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『映画ドラえもん』ゲスト主役キャラ・ミッカの声でデビュー。12歳の東宝シンデレラの抜擢の背景

斉藤貴志芸能ライター/編集者
東宝芸能提供

シリーズ43作目となる『映画ドラえもん のび太の地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)』が公開1週目で動員1位となった。地球から音楽が消えてしまう危機を救おうと、ドラえもんたちが大冒険を繰り広げるストーリー。のび太の前に現れる、音楽に満ちた星で生まれた少女・ミッカの声優を務めたのが、12歳の平野莉亜菜だ。2022年の「東宝シンデレラ」オーディションのファイナリストで、これがデビュー作。終始ドラえもんたちと行動を共にするメインゲストのキャラクターで、愛らしい声で歌も披露して印象に残る。大抜擢にどう応えたのか?

無言で目がガーンと開いていたらしくて

「テレビの『ドラえもん』は毎週土曜日に見ています。見逃しちゃったときはTVerで見たり。初めてのお仕事が『ドラえもん』の映画になるなんて、思ってもいませんでした」

 そう話す平野莉亜菜さんの声は、あどけなさがありつつ愛らしく、実に耳に残る。声がかわいいと言われることは、よくあったのでは?

「友だちにそう言われたことはあります。でも、自分の声について、気にしたことはなかったです」

 『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』でドラえもんたちを大冒険へ導くミッカ役は、一昨年の「東宝シンデレラ」オーディションの審査を今井一暁監督が見て、「ピッタリ」となったことから決まったという。この声を聞けば誰もが納得するだろう。

「マネージャーさんから話を聞いたときは、頭が真っ白になって。お母さんが言うには、無言のまま目がガーンと開いていたそうです(笑)。声を聞いてもらって『ドラえもん』の映画に出られるなんて、嬉しさ以上に信じられなくて、心の中で興奮していました」

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』のミッカ(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2024
『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』のミッカ(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2024

家でずっと歌っているのが日常です

 ミッカは歌うシーンも多いが、莉亜菜さんは事務所の東宝芸能のホームページの自己紹介動画で「小さい頃から歌と英語が大好き」と語っている。

「家でずっと歌っています。お風呂でもリビングでも。たぶん物心がつく前から、家族では私が歌っているのが日常という感じです(笑)。『Girl on Fire』という英語の曲や、上白石萌音さんの『なんでもないや』をよく歌います」

 サラッと口にした『Girl on Fire』の発音がネイティブっぽかったが、英語を小さい頃から話していたのは、帰国子女だったりするのだろうか。

「外国に住んだことはありません。お母さんがアメリカにいたことがあって、赤ちゃんの頃から英語で話し掛けてくれていて、身に付いたみたいです。お父さんも英語教室をやっていて、家で勉強したので、日常会話はできるようになりました」

 昨年、小学校の海外研修で、オーストラリアのゴールドコーストでの2週間のホームステイを体験。「とても楽しくて、向こうの全校生徒の前でウクレレを弾いたのが一番の思い出です」とも。さらにクラシックバレエも3歳から習っている。

「自分から『やりたい』と言ったのは覚えています。お姉ちゃんが教室に入ることになって、一緒に見学に行ったら楽しそうだったので、私も習うことにしました」

ヘア&メイク/Kaco(ADDICT_CASE) スタイリング/emi ito(ADDICT_CASE)
ヘア&メイク/Kaco(ADDICT_CASE) スタイリング/emi ito(ADDICT_CASE)

明るいと言われて整理整頓が好きです

 現在は小学6年生。学校ではどんな子なのだろう?

「みんなには『明るいね』と言われます。授業で手を上げたりはしなくて、わからないことがあったら、直接先生に聞きに行きます」

 係とかをやっていたりは?

「整理整頓係です。整理整頓が好きなので(笑)。教室のファイルや本を整理するのが仕事で、自分の部屋もたぶんきれいです。お友だちが来て遊んだあとに、散らかしたまま外に行くと、お母さんに『片づけておいて』と言われるくらいです」

 友だちと遊ぶときはどんなことを?

「外に行くより、中で遊ぶことが多いです。カードゲームや人生ゲームをしたり、お絵描きをしています」

アン・ハサウェイさんみたいになりたくて

 そんな中、5年生のときに受けたのが「東宝シンデレラ」オーディション。芸能界にも早くから興味があって?

「お母さんがオーディションを見つけてくれて、挑戦したい気持ちはありました。歌が大好きで、歌手になりたいというより、映画や舞台で演技をしながら歌う女優さんが夢です。上白石萌音さんやアン・ハサウェイさんみたいになりたくて」

 東宝シンデレラの先輩でもある上白石萌音は歌手活動も行い、ミュージカルにも出演。アン・ハサウェイは『プラダを着た悪魔』などで知られるハリウッドの名女優で、『レ・ミゼラブル』では見事な歌声も披露しているが、莉亜菜さんは小学生にして目の付けどころが鋭い。

 「映画やドラマはNetflixでよく観ます」とのことで、好きな作品として挙げてくれたのが『SUNNY 強い気持ち・強い愛』。専業主婦ら6人の女性の現在と高校時代にまたがる物語だった。

「ルーズソックスを履いていた時代で、主人公の女の子がお好み焼きを投げるシーンが面白くて、印象に残っています(笑)」

 そんな感想には小学生っぽさがのぞく。

合宿でミュージカル曲を初めて歌って

 第9回「東宝シンデレラ」オーディションは、2022年4月より募集を開始。書類選考、2次、3次審査を経て合宿審査が行われ、ファイナリストを選出。11月にグランプリほか各賞が発表された。莉亜菜さんにとっては、初めてのオーディションだった。

「合宿で初めてミュージカルナンバーを歌ったのをよく覚えています。課題曲から私は(『モーツァルト!』の)『ダンスはやめられない』という迫力のある歌を選びました」

 歌はずっと好きだったものの、人前で歌うことはあまりなかった莉亜菜さんには、このうえない経験になったようだ。

「ピアノの伴奏で歌うのも初めてで、リズムに乗り遅れたり、難しいところはありました。でも、練習をいっぱいさせてもらえて、発表ではうまく歌えたと思います」

 グランプリには、莉亜菜さんよりひとつ下の白山乃愛さんが史上最年少で選ばれ、昨年ドラマ『Dr.チョコレート』のストーリーの中心になる役でデビューを飾っている。莉亜菜さんも賞を獲りたい気持ちはあったり?

「獲れるものなら獲りたかったけど、事務所に所属できただけで嬉しいです。自分なりに演技したり撮影したり、楽しくやっていきたいなと思いました」

あまり練習をしないでありのままで

 このオーディションをきっかけに、『映画ドラえもん』でゲスト主役のミッカの声に抜擢。台本を渡され「あまり練習しないように」との指示があったという。

「監督さんには『ありのままの自分を出して』と言われました。プラス、ミッカは6歳くらいで幼さも必要。練習しすぎると『こうやって』と言われたときに変えられなくなってしまう。台本を全部読んで、自分の台詞を確認する程度にしました」

 幼さを出すために意識したことも?

「自分の声と変えてはいません。でも、ちょっと高めに出したり、工夫しました」

 アフレコではミッカの台詞を1人で録ったが、ドラえもん役の水田わさびとのび太役の大原めぐみが隣りにいて、アドバイスをくれたそう。

「泣くシーンが声だけでは難しくて、どうすればいいのか考えていて。そしたら、わさびさんが『声だけで演技するのではなく、体を使って大きくやってみたら?』と教えてくださいました。それから2回くらいやったら、OKが出ました」

 初挑戦のアフレコで、呑み込みが早かったことがうかがえる。

「画に合わせるのが難しいところもありましたけど、だんだん慣れて、大丈夫になって。『ピピッと響いた』というミッカがよく言う台詞は、『高すぎたから、もうちょっと低く』『今度は低すぎたから、ちょっと高めに』と指示していただきながら、録りました」

天真爛漫にどの台詞も明るく言おうと

 音楽に満ちた惑星ムシーカ生まれのミッカは、最初は外国語のような言葉を発している。

「台本に書いてあるまま、知らない言葉を話しましたけど、意味もちゃんとあるんです。頭の中で考えながら言ってました」

 ミッカはのび太の吹くリコーダーの音を気に入るが、「ようやく来たか。のほほんめがね」などと生意気っぽい口の利き方もする。

「ミッカは天真爛漫なので、悲しいシーンは別にして、どの台詞も明るく言おうと決めていました。ずっとテレビで見ていたのび太くんと自分が会話をしていて、返してくれるのが嬉しかったです」

自分の歌が画面から聞こえるのが不思議でした

 一方、ミッカは♪ラララーなどと歌っている。

「たくさん練習しました。レッスンも受けさせていただいて、発声練習を録音して家でもやったり。滑らかに歌えるようにしたのと、♪ラーと♪アーだけで歌うのが難しくて。でも、レッスンした通りにやったら大丈夫でした」

 のび太たちが奏でる楽器とアンサンブルをして、「みんなで音楽するのって楽しいね」という台詞もあった。劇中でそんな気分も味わえたり?

「はい。本当に楽しくやらせていただいて、いい経験になりました。私は楽器はホームステイでも弾いたウクレレをやっています。リコーダーは4年生のとき、いっぱい練習したんですけど、最近は吹かなくなって忘れちゃいました(笑)」

 完成した『映画ドラえもん』でミッカは大活躍しているが、自分で見た感想は?

「とにかく感動しました。特に最後、ミッカが歌っているところ。自分の声が画面から聞こえてくるのが、不思議な感覚もありました」

 ちなみに、ドラえもんのひみつ道具で欲しいものというと?

「アンキパンとスモールライトです。長い台詞もアンキパンがあれば、すぐ覚えられるので(笑)。スモールライトは、私、ドールハウスで遊ぶのが好きなので。自分も小さくなって、お人形の世界に入っていけたら楽しいかなって」

(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2024
(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2024

世界で活躍できる女優になりたいです

 この3月で小学校を卒業。4月からは中学生になる。

「小学校と中学校が一貫で、クラスメイトはほとんど同じなんです。部活はテニスとか運動系をやってみたくて。走るのも速いほうで、持久走で2位になりました」

 仕事では、もともとやりたかった映画や舞台にも挑戦したいところ?

「そうですね。『花より男子』を観て、学園ものに出てみたいなと思いました」

 また世代的に小学生らしからぬ作品名が出てきた(笑)。

「何かのDVDを買いに行ったとき、そばに『花より男子』も置いてあって、見てみたくなって。本当に楽しいドラマで好きになりました。つくしのお父さんが、司と結婚したら玉の輿と言っていたのが面白くて(笑)。あと、いつか出たいのはハリウッド版の『ゴジラ』です」

 『ゴジラ』シリーズは東宝シンデレラが出演してきた伝統もあるが、ハリウッド版というのはこだわりが?

「世界で活躍できる女優になりたいんです。将来のために、英語ももっと覚えます」

 12歳の夢は限りなく広がっている。

東宝芸能提供
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Profie

平野莉亜菜(ひらの・りあな)

2011年5月8日生まれ、静岡県出身。2022年に第9回「東宝シンデレラ」オーディションでファイナリスト。公開中の『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』で声優。

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)』

原作/藤子・F・不二雄 監督/今井一暁 脚本/内海照子

公式HP

(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2024
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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