昨年は鳴りを潜めていた感染性胃腸炎が今年は増えているようです。

国立感染症研究所のグラフ(1)を見ると、昨年(緑色)と比べて今年の感染者数(赤色)は第46週(11月中旬)頃からじわじわと増加傾向なのが分かります(図1)。

出典:国立感染症研究所:感染症週報
出典:国立感染症研究所:感染症週報

 SNSでも「保育園で集団感染した」などの投稿がちらほらみられるようになりました。 

 メディアからも、アルコール消毒が効かないことと関係があるのでは、という報道も出てきました。

そこで今回は、特にこの時期に流行しやすいノロウイルスを中心に子どもの感染性胃腸炎を取り上げ、手洗いについて改めて考えたいと思います。

子どもの胃腸炎は嘔吐から始まることが多い

 感染性胃腸炎はウイルスなど病原体が手などを介して口から入り込んで感染し、嘔吐や下痢を起こす病気です。典型的には突然の嘔吐にはじまり、続いて下痢症状、時に発熱を起こします。嘔吐は1~3日続き、遅れて下痢が3~7日ほど続くのが典型的な経過です(2)。小児ではロタ、ノロ、アデノウイルスが主な原因ウイルスになります。

 ロタウイルスは嘔吐症状も強く、白っぽい便が出るのが特徴ですが、合併症としてけいれんや脳炎を起こすこともあります。時に命に関わることもあるため要注意の感染症ですが、2020年からロタワクチンが定期接種として導入され、下のグラフのように患者さんは激減しています(今年は赤色グラフ)(3)。

出典:国立感染症研究所:病原微生物検出情報,週別ロタウイルスの検出報告数
出典:国立感染症研究所:病原微生物検出情報,週別ロタウイルスの検出報告数

すなわち感染性胃腸炎が増えているのはロタウイルス以外が原因です。おそらくそれは頻度がもっとも多いノロウイルスと考えられます。

ノロウイルス胃腸炎には何度もかかることも

 ノロウイルスによる胃腸炎は11月くらいから増加し始め、12~1月が発症のピークとなります(4)。ロタほど重症化はしないことが多いですが、頻度がもっとも多い胃腸炎です。

 ノロウイルスの厄介な点は、とにかく感染力が格段に強いことです。100個以下のウイルスでも発症する可能性があり(5)、乾燥した吐物から舞ったウイルスを吸い込んで感染することもあります。

 また、ノロウイルスには多数の遺伝子の型が存在し、遺伝子変異を起こしやすいとされています。つまり、一生のうちに何度もかかる可能性があります(5)。

 さらにやっかいなことに、10-50%は知らず知らずのうちに感染し(不顕性感染)、周りに広げてしまいます。ワクチンもいまだ開発途上で、家族みんなかかってしまうことも少なくありません。

ノロウイルスにはアルコール消毒が効きにくい

 そこで、少しでも家庭内で広げない感染対策が大切になってきます。

 実際には、子どもの胃腸炎は突然の嘔吐から始まることが多く、家族も対応する準備ができていない状況で迎え撃つことになるケースが多いです。

 そこで実用的なアドバイスとして、あらかじめ家庭内にいざというときの胃腸炎対処グッズを準備しておくことをお勧めしています。

 私達(佐久医師会「教えて!ドクタープロジェクト」)はこれを「ゲーゲーセット」と呼んでいます。作り方も含めた「胃腸炎のホームケア」をイラストにまとめていますのでご参考になさってください。

佐久医師会教えて!ドクタープロジェクト制作
佐久医師会教えて!ドクタープロジェクト制作

こちらからPDFデータでダウンロードできます。

胃腸炎のホームケア

 なお、このデータはコンビニにあるマルチコピー機でシールとして取り出すこともできます(登録番号:OSHIETEDR1 と入力してください)。シールは冷蔵庫の壁など目立つ場所や、バケツの側面に貼っておいてもよいでしょう。

シールの取り出し方はこちらから

マルチコピー機からの出力方法

 知っておいていただきたい点は、ノロウイルスを始め胃腸炎の原因となるウイルスの多くがアルコール消毒に抵抗性があることです。コロナ禍でアルコール消毒は身近になりましたが、ノロウイルスを不活化するためには次亜塩素酸ナトリウムを使う必要があります(なお、次亜塩素酸ナトリウムは市販の塩素系漂白剤の主成分で、次亜塩素酸水とは全くの別物です)。ご存じの方も多いかと思いますが、次亜塩素酸ナトリウムは漂白剤なので手指消毒には使えず、吐物処理など物の消毒に使います(手指は流水で手洗いしてください)。

 また、吐物の処理の際に霧吹きすると、乾いた吐物の一部が舞い、吸い込んで感染を広げる恐れがあるので、霧吹きを避ける点も大事なポイントです。

 じゅうたんなど次亜塩素酸ナトリウムを使いづらい場所で吐いてしまった場合、アイロンによる加熱が有効なことも知っておくと役に立ちます。ノロウイルスは熱に弱いため、85度以上1分間以上の加熱で不活化するためです。

今改めて手洗いについて考える

 例年と比べて感染性胃腸炎の流行はほぼ抑え込めていた昨年と比べ、今年はすでに例年と同様のペースで増え始めているのは気がかりです。個人的な意見ですが、ひょっとすると手洗いをしっかり繰り返す習慣が昨年ほど徹底できていないのかもしれません。コロナ禍で身近になった手洗いですが、これを機会にもう一度見直してみたいと思います。

石鹸を使った手洗いでウイルス量は1%に、2回繰り返すと0.01%に

 手洗いは、手指に付着しているウイルスを除去するのに最も有効な方法です。

ノロウイルスに関する国立医薬品食品衛生研究所のデータ(6)では、手洗いなしの状態のウイルスの数を10000とすると、流水15秒手洗いで100に、ハンドソープもみ洗い後流水すすぎで1に、それを2回繰り返すと0.01になるとしています。

このようにとても有効な手洗いですが、手洗いを繰り返すと手が荒れることがあります。

保湿は手洗いの頻度を増やす

 肌の状態が良くないと、しみたりして洗うのがおっくうになりがちです。実際に医療従事者対象の研究では、定期的に油脂入りローションを使って手を保護すると、肌の状態が良くなるだけでなく、手洗い頻度も50%増えたという報告があります(7)。手の状態を維持することで、こまめに手洗いする習慣が自然と促される可能性があるというわけですね。

手洗い後に水気を切ることで運ぶ病原体の数を減らせる

 もうひとつ、手洗いについてこんな報告もあります。

 手洗い後に手が濡れたままの場合、ドアノブを触れたりしたときに微生物が手に付着しやすいですが、濡れていた手指の水分をしっかりふき取っておくと、濡れていた状態より運ぶ菌の数を90%以上減らせたという報告です(8)。つまり、濡れた手は、乾いた手よりも病原体を撒き散らしやすく、しっかり水分をふき取ることで運ぶ菌量を大きく減らせる可能性があります。

 手洗いの方法は厚労省などでも色々なイラストで紹介されていますが、今回はお子さんも一緒に理解しやすいように私たちが制作した手洗いのイラストをご紹介します。

教えてドクタープロジェクトより
教えてドクタープロジェクトより

 最後に、それでもお子さんが胃腸炎にかかった場合、夜間でも急いで受診する目安をまとめておきます。

□嘔吐症状が強く、半日以上水分が摂れない

□ぐったりしている

□水のような下痢が1日6回以上出る

□口や舌が渇き、涙が出ない

□尿の量が少ない

□血便が出た

 こういった場合には早めに受診をお勧めいたします。

 ちなみに病院を受診した場合、ノロウイルスの検査をしてほしい、と思われるかもしれません。ただ、ノロウイルス検査の保険適応は「3歳未満もしくは65歳以上の胃腸炎」ですので、それ以外の方が検査する場合には自費診療となります。診断には地域の流行具合や症状を見ながら行うため、検査は必ずしも必須ではありません。ノロウイルスとそれ以外の胃腸炎で対策は大きく変わりません。検査を希望してもできないことがある点につき、あらかじめご理解いただけると助かります。

 今回は、感染性胃腸炎が増加しているというニュースを踏まえ、その感染予防策について、特に手洗いに重点を置いて取り上げてみました。

<参考文献>

(1)国立感染症研究所:感染症週報.

(2)水野由美:ウイルス性胃腸炎.小児科臨床68(4),687-692,2015

(3)国立感染症研究所:病原微生物検出情報,週別ロタウイルスの検出報告数/過去4シーズンとの比較,2017/18-2021/22シーズン

(4) ノロウイルスに関するQ&A(厚生労働省:令和3年11月19日最終改定:)

(5)日本感染症学会:感染症クイックリファレンス「ノロウイルス感染症」

(6)森功次他:感染症学雑誌80:496-500,2006

(7) Am J Infect Control. 2000 Aug; 28(4): 302–310.

(8) Epidemiol. Infect.119, 319–325,1997