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高速道路の渋滞が激化した影響か 増える“重役グリーン出勤”に最適な路線と駅はどこ?

櫻井幸雄住宅評論家
(写真:イメージマート)

 「最近、朝の高速道路渋滞がひどいね」

 「おっしゃる通りです。おかげで、これまでハイヤーで通勤していた会社のお偉いさんたちも、朝は電車通勤に切り替える方が増えました」

 たまにタクシーを利用すると、聞き捨てならない話を拾うことがある。従来、会社の行き帰りにハイヤーを利用するのが当然だった上場企業の重役たちが朝の通勤でハイヤーを捨てたとは初耳だし、まさに聞き捨てならない。

 夜の宴席帰りはタクシーかハイヤー、もしくは運転手付きの専用車、という重役スタイルは今も変わりがない。しかし、朝の出勤時は車での通勤を避けるようになった理由は、ズバリ「朝の渋滞がひどいから」だ。

 高速道路が渋滞するため、会社に着く時間が読みにくい。渋滞を避けるためには朝6時30分より前に郊外の家を出る必要がある。すると、7時20分とか7時30分に会社についてしまい、9時の就業開始まで時間が空きすぎる。

 だったら、渋滞の心配なしで、ほどよい時間に出社できる電車のグリーン車や座席指定特急券などでゆったり通勤したほうがよい、と考える重役が増えたわけだ。いわば、重役出勤ならぬ“重役グリーン出勤”である。

 その真偽を確認するため、まず調べたのがハイヤーの台数が減っていないか。減っていれば、「ハイヤーの利用者が減った」ことが証明される。

 しかし、「ハイヤーの台数が減っている」というズバリのデータはなかった。ただし、東京都内に本社を置くタクシー・ハイヤーの会社で、「所有台数が減少し続けている」というデータはあった。タクシーもハイヤーも減っているわけだ。

 次に、高速道路の渋滞が増えているか……それに関する興味深いデータが11月18日に発表されていた。

 国土交通省が発表したもので、2022年4月から上限料金を実質値上げした首都高速の混雑状況が明らかにされていた。

 それによると、値上げから1ヶ月後「首都高速の混雑度は緩和された」と発表されていたのだが、半年後に状況が変化。1年前と比べて、首都高速の交通量は3%増えるなど全国的に交通量が増加したことが明らかにされたのだ。

 やはり、高速道路は混む時間が増えていた。理由は、景気回復に伴いトラックが増えたこと……くらいしか思いつかない。

 一方で「空いている」のが、朝の通勤電車。どれくらい緩和されたのかは、首都圏混雑路線がコロナ禍で乗車率低下。反比例でマンション人気が上昇している場所とはという有料記事中、無料で読める部分に記した通りだ。

 電車の混雑度は全国の路線で緩和され、首都圏のJR東海道線(川崎→品川)のように、2018年度に混雑度191パーセントだったのが104パーセントまで軽減された路線もあった。

グリーン車も空いていることで、ハイヤーよりも快適

 テレワークが増えたことで、朝の通勤電車は軒並み混雑度が緩和された。それは別料金が必要なグリーン車でも、座席指定の特急電車等でも同様。コロナ禍が起きる前、首都圏のJRグリーン車両では、グリーン券を購入しても座席に座れないことがあった(混んでいるときは座れないこともある、と明記されている)。また、必ず座席に座れる特急は特急券を購入するのに苦労することが多かった。

 それが、今では朝の通勤時もグリーン席に座りやすく特急券も買いやすい。小田急線のロマンスカーなど私鉄の有料特急でも、特急券の購入が楽になっている。

 だったら、渋滞で動かないハイヤーよりも、時間に正確な電車のグリーン車や座席指定特急などを選ぶ人が増えるのも道理だ。ただし、このグリーン車・特急は、どの路線でも利用できるというものではない。

 首都圏において、郊外から都心に向かうJR路線で車両にグリーン車が付いているのは東海道線・横須賀線・湘南新宿ライン・総武線快速・宇都宮線・高崎線・常磐線など。2階建てのグリーン車が2両付き、本数も多いので利用しやすい。

 一方で、利用しにくい路線が、JR中央線や埼京線、京葉線、つくばエクスプレスなど。国分寺駅や八王子駅、高尾駅などから新宿・東京に向かう中央線の快速電車にも特別快速電車にもグリーン車が付いていない。京葉線にもグリーン車がなく、両線では、特急電車の自由席や指定席を利用するしかない。が、その本数が少なく、停車駅も限定される(たとえば、中央線の特急かいじなどは国分寺駅に停車しない)。

 ちなみに、JR西日本の新快速にもグリーン車がなく、不満の声があった。そこで、2019年、一部の車両に有料のAシートが登場したが、コロナ禍の影響なのか広まっていない。

 「別料金を払えば、のんびり電車通勤できる」路線と、それがしにくい路線があるわけだ。

 その点を考慮し、首都圏で“重役グリーン出勤”に最適な駅を探してみた。

 まず、思い浮かんだのは、神奈川県内の駅だ。

朝の通勤時に60本以上が利用可能な藤沢駅。それを凌ぐ駅も

 首都圏JR路線で、グリーン車付き車両や特急電車の本数が多いのは東海道線・横須賀線・湘南新宿ライン。それらがすべて停車する首都圏郊外の駅が神奈川県の大船駅と戸塚駅、横浜駅である。さらに、特急券が必要な特急「湘南」(東京行き)も停車する駅となると、大船駅の一択となる。

 ちなみに、東海道線の藤沢駅でもグリーン車付きの電車が多く、特急「湘南」も停車する。試しに数えてみると、平日朝の6時台から8時台までの3時間に上りでグリーン車付きの電車と特急「湘南」が49本利用できる。

 さらに、藤沢駅ならば小田急江ノ島線で新宿駅まで所要時間1時間程度の特急ロマンスカーが利用可能だ。特急ロマンスカーを加えると、藤沢駅はグリーン車・特急を豊富に利用できる駅ではないか。そう思って、数えてみたが、特急ロマンスカーの本数が少なく、朝6時台から8時台まで2本利用できるに留まる。結局、藤沢駅では、朝の通勤時間帯に計51本のグリーン車や特急を利用できるとわかった。

 かなりの本数である。が、それを大きく上回るのが、東海道線で藤沢の隣駅、大船駅だ。大船駅では東海道線と横須賀線が利用でき、以前から「都心に向かう電車が多い駅」として知られている。

大船観音が見える大船駅。便利な場所だけに、駅周辺の住宅価格は高い。大船駅から湘南モノレールに乗り換えた場所に住宅地が広がっている。
大船観音が見える大船駅。便利な場所だけに、駅周辺の住宅価格は高い。大船駅から湘南モノレールに乗り換えた場所に住宅地が広がっている。写真:イメージマート

 その大船駅で、平日朝の6時台から8時台までの3時間で大船駅を出る東海道線、横須賀線、湘南新宿ライン、特急「湘南」の上り本数を数えてみると、じつに65本もあった。まさに“重役グリーン出勤”がしやすい駅なのである。

 横浜駅も東海道線、横須賀線、湘南新宿ラインが利用できるという条件は大船駅と同じ。横浜駅には特急「湘南」が停車しないのだが、6時台から8時台という区切りでみると、利用できるグリーン車付きの電車は成田エクスプレスを除いて65本。大船駅と同数だ。しかし、横浜駅では東急東横線のSトレイン(有料指定席の電車)を利用できる。その本数は6時台から8時台までで1本だが、その1本差で横浜駅が大船駅を抜くことになる……もはや、多くの人にはどうでもよい話になってきた。

もうひとつ、グリーン・特急利用で狙い目の駅が

 “重役グリーン出勤”ならば、横浜駅がお勧め……と言いたいところだが、じつは伏兵があった。

 それは、埼玉県の大宮駅だ。

 大宮駅も都心に直接向かう路線が多く、JRの宇都宮線・高崎線(上野東京ライン)・湘南新宿ラインが利用可能。都心に向かう場合、朝6時台から8時台までで特急「スワローあかぎ」3本を含む63本でグリーン車や特急が利用できる。

 といっても、63本なら、横浜駅、大船駅よりも少ない……と思ったが、大宮駅には隠し球があった。

 それは新幹線だ。大宮駅には東北・上越・北陸新幹線が停車し、上り電車を利用すれば東京駅まで24分とか28分となり、所要時間が短いのも利点となる。

大宮駅からは新幹線も利用できるので、「座れる電車」の選択肢が多くなる。
大宮駅からは新幹線も利用できるので、「座れる電車」の選択肢が多くなる。写真:イメージマート

 新幹線の場合、20数分の所要時間で高額のグリーン席に乗るのはさすがにもったいない。特定特急券で自由席に座れば十分だろう。大宮駅から東京駅まで乗ったときの金額は乗車券570円に自由席1090円で計1660円となる。上野駅までならば、1360円だ。

 大宮駅で利用できる上り新幹線は平日の6時台から8時台までで合計31本。それを合わせれば、合計94本!

 横浜駅の66本を大きく凌ぐ本数なのだが、新幹線31本のなかには、運転日が限定される4本が入っていた。それを除くと90本。さらに、特定特急券が使えない全席指定の「はやぶさ」と「かがやき」が3本あるので、それを除いて87本。それでも、ダントツ1位であることは間違いない。以下、2位横浜66本、3位大船65本となる。

 大宮では、近年、人気マンションが続出している。その理由として、「いざとなれば、新幹線が利用できる」点も大きそうだ。

 なお、私の本数カウントには正確さに欠くところがありそう。詳しい方々からの間違い指摘があるのではないか、とびくびくしている。

 首都圏では「大宮、横浜、大船の3駅がグリーン車・特急を利用しやすいので“重役グリーン出勤”の狙い目」というところでやんわりとまとめさせていただきたい。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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