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「人を支えて生きていきたい」若月佑美がドラマ初主演に込めた“リベンジ”の想いとは?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)ABC・DLE

800万円の借金を背負い「二度と恋はしない」と誓ったヒロインが、クセの強いセレブ男子たちと共同生活を始めた『セレブ男子は手に負えません』で、若月佑美が連続ドラマ初主演を務めている。昨夏まで5クール連続でドラマ出演などバイプレイヤーとして存在感を発揮し、本人も「支えるポジションが合っている」と話していたが、今回は天真爛漫で典型的なラブコメのヒロイン。どんな想いで挑んでいたのか? 「人を支えて生きていきたい」という彼女の人生観も浮かび上がった。

若い世代の価値観を学ばせてもらいました

――去年の大みそかのインスタで「考える年でした」とありました。

若月 いろいろな価値観を知った年だったんです。新しい出会いもありましたし、お久しぶりの方々にも会えて。『星降る夜に』では『桜のような僕の恋人』でご一緒した深川(栄洋)さんが監督で、『王様に捧ぐ薬指』の坪井(敏雄)監督も『私の家政夫ナギサさん』以来。橋本環奈ちゃんとも久しぶりの共演でした。『何曜日に生まれたの』では飯豊まりえちゃんたちと初めましてで、懐かしさも新しさもある1年になって、すごく考えた感じです。

――新しい価値観としてはどんなことが?

若月 年末に『セレブ男子は手に負えません』の撮影に入って、キャストの皆さんが若かったんですね。生まれてすぐSNSに触れた世代で、特に井手上漠ちゃんは当時20歳。インスタに載せるオフショットの撮り方を教わりました。インカメはダメで外カメを使う。ズームはコンマいくつにして、照明は消してフラッシュを焚く。私は写真なんて写ればいいと思っていたから、すごく勉強になって。1枚にそこまでこだわるのがクリエイティブに繋がると、学ばせていただきました。

――若月さんは29歳ですが、若者に驚かされるようになりましたか。

若月 自分たちと全然違うわけではないですけど、服もオシャレで、たぶん情報が手に入りやすいんですよね。インスタで「このブランドがかわいい」とか。私の時代は雑誌を見ていましたから。あと、衣装も「どこのブランドですか?」と聞いているんです。私には衣装は役の服でしかなかったので、仕事とプライベートの垣根なく取り込むのは新しい感覚でした。

悪意でなく思ったことを口にしただけだと

――去年の出演作では、『何曜日に生まれたの』の瑞貴役は特にインパクトがありました。飯豊まりえさんが演じた主人公のすいの高校時代の親友ながら、すいと想い合っていた悠馬と抜け駆けでつき合おうとして結婚していたり。

若月 最初は戸惑いました。今まではヒロインを支えるような役が多かったので。瑞貴はヒロインの隣りで毒を吐いて、自分の中では人として「この状況でこの言葉を言いたくない」という葛藤がありました。でも、演じていく中で、また新しい価値観を監督から教えていただきました。

――というと?

若月 瑞貴は悪意で言っているわけでない。ただ思ったことを口にしていると言われたんです。私は毒を吐く=裏があると思っていましたけど、何も考えてないと捉えたら、いろいろなことが理解できました。あと、一周回って良かれと思って言ってる台詞もあると聞きました。すいに「私の前から消えてほしいの」と言ってトラウマにさせたのも、「ここからいなくなったほうが楽だよ」という親友としての想いが半分はあったと。

――すいがサッカー部員と乗っていたバイクで事故に遭ったときですね。

若月 台本を読んで、私はイヤな奴の台詞と思いましたけど、「学校にいても、みんなが白い目で見るよ」という気持ちもあったのは、面白いですね。

――瑞貴が最後に、自分が不倫していると見せかけて悪者になり、離婚したことに繋がりますね。

若月 あれで視聴者の半分は瑞貴を許してくれたかもしれない。でも、何をしようと、すいを引きこもりにしたことを許せない人もいる。そう分かれるのは、野島伸司さんの脚本の深さだとわかりました。

王道のラブストーリーは出たかったんです

――『セレブ男子は手に負えません』のようなコメディタッチのラブストーリーは、若月さんの好みのタイプの作品ですか?

若月 私は『花より男子』とか『(花ざかりの君たちへ~)イケメンパラダイス』とか学園もののラブコメが流行っていた時代に、テレビっ子だったんです。今は刑事ものや医療もの、伏線を張ってどんでん返しがあるドラマが多くなっていて。そういう作品も好きですけど、また王道のラブストーリーを観たいと思っていて、自分でもいつか出たかったんです。今回はガッツリ王道なので、ちょっと遅い時間の放送ですけど、若い方たちにも観てもらいたいです。

――関西では日曜23時55分、関東では土曜26時30分からの放送です。

若月 そこも新しいと思うんです。昔は深夜だと再放送とかスリリングなドラマをやっていた気がします。今は夜ふかししたら、YouTubeとかに行っちゃうかもしれませんけど、テレビでまだラブコメをやっていると知ってもらえたら。

――『花より男子』だと道明寺司派か花沢類派か、どっちでした?

若月 私は類派でした。当て馬に報われてほしいので(笑)。少女マンガを読んでいても、すごくやさしいキャラクターが出てきて「この人は絶対ダメだな」と思いながら、最後は幸せになってほしいと願ってしまいます(笑)。

自分がメインをやらないと大変さがわからないので

――地上波連ドラ初主演となりますが、目標のひとつではあったんですか?

若月 大きく掲げていたわけではないですけど、いつかやれたらと思っていました。

――以前の取材では「主役を支える位置のほうが自分らしさを出せる」と話されていました。

若月 自分の生き方として、メインでないところで人を支えたいと思っています。でも、メインの人を支えるには、自分がメインをやったことがないと大変さがわかりません。『何うま』のまりえちゃん、『王ささ』の環奈ちゃんのスケジュールを見て、大変そうだなとは思っても、どうしてほしいだろうと。仕事でも友だちに対しても、それはずっと考えていたので、主役を経験させていただけるのはありがたいです。

――実際、主役は大変ですか?

若月 大変でした(笑)。台詞も多いですし、毎回料理をするシーンがあって「ガチで1から作ってください」と言われて。その料理の説明もするのは、初めてのことでした。

なるべく手間のかかる料理をしていました

――料理は元から得意だったんですか?

若月 好きではあります。小さい頃から親が料理をする横で見て、手伝ったりしていたので。

――このドラマで作る料理は、もんじゃ焼きに始まり、ミートボール、ハニートースト、筑前煮など幅広いですね。

若月 面白かったです。食材から見るので「この料理にこれが入っているんだ」とか。もんじゃ焼きを家で作る発想もなかったので、楽しくできました。

――苦戦したメニューはなかったですか?

若月 オマール海老をさばくシーンがあって、その海老が生きていて。私は魚を生きたまま触ったこともなかったので、未知の領域でした。水で締めてハサミで切るんですけど、野菜なら切り方の正解はないですよね。海老はまず筋を切らないと頭が取れないとか、そういうことは初めて知りました。

――そうした手際も毎回練習して?

若月 はい。ちゃんと1から撮ったので。クランクインまで毎日、ちょっとでも包丁に触れていました。今は電気圧力鍋に具材を入れておけば作れたりはしますけど、そういうものに頼らず、なるべく手間のかかる料理をしていました。

――たとえば?

若月 キャベツを千切りしたり、ハンバーグに入れるタマネギをみじん切りにしたり。今回の撮影では出てこなかったんですけど、揚げ物もやっておこうと、バッター液を作ったりもしました。

韓国ドラマのリアクションを学びました

――いつも作品に入る際、「事前にできることがあれば全部やる」とのお話もありましたが、今回は料理以外ではどんな準備をしましたか?

若月 韓国ドラマをたくさん観ました。もともと好きですけど、ヒロインのオーバーなリアクションが多いので。日本のドラマのお芝居はリアリティ指向な中で、今回はコメディ部分を強めるなら振り切ってみようと、韓流を取り入れました。

――どんな作品が参考になりました?

若月 『九尾の狐とキケンな同居』はヒロインが顔芸をするんです。最初の食べているシーンで、どアップでずっとすごいリアクションをしていたり。そこはいただこうと思いました。あと、最近の『キング・ザ・ランド』は御曹司に物申すヒロインなんです。

――若月さんが演じる百瀬ひかると通じていますね。

若月 私自身はあまり物申すタイプではないですけど、ひかるはセレブ男子の事情に足を踏み入れすぎてしまうところがあって。力になりたい気持ちが空回りして、怒られたり傷つけたりするので、相手のためを思ってぶつかるお芝居を観ておきました。

――若月さんの顔芸も見られるわけですか?

若月 ある程度していると思います(笑)。1話から国際ロマンス詐欺に引っ掛かって、幸せの絶頂からどん底へジェットコースターみたいに落ちました。心の声のモノローグが多いので、合わせて表情を作ったりしています。

天真爛漫な役に悔いが残っていたので

――初主演の役がこのひかるで、自分でもハマった感覚はありますか?

若月 リベンジのように思っていました。私は最初の頃、天真爛漫なヒロインを舞台でやらせていただくことがありましたけど、自分が普段ローなので上がり切らなかったり、役を理解し切れなかったんです。そういうヒロインってヒーローのために何かしたくて、「来るな」と言われたところに突っ込んでは、助けられたりしますよね。私は人の迷惑にならないように生きると決めているので、「来るな」と言われたら行かないんです(笑)。

――日常では良い心掛けですけど。

若月 それで役とリンクできなかったのを、悔しく思っていました。今は年齢も上がって落ち着いた役が多くなってきた中で、もう一度ヒロインの位置をいただけて。セレブ男子たちに振り回されて、困ったり泣いたり喜んだり感情をいっぱい出す役は、このタイミングでぜひまた挑戦したいと思いました。

――そして、リベンジできたわけですか?

若月 ひかるは天真爛漫で憎めないキャラクターにしたかったんです。普段の私は嬉しいことがあっても、心の中で喜びながら、両手を上げてバンザーイ! イエーイ! という感じではなくて。ひかるはわかりやすく感情を出していくので、ギアを上げていかなければいけないと思っていました。現場に入ったら、周りがギアが上がっている方ばかりだったので、自然に気持ちを上げてもらえました。

心を守ってあげられる存在でいようと

――ひかる役には共感できるところもありますか?

若月 ひかるは基本的に、人を助けることが好きなんだと思います。ペントハウスの管理人の仕事に就いたのも、お給料が良いこともありつつ、裏で雑用をするのが向いているからでしょうし。私自身も人を助けたいし、守ってあげたい。体でなく心で守ることをしていきたいと思っているので、ひかるの気持ちはよくわかりました。ヒロインは守られがちですけど、ひかるはセレブ男子たちの心を守ってあげる存在でいたいと思って、演じていました。

――何かを心掛けていたりも?

若月 真剣な話をするシーンで、「大丈夫だよ。あなたは頑張ってるから」みたいな台詞の言い方が、母親っぽくなってしまうことがあって。それはちょっと違うので、バランス良く、ギアをもう1コ上げたりしていました。

好かれようとしないで好かれたら理想形です

――こうしたハーレム系ラブコメのパターンとしては、ひかるも何だかんだと、セレブ男子たちに好意を寄せられていきそうですかね。

若月 ひかるは「二度と恋はしない」と誓って、好かれようとはしていません。男子たちの顔色をうかがわずに生きていながら、周りから好きになられたら理想形ですね。現実では「これをやったら、どう思われるだろう」とかいろいろ考えを巡らせて、結局は大事なことが言えなかったり、消極的になってしまうことがあるので。

――先ほど出た『花より男子』などにも通じるところがありますね。

若月 そういうストーリーはわかりやすくていいなと思います。ヒロインがいい子で「そりゃ好きになるよね」みたいな感じだと、視聴者としても好きになりました。

――今回のセレブ男子たちも、司派か類派かみたいな話題になりそう?

若月 それが現場で「つき合うとしたら誰?」みたいな話をしていると、全員ダメということになって(笑)。みんなクセが強くて、現実にいたら本当に手に負えなそう。その中では、お医者さんの彰人さんが花沢類っぽいというか、人の気持ちがわかって寄り添ってくれますけど、消極的でおっちょこちょいすぎる(笑)。そういうのが逆に、この作品の面白さかもしれません。

「ありがとう」は言うより言われたくて

――ああいう高級ペントハウスでのセレブ生活はしてみたいと思いますか?

若月 管理人をやるのはいいなと思いました。雑用をすることが好きなので。

――トレーニングジムや屋内プールやバーカウンターまであって広いから、掃除も大変ではないですか?

若月 でも、感謝されて生きていたいので、楽しそうだなと思います。

――先ほどから出ている「人を助けたい」というのは、小さい頃から思っていたことですか?

若月 そうです。「ありがとう」を言うより、言われる人生であれと思っていました。「ありがとう」と言われなくて、自己満足でも全然いい。たとえば小・中学生の頃で言えば、トイレ掃除をすると、みんなが嫌がることをやれた自分を肯定できるし、みんなも喜んでくれる。これはウィン・ウィンだという考え方になりました。今でもトイレ掃除は好きです。

悩んでいたら全部の感情を肯定してあげたい

――「人の心を守る」というのは、直に言えば相談に乗るということですか?

若月 相談に乗りたいし、してもらうことも多いです。それが嬉しくて。私は肯定マンなんです。全部の感情を肯定してあげたい。特にこの世界だと、誰かに指示されたり人に評価されて、悩んだり自分を責めることが多くて。私もそうでしたし、だからこそ誰かがすべてを肯定してあげないと、しんどいと思うんです。「人に対してムカついた。怒っている自分もイヤだ」という話でも、「怒るのは悪いことではないよ」と言ってあげたい。どうするかアドバイスするというより、「どれならやれそう?」と選択肢を出して、一緒にゴールを目指すことが好きです。

――自分が悩んだときはどうしてますか?

若月 相談はあまりしません。自分で収拾をつけるか、時に身を任せるか。あと、相談を受けているときに相手の生き方を聞きながら、「こう思う人もいるんだ。私の考え方は違っていたな」と、自分の悩みが解決されていくこともあります。

――本当に人間ができていますね。

若月 いやいや。そんなことはないです。現世で徳を積もうとしている人は、前世でやらかしたのを取り戻そうとしているらしくて。だから、自分の前世が不安です(笑)。

怯えるのはやめて自信を持って伝えられたら

――主役を経験して、大変さがわかるのと同時に、新たなやり甲斐も感じませんでした?

若月 大変さより楽しさが上回って、撮影を終えられました。主演だと監督と役についてディスカッションする時間が増えて。あと、スパイスになる役は与えるものが多いんです。たとえば主人公の元カノだったら、人間関係をかき乱していったり。主役だと逆に、そういう人たちを受けてお芝居することが多くて、いろいろな感情が動きました。また機会があれば、やってみたいです。

――より名前を売りたいといった意味で、主役をどんどんやりたいと思ったりは?

若月 それはないです(笑)。今回も主役と言いつつ、名前が一番上の位置で出演くらいの気持ちだったので。良いのか悪いのかわかりませんけど、野心みたいなものはなかなか持てません。

――今年30代に入るのも見据えて、磨きたいことはありますか?

若月 怯えることをやめたいです。プレッシャーと緊張に弱いので、そこを変えていきたくて。遠慮がお芝居にも出てしまうところもあるんです。「ここまでやってしまうのはどうだろう?」と相談すれば、「来ていい」か「行かないほうがいい」か正解を出してくれるはず。でも、それを聞く勇気がないときは、自分の中で抑えてしまう。結果的に芝居として良くない方向に行くのは、絶対やめたいです。

――遠慮するのが正しいとは限らないと。

若月 そうですね。相談する勇気を徐々に持ててはいるので、今年はちゃんと自信を持って、自分の意見を監督たちに話せたら。今回主演を経験して、言ってみたら一緒に考えてもらえたり、迷惑だと思われないこともわかったので、ちゃんと伝えていきます。

Profile

若月佑美(わかつき・ゆみ)

1994年6月27日生まれ、静岡県出身。2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格。2018年に卒業。主な出演作はドラマ『今日から俺は!!』、『アンラッキーガール!』、『ユーチューバーに娘はやらん!』、『何曜日に生まれたの』、映画『ヲタクに恋は難しい』、『桜のような僕の恋人』、『劇場版ラジエーションハウス』、舞台『鉄コン筋クリート』、『薔薇王の葬列』など。ドラマ『セレブ男子は手に負えません』(ABC・テレビ朝日系)に出演中。「Oggi」美容専属モデル。

ドラマL 『セレブ男子は手に負えません』

ABC・日曜23:55~ テレビ朝日・土曜26:30~

出演/若月佑美、鈴木康介、本田響矢、井手上漠、中尾暢樹ほか

公式HP

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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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