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『機動戦士ガンダムSEED』18年経た新作は愛の物語。ヒロイン役の田中理恵がエンディングで涙した理由

斉藤貴志芸能ライター/編集者
松竹提供

2002年からテレビ放送されて一世を風靡したアニメ『機動戦士ガンダムSEED』。完全新作となる映画『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が、制作発表から18年を経て完成し公開された。遺伝子調整から誕生したコーディネイターと自然のままに生まれたナチュラルという二つの人類の対立から各地で戦闘が続く中、アイドルから平和を求めて活動するようになったラクス・クラインは、ガンダムシリーズ屈指の人気ヒロイン。声優の田中理恵に、この役と作品への想いを語ってもらった。

TVシリーズの現場では毎週緊張してました

――TVアニメ『機動戦士ガンダムSEED』がスタートしたのは2002年。もう22年前になりますが、最初の頃のことは覚えていますか?

田中 私は最初、歌から始まったんです。皆さんがアフレコをしているときに、ラクスの歌う『静かな夜に』をレコーディングして、福田(己津央)監督が見にいらっしゃって。そこで初めて、色の付いたラクスのキャラクター表を見て、譜面台に飾りながら歌いました。

――当時の田中さんは、他にも『ちょびっツ』や『あずまんが大王』など大きい役が増えていました。イケイケな感じでしたか?

田中 そんなことは全然なかったです。いつも緊張している20代でした。学生からプロの現場に入って先輩たちが多い中で、どんな立ち位置でどう振る舞ったらいいのか。周りの様子を見ながら、学ばないといけないことがたくさんあって。『ガンダムSEED』の現場でも毎週緊張していて、私語はほとんどしていません。10分の休憩時間もずっと台本を読んでいて、時折り先輩にお声掛けいただくと、少しお話しする程度でした。

松竹提供
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どうしてできないのか帰り道で自問自答していて

――ラクス・クライン役には最初からフィットする感覚はありました?

田中 『SEED』では本当に悩みながら演じていました。当時、両澤(千晶)さんが脚本を書かれていて、「ラクスはこういうふうに感じています。こう演じたほうがいいです」と教えていただいたんです。だけど、それがちゃんと理解できず、すごく葛藤があって。スッと演じられてはいませんでした。

――根本的なところで壁があったんですか?

田中 壁というより、自分自身にスキルがなくて。それがすごく悔しかったです。現場では泣かなかったんですけど、帰りに「どうしてできないんだろう?」と自問自答しながら、ずっと自分の中で反省会をしていたときがありました。

――最初の頃のラクスはフワフワした感じのキャラクターでした。

田中 そうなんです。そこで悩みました。ハッキリものを言うのでなく、ふんわりした感じで掴めなくて。当時はすごく難しかったです。

――父親のシーゲル・クラインが殺されたりもしながら、芯の強さを見せるようになった印象があります。

田中 たぶん(主人公の)キラが剣(つるぎ)になってからですね。自分が平和を求めても、いろいろな抗争があって、どんなことを言っても止められない。じゃあ、どうしたらいいのか……というところでキラが現れて。自分は対話をしたり歌ったりして、平和を訴えていく。それでもダメなときは、彼が剣となってくれる。そこで彼女自身がラクス・クラインとして確立されたのかなと。監督に聞いたわけではないですけど、自分ではそう考えていました。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』より (C)創通・サンライズ
『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』より (C)創通・サンライズ

芯の強さが見えてから役を理解できました

――「敵だというのなら、わたくしを撃ちますか? ザフトのアスラン・ザラ」と強く言い放つ名シーンもありました。

田中 同じザフト(コーディネイター国家の軍事組織)で許嫁でもあるアスランと対立しましたけど、あれは彼を鼓舞していたというか。あなたはどうしたいのか? 何が正義なのか? アスランは誰かに言われて動く人ではないので、自分で思い出させたい。そういう意図で問い掛けていたのかなと思いました。

――試行錯誤もしたんですか?

田中 あの頃はもう、ラクスのキャラクターがわかり始めていて。芯の強さが出てきた辺りから、こういうことも言う女性なんだと理解できていました。

――他にTVシリーズで特に印象的だったのは、どんなことですか?

田中 (続編の)『SEED DESTINY』でのミーアの存在ですね。まさかラクスと声や姿が一緒のキャラクターが登場するとは思ってなかったので。

――どちらも田中さんが演じて、ラクスとミーアの掛け合いはどう録ったんですか?

田中 別々に録りました。ミーアはすごく明るいキャラクターで、ラクスと正反対。芝居のテンションが変わるので。

――ミーアの最期は涙を誘いました。

田中 辛かったですね、本当に。でも、あのときに観てくださった方の心の中には、ミーアが強く刻まれたと思います。

(C)創通・サンライズ
(C)創通・サンライズ

新たなキャラクターを演じる気持ちで

――劇場版の進捗については、キャストさんの耳には逐次入ってきていたんですか?

田中 それがほとんどなくて。アフレコではテストのとき、台本のト書き以上のことをたくさん教えていただきました。「こういうふうに演じてください」とていねいに指示してくださって、ありがたかったです。

――『ガンダムSEED DESTINY』からだと、18年ぶりだったわけですよね。

田中 アニメーションで動いているラクスを演じるのは、すごく久しぶりでした。

――ラクスのモードは自分の中ですぐ蘇りました?

田中 今回の『FREEDOM』でのラクス・クラインは、『SEED』や『SEED DESTINY』とはちょっと違っていて。新たなキャラクターを演じる気持ちでやっていました。

――設定では『DESTINY』の2年後です。

田中 画も少し変わって、大人っぽくなったラクスを演じました。

(C)創通・サンライズ
(C)創通・サンライズ

苦しみも悲しみも一緒に乗り越えるのが愛だなと

――『FREEDOM』のストーリーは、田中さんが想像されていたものと違っていたりはしましたか?

田中 まったく予想だにしない展開でした。「こう来たか!」と。今回は愛がテーマということで、女性視点からすると正直すごく嬉しかったです。涙なくしては観られません。

――キラとラクスのラブストーリー色も濃いですね。

田中 ファンの方もきっと「キラとラクスがどうなるんだろう?」と思っていたところが、少しわかって。進展があったことが喜びでした。

――田中さんの目線だと、キラは男性として、どう映りますか?

田中 優秀なコーディネイターにしては悩み苦しんで、それをさらけ出すのが人間らしくていいですね。そんなキラだからこそ、ラクスは「この人しかいない」と思ったのかなと。「必要だから愛するのではありません。愛してるから必要なのです」という台詞がありますけど、苦しみも悲しみも喜びも全部わかち合えるから言えること。今回も苦しんでいるキラを見て、ラクスなりにどうしたらいいのか悩んで闘っています。そういうところでは、彼女の中に愛もありながら、成長の物語のようにも感じました。

――あの2人の関係性について、思うところもありますか?

田中 苦しいときも悲しいときも一緒に乗り越えていくのが愛だなと、すごく思いました。そこが描かれているのが感動的で、心を揺さぶられます。

――一緒にごはんを食べられるようになってほしい、とも思いました。

田中 そうですね。ごはんを作ったのに、すれ違いで食べてもらえなかったシーンがあって。福田監督が「嫌味のようにたくさん作って」とおっしゃってましたけど(笑)、カロリーも何も考えず豪華な食卓を用意したのに、もどかしいところではありました。

(C)創通・サンライズ
(C)創通・サンライズ

あんなに傷ついているのを初めて見ました

――一方で、ラクスは世界平和監視機構・コンパスの総裁になり、政治的な交渉にも臨んでいました。確かに大人になりましたね。

田中 『DESTINY』の最初に、キラと孤児院の子どもたちと平和に暮らしていた頃とは違いました。背負うものがあって、責任が重くのしかかってくる。やさしいキラが自由になってほしい気持ちもある。単に戦ってほしいとは思ってなくて。

――なのに、キラを戦場に出して自分は安全なところにいて……と言われているのを聞いてしまったり。

田中 そういうふうに見えているんだと、傷ついているラクスがいました。ラクスがあんなに苦しい顔をしたり、泣いたりするのは見たことがありません。初めて人間らしい姿が見られました。

(C)創通・サンライズ
(C)創通・サンライズ

カリスマ性を知らしめなければならなくて

――『FREEDOM』でも「私はラクス・クライン」からの演説があります。あれはエネルギーを使いますか?

田中 普通の掛け合いの台詞とは違います。『DESTINY』でもデュランダル議長と言葉で闘いましたけど、今回も「私はNOです」とカリスマ性で知らしめなければならない。「ラクス様がそう言うなら違うんだ」と思わせるように話す。それは20年経っても、やっぱりすごく難しくて。アフレコでは何回も録り直した記憶があります。

――カリスマ性を醸し出すのは、田中さんのキャリアをもってしても、簡単ではないと。

田中 ラクスは対話と歌で人々を納得させる能力を持っているので。自分にそんな能力があるかのようにお芝居をするために、本当に試行錯誤しました。

――エンディングでも、キャッチコピーになっている「私の中にあなたはいます。あなたの中に私はいますか?」を含む、ラクスのモノローグがありました。

田中 そこでは、ひとえに(2016年に亡くなった)脚本の両澤さんの顔が浮かんでました。いろいろな気持ちが溢れて、泣きながら練習していて。最初、監督に「尺の関係で使うか使わないかわからない」と言われていたんです。最終的に入るとなって、試写を観たとき、想いが込み上げてきました。See-Sawさんの曲もまた素晴らしくて、涙していました。

――その涙は、ご自身がラクスを演じてきたことへの想いも含めてのものですか?

田中 もう様々なことです。『SEED』、『SEED DESTINY』からずっと、みんなと一緒に作り上げてきた作品なので、そういったことが一気にグルグルして。エンディングでラクスの台詞が流れてきたとき、過去のいろいろなシーンが走馬灯のように頭の中に浮かびました。

(C)創通・サンライズ
(C)創通・サンライズ

最後だと思って悔いが残らないようにやり切りました

――今回は演技的に悩むことはなかったですか?

田中 昔よりは、「こうしてください」と言われたことを理解する速度は速まりました。的確なお芝居がわかって、TVシリーズの頃のように「何でできないんだ! 私のバカ野郎!」とはなりませんでした(笑)。

――ラクスを演じ続けて、田中さん自身が影響を受けたことはありますか?

田中 ラクスはコーディネイターということもあって、雲の上の存在で「こんな人になりたい」とは思いません。でも、美しい女神というか、象徴として憧れるところはありました。自分はなれないけど、尊敬する女性。そんな女性がキラのことで悩み苦しみ、成長しているのが『FREEDOM』でした。

――録り終わって、胸をよぎるものもありましたか?

田中 これで終わりなのか、次があるのかは監督のみぞ知ることですけど、私たちは毎回最終回だと思ってやっているところはあって。ひとつひとつの台詞を大切に、悔いが残らないように精いっぱいやり切りました。

――またラクスの名言も生まれました。

田中 これからきっと、ファンの方たちが「あのシーンが良かったです」「この台詞に感動しました」と言ってくださることが永遠に残って、私の老後の楽しみにもなると思います(笑)。だからこそ、完璧に演じたかったところもあって。楽しんでいただけたら嬉しいです。

オフィスアネモネ提供
オフィスアネモネ提供

Profile

田中理恵(たなか・りえ)

1月3日生まれ、北海道出身。主な出演作は『機動戦士ガンダムSEED』(ラクス・クライン役)、『ローゼンメイデン』(水銀燈役)、『ふたりはプリキュア Max Heart』(九条ひかり役)、『働きマン』(松方弘子役)など。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』

監督/福田己津央 脚本/両澤千晶、後藤リウ、福田己津央

配給/バンダイナムコフィルムワークス、松竹

公式HP

(C)創通・サンライズ
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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