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旅するワニを描き続ける女優の決心 「人生を賭けてやらないと後悔すると思ったんです」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
松竹エンタテインメント提供

女優デビューの一方で、独学から始めた画家として評価を高めてきた松宮なつ。ETE PINの名義でワニをモチーフにした絵などを描き、5月1日から三度目の個展「なつのBon Voyage!展」を伊勢丹新宿店で開催する。オーダーを受けて描くことも増えてきた中で、当面は女優の仕事を控え、画家に専念することを決めたという。

インタビュー「女優がワニの絵を描き続ける理由」

5点を並行して朝から晩まで描いてました

――今回の伊勢丹新宿店での個展も、声が掛かっての開催になりますか?

松宮 そうです。新宿の伊勢丹は、画材屋さんの世界堂に行くときにウインドーショッピングをしていて、まさか自分が個展のお話をいただけるとは思ってもいませんでした。会場の本館6階は子ども服売り場のフロアで、私の絵は雰囲気に合いそうです。

――新作は何点になりますか?

松宮 11点です。お話をいただいた2ヵ月ちょっと前から、ずっと引きこもって描いていました。

――以前うかがったときは、1点を描き上げるのに2ヵ月かけるとのことでしたが。

松宮 普段は1点描いてから次に行くんですけど、今回は時間がなくて。5点ずつ並行して、朝から晩まで描く感じでした。

――ひとつの作品を途中まで描いて、別の作品に移って……みたいな繰り返し?

松宮 そのうちの1点が出来上がったら、また1枚新しいキャンバスを追加していく形で、11点描きました。絵によって自分のテンションや気分を変えるのが難しくて、頭が混乱するときもありました(笑)。

――しかも、2ヵ月間、毎日こもりっぱなしで。

松宮 人と話さず、ずっとキャンバスに向かっていて。たまにお散歩するくらいで、本当に限界が来たら、家族や友だちに電話して、ちょっとしゃべってもらいました。

ちゃんと寝たほうがエネルギーが持続するので

――好きで描かれているとはいえ、そこまで自分を追い込むと、メンタルが崩れませんでした?

松宮 ちょっとおかしくなるときはありました(笑)。どうしても描けなくなったら、仕方がないから諦めて、好きなサウナに行くことにしていました。それまでは我慢して、何とか家でリフレッシュしながら描こうと。

――睡眠時間を削ったりも?

松宮 ちゃんと寝たほうがエネルギーが持続するので、何とか7~8時間は取っていました。それで朝起きた瞬間から描き始めて、夜の12時には寝るサイクルを守りました。

――食事はどうしていたんですか?

松宮 全部自分で作っていました。お腹を壊したりするのが怖くて、健康的なものを食べるようにしていたんです。体の調子が良いほうが絵もはかどるので、風邪をひかないためにも毎日和食で、発酵食品をよく食べていました。

昨年の個展より
昨年の個展より

制作中はたくさん食べても太らなくて

――絵を描くのに良いメニューとか、あるんですか?

松宮 お味噌汁はマストにしていました。具でお肉も野菜もたくさん入れて、出汁をちゃんと取って。みりんも入れて糖分も取れるので、変におやつとか食べなくてもいられます。あとは煮物やおひたしに、お魚を焼いたり。毎朝大量に作って、1日かけて全部食べる繰り返しでした。でも、たくさん食べても、不思議なことに太らなくて。

――それだけ精神的にも体力的にも、エネルギーを使っていたんでしょうね。

松宮 毎日クタクタになるので、食べないとやっていけません(笑)。でも、「そう言えば今日の夜は食べてなかった」という日もありました。

――絵を描くことに没頭していて。

松宮 たまに元気を出そうと、ものすごい量のお肉を食べたり、うなぎを買ってきて焼いたりもしていました。

ゴールデンウィークなので旅を連想する絵を

――今回はDMに使われた、丸まったワニが風船にぶら下がっている絵がメインビジュアルになりますか?

松宮 そうです。絵のタイトルも個展と同じ『Bon Voyage!』にしました。ワニが風船で旅をしている、いつもの私らしい絵なのと、ゴールデンウィーク中の開催なので、皆さんが遊びに行っている気分を味わえるようにしたくて。チューリップも咲いていて、温かく楽しく。旅の始まりっぽくするために、ワニをいつもより幼く、生まれたての赤ちゃんのような感じで描いてみました。

――個展のタイトルを「なつのBon Voyage!展」にすることも、最初に決めていて?

松宮 早めに考えて決めました。今までの個展は夏で、「涼風」とか季語を意識しましたけど、今回は微妙な季節だったので。「Bon Voyage!」(フランス語で「良い旅を」)にして、旅を連想するような絵を描いています。

――SNSでの告知で使われた、ワニが寝ているナマケモノに寄り添っている絵は?

松宮 あれは『Bed time story』というタイトルで、お休みをしているイメージです。ナマケモノは寝ていますけど、ワニは目が覚めていて、これからの旅を想像している。全体的な雰囲気は幻想的で温かみがあって、現実かワニの想像かかわからない絵にしました。

『Bon Voyage!』(画/ETE PIN)
『Bon Voyage!』(画/ETE PIN)

おとぎ話がいつか現実になるように

――2月の「100人10」に出展された『木星/jupiter』は、ワニが寝ていてナマケモノが起きている絵でした。あれと対になっていたり?

松宮 そうなんです。外の世界が怖くて引きこもっていたナマケモノが、ワニと旅をさせてもらいながら、自分はワニのために何かできるか、考えているところを描いたのが『木星/jupiter』でした。いつか自分がワニに新しい世界を見せてあげたいと、幻想の空間でお祈りしている。そういう気持ちになれたナマケモノの成長の瞬間だったんです。

――まどろみ感がありつつ。

松宮 今回の『Bed time story』では、ワニが旅から帰ってきて、ナマケモノはいつものように寝ている。実はワニにとって、そんなナマケモノの存在が心の支えになっていたんです。ワニの旅はワクワクするけど、孤独がつきまとっていて。でも、ナマケモノがいつも待ってくれていて、自分を肯定してくれる。だから、安心して旅ができる。ナマケモノの温かさを、ワニが寝る前に感じている絵を描きました。

――ワニは何か考えているように見えます。

松宮 自分がもっと成長して新しい世界を切り拓いて、ナマケモノにも見せてあげようと決意している瞬間でもあって。ワニが想像している将来の目標、Bed time story=おとぎ話がいつか現実になりますようにと、メッセージを込めました。

『Bed time story』(画/ETE PIN)
『Bed time story』(画/ETE PIN)

自分の根っこと後天的な性格が絵に出ていて

――「100人10」のときのSNSでは「最近は物語がよく浮かびます」と書かれていました。

松宮 今も浮かび続けています。私が最初に風船に吊るされて飛んでいるワニを描いたのは、瞑想をしているときにパッと浮かんだ映像からでした。ワニの絵をいろいろ描いているうちに、ナマケモノが思い浮かんで、生態を調べていたら面白いなと。でも、最初は自分で描きながら、なぜナマケモノがこんな景色の中で旅したり、ゴロゴロしているのか、わからなかったんです。

――絵筆が動くままだったわけですか。

松宮 絵は思いつくけど、これが何なのか。でも、自分の好きな絵になりそうだから、描く感じでした。セラピーの箱庭療法みたいなものかなと、何となく感じていましたけど、最近になって、自分の箱庭の中身がわかってきました。

――と言うと?

松宮 たぶんワニは私の後天的な性格なんです。物心がついてから、一種のトラウマみたいな出来事があって生まれたもの。そして、ナマケモノが私のもともとの性格だと思い始めました。本来はインドアで、静かなところでのんびりしたい。でも、いろいろな体験をして、もっと広い世界を見ないといけなくなった。そっちの自分がワニで、隠れた根っこがナマケモノ。ここ何年か、心理学の本を読んでいるうちに、そう気づいたんです。

『あたたかな未来』(画/ETE PIN)
『あたたかな未来』(画/ETE PIN)

新しい経験をしていけば無限に描けるなと

――松宮さんはトラウマになるような体験をしているんですか?

松宮 小さい頃、学校でうまくいかないタイプでした。友だち関係で何か孤立してしまって、私はみんなと仲良くしたいのに、なかなか仲良くなれない。自分はここにいるべきではないんだと、学生時代にずっと思っていました。

――小学生の頃から?

松宮 小、中、高とずっとです。中高一貫の学校でしたけど、みんなと同じルートにいても、ずっと私の居場所はないんだろうなと。何かがショックでそう思ったというより、当たり前のことに感じていました。馴染めないということは、いる場所が違っているんだと。

――それで「もっと広い世界」として芸能界に?

松宮 そういうところはありましたね。だから、ワニとナマケモノが自分の二面性に見えてましたけど、最近は自分と誰かとか、誰かと誰かに見えたりもしてきて。見え方が変われば物語は続いていく。私がずっと新しいことを経験したり、いろいろな人に出会って成長さえしていけば、無限に絵を描いていけると思っているところです。

世界的な名画を見て自信がなくなって

――前回の個展から1年も経っていませんが、画風が変化してきたところはありますか?

松宮 色使いはちょっと変わってきた気がします。明るく深い色味で描きたくなってきました。

――今回のテーマの旅ということだと、松宮さんは昨年秋に、フランスやベルギーを回ってきたんですよね。

松宮 ルーブル、オルセー、オランジュリー……と、とにかく美術館を回って、世界的な歴史に残る名作をパーッと見てきました。ものすごく刺激になって、モチベーションが高まるはずでしたけど、帰国した直後は逆に落ち込んでいました。本当に素晴らしい作品ばかりで、自分の絵にはそんな力があるのか、自信がなくなってしまって。

――自分に『モナ・リザ』は描けない、とか?

松宮 そういうことを思ってしまいました。でも、いろいろ考えた結果、自分の絵の良さも改めてわかってきて、好きだとも思えたので、結論は描くしかないなと。いきなり世界の巨匠の名画を目指しても難しいので、まずできることをやっていこうと思いました。

昨年の個展より
昨年の個展より

ホッコリして楽しめるのが私の絵だなと

――ETE PINさんの絵の良さは、どんなところでしょう?

松宮 自分で言うのも恥ずかしいですけど(笑)、展覧会に出展させてもらうと、良い作品がたくさんある中でも、やさしくてホッコリするのは私の絵だと思います。あと、解説なしでも何かかわいいとか、感覚で楽しめる。お子さんでも楽しめる絵を描きたいと思っていて、それができているのではないかと。

――そのようですね。

松宮 「美術に詳しくないけど、ETE PINの絵は好き」と言ってくださる方や、「絵を買ったことはないけど、この絵が欲しい」と買ってくださる方も増えてきました。絵に興味を持っていただくきっかけになれているように感じます。

ヨーロッパでは毎日が大冒険でした

――フランス、ベルギー旅行では、美術館以外の思い出もできました?

松宮 毎日ほとんど美術館にいましたけど、モンサンミッシェルに行く途中にワニ園があったり、アントワープの『フランダースの犬』に出てくる大聖堂やブリュッセルのグランプラスという広場が本当にきれいで、日本ではなかなか見られない景色だと思いました。ヨーロッパに1人で行くのは初めてで、ずっと大冒険というか、毎日発見があって。物価が高いのは大変でしたけど(笑)。

――今は円安ですからね。

松宮 幼なじみの家族がフランスに住んでいて、泊めてもらえなかったら行けませんでした。食事も近くでパンを買って済ませていました。

――芸術家の街と言われるモンマルトルにも行きました?

松宮 行きました。路上に絵描きさんがいっぱいいて、すごく面白くて。日本人で「30年ここで絵を売ってる」という方もいて、いろいろな人生があるなと思いました。

――そうした体験も、今度の個展に有形無形に出ているかもしれませんね。

松宮 出ていると思います。幼なじみの家もすごくオシャレでした。お母さんが陶芸家さん、お父さんが写真家さんで、食器や壁紙もかわいくて。パリの街並みも人も自由な感じがしました。

作品ごとにプレイリストを作ってBGMに

――今回の制作では、時間的なタイトさは別にしたら、悩むことはありませんでした?

松宮 自分のご機嫌を取って、コントロールできるようになってきたので。作品ごとにプレイリストを作って、描きたいイメージに自分のテンションを持っていける曲をBGMにすると、スイッチが入ります。

――たとえば『Bon Voyage!』や『Bed time story』だったら、どんなプレイリストだったんですか?

松宮 『Bon Voyage!』はYUKIさんの『わたしの願い事』とかミスチル(Mr.Children)さんとか、J-POPの有名な方たちでした。『Bed time story』は昔から好きなaikoさんの『それだけ』をずっとリピートしていました。作品によって5曲だったり、10曲だったり。洋楽で描いたりもしましたけど、基本的には歌詞がわかりやすい日本の曲だった気がします。

――ワニもナマケモノも出てこない新作もありますか?

松宮 一瞬考えましたけど、それなら数ヵ月かけたいなと思って。いつかは人も描きたいですけど、またちょっと練りたいです。

『あこがれ』(画/ETE PIN)
『あこがれ』(画/ETE PIN)

打ち込まないと中途半端で終わってしまう

――昨年夏の個展前の取材では「絵も女優もどちらもメイン」とのことでしたが、今は画家活動に専念されているそうですね。

松宮 はい。ありがたいことに、ずっと絵を描くことで忙しくさせていただいています。展示をしたり、オーダーしていただいた絵を制作したり。そういうことでギッシリ埋まっている感じです。

――物理的に、女優をやりながらだと難しいと。

松宮 寂しい気持ちはあります。昨日も寝る前に息抜きでドラマを観ていて、お芝居したいなと思いました。

――それでも「絵に専念する」と決心した日があったんですか?

松宮 ありました。絵を描いて展示されて、認めていただいたのは初めての感覚だったので。今、縁やチャンスを感じるのは絵。いったんちゃんと打ち込まないと、中途半端で終わってしまう。すごく悩んだ末に決心しました。

――悩むことは悩んだのですね。

松宮 お芝居も好きなので。でも、周りのアーティストさんを見ると、みんなエネルギーMAXで、人生を賭けてやっていて。私もそれくらいやらないと、後悔しそうだと思ったんです。今は時々ドラマを観て、いいなと思うくらいで、もう迷うことはありません。

――いずれまた、女優もやる可能性はありますか?

松宮 もっと余裕ができて、うまくバランスが取れるようになったら、できるといいなと思っています。

昨年の個展より
昨年の個展より

子どもたちのために何かできたらと思います

――個展の先の展望もありますか?

松宮 ずっと言っていてできてないのが、絵本なんですよね。ストーリーは自分の中でだいたい完成しているので、まとまった時間を取って、集中して作りたいです。物語を考えるのは、本当に好きなので。あとは今、ボランティア団体のハートリボン協会の大使をしていて。

――昨年6月に就任されました。

松宮 支援が必要な子どもたちのために、絵本の読み聞かせをしたり、古本や文房具を配布したり、クリスマスに無料でケーキを配ったり。私の絵も展示させてもらっていますけど、画家として子どもたちのために何かできたらいいなと思っていて。絵本ができたら読み聞かせに使っていただくとか、子どもたちに絵の魅力を知ってもらう活動もしていきたいです。

――以前も「世の中に貢献できる画家になりたい」と話されていました。

松宮 その想いはどんどん強くなっています。

――「私の描くワニは、自分の心を映してくれる鏡」との話もありましたが、今回の旅するワニにも、今の松宮さんは反映されていますか?

松宮 また新しい出発、というのはあるかもしれません。

松竹エンタテインメント提供
松竹エンタテインメント提供

Profile

松宮なつ(まつみや・なつ)

1991年4月8日生まれ、神奈川県出身。「ミス学習院2012」でグランプリを受賞して、2013年に『シューイチ』でレポーターとしてデビュー。ドラマ『教場』、『3Bの恋人』、『相棒20』、映画『10年目の告白』などに出演。画家ETE PINとして2022年に初の個展「なつの晴展」を開催。2023年6月よりハートリボン大使に就任。

「なつのBon Voyage!展」

5月1日~7日 10:00~20:00

伊勢丹新宿店 本館6階 アート&フレーム

入場無料

ETE PINが全日15:00~20:00に在廊予定

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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