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浜辺美波が「耐え切れるか不安だった」音大生役で向き合ったもの 「メラメラした心をまた持ちたいです」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

声を捨てた青年と目が不自由になった音大生の純愛を描いた映画『サイレントラブ』が公開された。苦境にもピアニストになる夢を諦めない音大生を演じたのは浜辺美波。昨年は朝ドラ『らんまん』でヒロインを務めるなど、若手トップ女優として活躍を続けているが、今回はかつてないほど心を疲弊させながら、力を振り絞って演じたという。

ピアノの練習は1~2時間で頭がクラクラして

――去年は朝ドラ『らんまん』に出演し、『シン・仮面ライダー』に『ゴジラ-1.0』と公開されましたが、『サイレントラブ』はいつ撮影したんですか?

浜辺 朝ドラの前です。おととしの7~8月で暑かった記憶があります。

――その前にピアノの練習を3ヵ月したそうですね。経験は全然なかったのですか?

浜辺 中学生の頃は吹奏楽部に入っていて、私はフルートを吹いていました。でも、楽譜ももう読めないので、活かされたことは何もありませんでした(笑)。

――でも、音感は備わっていたのでは?

浜辺 フルートは両手でひとつの形を作るんです。ピアノは片手ずつ違う形を作って弾くので、頭を使うなと思いました。フルートは肺活量さえ鍛えれば、意外と何時間でも吹けます。ピアノは頭が先に疲れて、1~2時間でクラクラになって。それはビックリしました。

――最終的に全曲弾けるようになったそうですが、上達は早かったんですか?

浜辺 役のために習いごとをすると、いつも同じで、いっぱいいっぱいになって「もうイヤだ」と思いながら、行っては練習する感じでした。でも、今回は野村(周平)さんも未経験から練習されていたので、かなり心強かったです。連弾の練習でお会いすると、「しんどいね。間に合わないよね」みたいな愚痴を言い合いながら、お互いを励まして練習をしていました。

現実と切り離されないように音楽を聴いてます

――クラシックやピアノ曲を聴いてはいたんですか?

浜辺 学生時代に給食の時間に流れていた以外は、自分ではあまり聴きません。もう少しテンションが上がるような、テンポの良い曲のほうが好きでした。ただ、久石(譲)さんは小さい頃からジブリの映画で聴いていたので、今回曲を作っていただいて、すごく嬉しかったです。

――昨年の紅白歌合戦で司会を務めた浜辺さんが、普段聴いているのはどんな音楽ですか?

浜辺 ミュージカルのサウンドトラックだったり、この年末年始だと『(キボウノチカラ)オトナプリキュア(’23)』を観ていて、いろいろなプリキュアが出てきたのがすごく楽しくて。歴代の主題歌をカラオケで同世代の友だちと歌ったら、絶対テンション上がるだろうなと、プリキュアのテーマソング特集を聴いたり、歌ったりしていました。

――J-POPだと?

浜辺 トップ100をバーッと聴きます。紅白のこともありましたし、スタジオや撮影所に籠りきりになると、現実世界と切り離されてしまったような感覚になるんです。今はどんな曲が流行っているんだろう。どなたが人気なんだろう。そういうことを取り入れておきたくて、聴くようにしています。

ラブストーリーに共感は難しいと思っていました

――『サイレントラブ』は「世界でいちばん静かなラブストーリー」と謳われています。好きな世界観でした?

浜辺 ラブストーリーって、今の私は共感するのが難しいのではないかなと思っていました。キュンキュンとかピュアな学生の恋が多いイメージでしたし、私は学生ものは自分の学生時代で卒業すると決めてました。かと言って、大人のラブストーリーを演じるには、まだ若すぎる。そういう微妙な年齢なんです。

――そういえば、恋愛ものは最近なかったですね。

浜辺 その中で、『サイレントラブ』はラブストーリーと謳いながらも、2人の人間としての物語に近い気がして。脚本を読んだときは、どんな画になるのか、まったく想像できませんでした。どういうテンションで、どう描かれていくのか。そこが逆に、興味をそそられました。

――完成形を想像できなかったのは、台本上で台詞が少ないからですか?

浜辺 そうです。あと、音楽も久石さんが作ってくださることになってはいましたが、撮影に入る1ヵ月くらい前まで、美夏が弾く楽曲が出来上がっていなくて。原作もないので、脚本からしか深掘りできない。未知なところが多すぎました。内容的にはダークで重たくて、胸が苦しくなる物語なのに、主役が山田(涼介)さんというのもアンバランスで、さらに気になりました。

心がずっと落ちたままだろうなと

――美夏役はピアノのことや目が不自由な設定もあり、ハードルが高かったのでは?

浜辺 高かったです。脚本を読んだ時点から、撮影期間中は今までで一番苦しくなると思いました。美夏は目のこともありますし、終始辛いことが起こる展開なので、心がずっと落ちたままだろうなと。実際、この作品をやると決めてから、常にどこか気が重たかったです。

――「平坦な台詞の言い方をした」とコメントされていますが、表情も凍りついた感じでした。

浜辺 表情って相手を受けて変化したり、相手に伝えるために意識して変化を付けることが多いと思うんです。でも、美夏は目が見えなくなった状況に慣れてなくて、コミュニケーションを取るときに見えないことを知られたくない気持ちもある。不用意に顔を動かすことはないと、監督と話しました。目線をあまり動かさず下を見続けて、知らない世界にいきなり飛び込んだような不慣れさを出していけたら、いいかなと。

――内田英治監督は浜辺さんについて、「笑顔の奥に何かあるのではないか」「明るさの裏側に真逆の静けさがあるのでは」とコメントされています。

浜辺 自分の奥を見られたくない人にほど、明るく話す節はあるかもしれません。根本的には動か静かといったら、私は静だと思っています。

――『らんまん』で演じた寿恵子さんのような役だと、ギアを上げている感じですか?

浜辺 ああいうふうになりたいという憧れはあって。私はこのお仕事をしていなかったら、たぶんもう2分の1くらい暗かったと思います(笑)。いろいろな方にお会いしますし、暗い自分が好きではなかったので、だんだん明るくなりました。

諦められずにしがみつくのが人間らしくて

――美夏が最初、大学の屋上から飛び降りようとしたほどの絶望感は、想像を重ねるしかなかったですか?

浜辺 想像はたくさんしました。美夏の過去はほとんど描かれていませんが、ピアニストになるためだけに頑張ってきたような人生だったと思ったんです。そういうところから作り上げていきました。

――結局は「ピアノ科はやめません」と言い、練習も1日も休みたくないと、母親を追い返したりもしていました。

浜辺 強さもありますし、今までピアノに誰よりも時間を掛けてきたから、目が見えなくなっても簡単に諦められない。しがみついているようなところがあって、人間らしいなと思いました。

――美夏が「夢を叶えたいの」と言っていたのは、浜辺さんの女優としての想いにも重ねられました?

浜辺 私は最初に夢があったというより、小さい頃にお仕事を始めて、だんだん夢みたいなものができた感じです。目標は立てたほうがいいと思うのですが、勝ち負けがあるわけではないので難しくて。ぼんやりした夢が多くなって、それでも持っておかないと、自分の軸がブレてしまう気がしています。

向上していけるように目標を持たないと

――あまりメラメラはしていませんか?

浜辺 ないんです(笑)。だからこそ、ちゃんと目標を持っておかないと、競争心がなくなってしまいそうで。もうちょっと若い頃は「負けない」とか「この世界で生きていけるようになるぞ」みたいな想いはあったかもしれません。今はそれがなくなって「頑張ろう」というだけなので、メラメラした心を持たないといけないなと思っています(笑)。

――浜辺さんくらいになると、もうそういう時期は越えたのかも。

浜辺 危機感みたいなものは、前よりはなくなってきた気がします。ここからどう目標を見つけて、仕事への気持ちをより高めていくかは自分次第。向上していけるように頑張ります。

――自分で自分を焚きつけていく感じですか。

浜辺 本当にそうです。私より下の世代の方たちも活躍していますし、同世代もたくさんいて。負けてられないので、自分で考えていかなければと思います。

ワンちゃんにつられてハッピーになります

――出演作が相次いで忙しい中でも、お体は丈夫なんですか?

浜辺 半年に1回くらい熱が出たりはしても、薬を飲めば何とかなる程度です。丈夫に産んで育ててくれた両親に感謝しています。

――ウォーキングをしているんでしたっけ?

浜辺 去年の夏の終わりくらいに、一瞬始めました。『らんまん』の出演時間がちょっと少なくなった時期だったので。けれど、そこから結婚して後半になるにつれて、現場で体力を100%使って、家に帰ってから歩く余裕はなくなりました。

――日ごろ、運動は特にしてはないと。

浜辺 動画を観て筋トレとかはしています。自重の簡単なものや、ちょっとしたストレッチで、変化があるのか、ないのか(笑)。本当はウォーキングだったり、何か運動はしなければと考えています。健康面はもちろん、美容面でも張りが出てくるので。無理はしないで、楽しくてやりたくなる運動に出会えたらいいなと思っています。

――メンタル的にも強いんですか?

浜辺 私はたぶん、あまり上下しないんです。でも、自分のご機嫌はなるべく取ろうとしています。いつも100%ニコニコでなくても、機嫌が良くないような雰囲気は表に出したくなくて。好きな音楽を聴いたり、YouTubeを観たりしますし、家に帰ったら何をしよう、何を食べようと考えたりします。

――何を食べるかは大事ですか。

浜辺 大事ですね(笑)。冬だと絶対温かいものを食べたい、あの野菜を食べよう、この鶏肉を食べようとか、ちゃんと決めています。あとは家にワンちゃんがいるので、基本的に帰ったらご機嫌です(笑)。いつもハッピーそうに来るから、こっちもつられてハッピーになります。

自分では選ばない映画を観るようにしていて

――インプットのためにしていることもありますか?

浜辺 友だちと映画を観に行っています。その子は映画が本当に好きで、常にいろいろ観ていて。時間が合うときはレイトショーでも、一緒に行かせてもらっています。私が自分で選ぶとハッピーそうな作品ばかりになるので(笑)、その子のお薦めの映画を観るようにしています。

――女優さんの演技に刺激を受けたりは?

浜辺 この方のドラマを観てみたいな、というのはあります。今度の大河ドラマの『光る君へ』もすっごく楽しみにしていて、見逃し配信でも観たいです。

――自分の女優としての成長を感じることはありますか?

浜辺 「これで合ってるのかな。大丈夫かな」と悩みながら、やっていることが多いです。『サイレントラブ』は全編胸が苦しくなるような作品だったので、耐え切れるか不安だったところがあって。そこでどんな重たいシーンでも全力で向き合えたのは、逃げ腰なところがある私には大きかったです。全シーンで100%を出し切って、やれるだけやった。その積み重ねが大事だと思っています。

――途中では、耐え切れないかもしれないと思ったことも?

浜辺 後半は重たいシーンが続いて、もう心が疲れてしまって、修復するのに2~3日欲しい……となったことはありました。セリフは少なくても展開が激しくて、今日はこのシーン、明日はあのシーン……と気が休まらなくて。現場に行ったら何とか踏みこたえて、力を振り絞りながら撮影に挑む日々でした。1ヵ月くらいでキュッと撮ったので、精神的にもヘトヘトになったのを覚えています。

役を本当に生きているような感覚になれて

――それだけ役に没入していたんでしょうね。

浜辺 作品によっては、重たいシーンが何コかあっても、あとは日常のシーンだったりするのですが、今回は撮影に行くと全部辛い(笑)。隙があれば泣いてしまいそうで、「今日はどんな想いをしなければいけないんだろう」と毎日思っていました。監督がご自身で脚本を書いていらっしゃるので、現場で変わることもありましたし、だからこそ現場で生まれた感情を大切にして、それを活かしてもらえて。美夏を本当に生きているような感覚になれたので、そういう意味ではとても楽しい時間でもありました。

――美夏の辛い気持ちも、日常では味わえないものですよね。

浜辺 あっても私は心をセーブして、辛いと感じないかもしれません。美夏は心が柔らかくて開放しているからこそ、浮き沈みがあって、私のプライベートでは、何かにそこまで本気になることもなくて。それは違うところかなと思います。

自己主張が苦手なのをどうしようかと

――役者さんに対して「カメレオン俳優」とか「清純派」とか形容がいろいろありますが、浜辺さんはご自身をどんな女優だと捉えていますか?

浜辺 個性が薄いと思います(笑)。紅白でも「アナウンサーかと思った」と言われたりもしましたし、自己主張がすごく苦手なんです。隙があれば存在感を消して、周りに合わせようとしてしまうので、そこをどうしようかと考えています。

――今後磨いていきたいこともありますか?

浜辺 やっぱり心をセーブしがちというか、本能的に感情をあまり動かしたくないと思ってしまうので、もっと開放したいです。撮影現場では心をフルに使って、お芝居ができるようになれたら。それと体力をもっと付けて、多くのことに配分して楽しめるようになりたいです。これからもっといろいろな役が巡ってくる年齢になるので、対応していけるように頑張ります。

撮影/松下茜

Profile

浜辺美波(はまべ・みなみ)

2000年8月29日生まれ、石川県出身。2011年に第7回「東宝シンデレラ」オーディションでニュージェネレーション賞。同年に映画『アリと恋文』に主演して女優デビュー。2017年に主演した映画『君の膵臓をたべたい』で日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。近年の主な出演作は、映画『思い、思われ、ふり、ふられ』、『約束のネバーランド』、『シン・仮面ライダー』、『ゴジラ-1.0』、ドラマ『私たちはどうかしている』、『ドクターホワイト』、『らんまん』など。映画『サイレントラブ』が公開中。7月26日公開の『もしも徳川家康が総理大臣になったら』に出演。

『サイレントラブ』

監督・脚本/内田英治 出演/山田涼介、浜辺美波、野村周平、吉村界人、古田新太ほか 配給/ギャガ

公式HP

(C)2024「サイレントラブ」製作委員会
(C)2024「サイレントラブ」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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