意する価値があるのか否かを決めるのは、政治的な判断であるという自身の見解を繰り返している。「両者の相互の動機と、起こり得る選択肢と競合する(矛盾する)リスクを考えるなら、私は政治的判断をすることが正しいという見解を強くもっている」という。

彼は何が言いたいのか。法的に保証されたと思うな、これは法律ではなくて政治問題である、と言いたいのだ。

両者の合意というのは、結局は信頼関係である。信頼関係が破綻すれば、どんな取り決めも覆されることがあることは、日本も隣国との関係でうんざりするほど学んできている。

これから欧州議会選挙があって、ユンケル委員会は終わりを告げ、欧州委員会の顔ぶれも変わってしまう。交渉相手が変われば、リスクは一層高まってしまう(以前「交渉」という授業で、7つほど実際の交渉模擬を行って、そのことは骨身に染みてわかった)。

国際法云々という所に関しては、筆者は国際法の専門家ではないので、よくわからない。ただ、EU側はコックス法務長官の言っていることは全部事前の話し合いで理解しており、だからこそ2つの文書を付けたのだろう。2つの文書の法的意味とは何か、どのくらいの拘束力があるか等、全部説明が可能なのだと思う。

参照記事:ブレグジット(英国のEU離脱)の鍵を握る人物、イギリスのコックス法務長官がブリュッセルでEUと交渉中

コックス法務長官は法の専門家として、事実を言っているのだろう。そのことは決して疑わない。しかし、彼は職業としてシビアであるだけではなく、離脱派だから一層「不信」のリスクを重く考えているように見える。メイ首相は親EUであり、残留派だから、根本的なところで相手を信頼している。人間とは、最後の究極的な場面では、「私は何者か、何を信じているのか」が問われるのだ。

すごい・・・。一体どうなるのだろうか。

おまけの追伸

この人だけは、いつも常にはっきりしている。大プロパガンダ(嘘)を張ったりして信用はできないのだが、愛嬌と主張の一貫性だけはピカイチである。採決の日も「愛国ソックス」を履いてやって来るのだろうか。。。(リンクは一番下を御覧ください)

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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