Yahoo!ニュース

くすぐり、くすぐられる快楽と隠したい真面目さ。1年で舞台10本出演の佐藤日向がロジカルに演じる理由

斉藤貴志芸能ライター/編集者
キョードーメディアス提供

さくら学院の結成メンバーで、卒業後は声優と共に舞台での活躍を続けている佐藤日向。昨年は『ウマ娘 プリティーダービー』の舞台版など10本に出演した。2月には、くすぐり、くすぐられることで快楽を得る人たちを描く異色のコメディ『笑わせんな』で最年少キャスト。これまでのキャリアを振り返りつつ、今作への取り組みと独自の演技スタイルについて語ってもらった。

体はバキバキでいつ修復しようかと

――去年もすごい数の舞台に出演されました。

佐藤 ファンの方が数えたところだと、10本だったらしいです。体感では2.5次元の舞台が多かったかなと。

――千秋楽まで終わったら、すぐ次の舞台の稽古、みたいなことも?

佐藤 ありました。特に1~2月の『ウマ娘 プリティーダービー』から『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』までは、短かったです。

――体的には大変だったわけですか?

佐藤 歌って踊って殺陣がある作品が続いて、体がバキバキのまま次に入ると、「いつ修復するんだろう?」と思いながら稽古に行ってました。でも、大変なのは見越してパーソナルトレーニングに通って、舞台のための筋肉を付けていたので、ケガはせず元気に過ごせました。

――それだけの数の舞台をやるのは、佐藤さんの希望でもあって?

佐藤 そうですね。声優で培ったものを舞台でフィードバックできるように、出演させていただきたいと思っていました。

小5の初舞台で蜷川幸雄さんに怒鳴られました

――初舞台は蜷川幸雄さん演出の『コースト・オブ・ユートピア』だったんですよね。

佐藤 小学5年生のときの9時間超えの舞台でした。

――もう15年前になりますが、覚えていますか?

佐藤 覚えています。蜷川さんに怒鳴られたので(笑)。「ヘタくそ! 帰れ!」とか言われて、怖かったです。

――小学生だと泣いちゃうくらいな?

佐藤 いえ、子どもながらにすごく考えました。「ヘタくそって、どういう意味ですか?」と聞いたら「自分で考えろ!」ということだったので(笑)。でも、投げっ放しでなく、個別で聞きに行くと、どこがダメなのか事細かに教えてくださいました。

――佐藤さんの世代で蜷川さんの演出を受けたのは、貴重な体験でしたね。

佐藤 大きかったです。子どもとしてでなく、1人の役者として接してくださって。お芝居のことをちゃんと考えるきっかけになりました。

歌と踊りと殺陣が詰まって視野が広がって

――その後、数々の舞台に出演してきた中で、面白さに目覚めたような作品もありましたか?

佐藤 初舞台のあとは高校2年のときにまた出させていただいて、それから飛び飛びでしたけど、アニメと連動する『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』では歌と踊りと殺陣が全部詰まっていて。自分が経験してきたものが、応用編みたいな感じで活かされた舞台でした。私にとって、視野を広げさせてくれた作品です。

――やり甲斐も感じました?

佐藤 そうですね。アニメやゲームだとブースの中で演じて、外にいる方がディレクションしてくれて、リリースされるまでに時間が掛かります。舞台はお客さんの視線が自分たちにフォーカスしてくれて、演じたら即リアクションが返ってきて、温度感を実感できました。他の役者さんと緊張感を持ってラリーを続けて、そこにお客さんが参加してくれるのが、舞台ならではの魅力かなと思います。

お芝居と素の自分の差を埋めました

――舞台で壁にぶつかったようなこともありました?

佐藤 水野美紀さん脚本・演出の『とても親密な見知らぬ人』は、コンマのズレも許されないストレートプレイでした。自分では前回の稽古と同じにやっているつもりでも、何かひとつの感情や動作、間がズレていると「もっと溜めていたよね」と言われたり。自分がなぜその間を取ったのか考えさせられて、「だったら足りないね」とか、お芝居と素の自分の差を埋める作業をさせてもらいました。

――演出家さんによっては、大筋が変わらなければ、役者さんなりの間や言い回しで良しとされることもあるかと思いますが。

佐藤 たぶん水野さんの中で、理想の間や台詞を出すタイミングがあったんだと思います。そこに沿うように、気持ちを逆算して作りました。自分の感覚が信じられなくなって、ずーっと台本について考えて、最後まであがいて。やっている途中は苦しかったですけど、お芝居へのアプローチの考え方が変わって、終わったら楽しかったと感じられました。

マイク前も舞台も役として立つのは同じこと

――昨年の『アキバ冥途戦争』では、秋葉原のメイド役で初の主演を務めました。

佐藤 演出の川尻(恵太)さんがTHEコメディという感じの方で、稽古で毎日台本が変わっていきました。ポロッと言ったことがテキレジ(手直し)だったりで、「もう1回言ってください」みたいな。最後まで完成形が見えなくて、シビれましたね(笑)。

――水野美紀さんの演出とは逆だったような?

佐藤 川尻さんは「こうでなければ」というより、面白いほうに流れていきたいみたいで、楽しかったです。愉快な方でピリピリすることはなく、自ら「こうしてほしい」と実演してくれるので、お手本にできて。「ここからはアドリブで」というところもあって、わりと自由にやらせていただきました。

――声だけで表現する声優と全身で演じる舞台では、対極のようにも思えますが、佐藤さんの感覚としてはいかがですか?

佐藤 舞台だと会場の一番後方まで届くお芝居をするのがベースで、わかりやすくはっきりと演じます。アニメやゲームだと声のちょっとの揺れもマイクが拾ってくれるので、ディレクションも細かいです。でも、私はマイク前も舞台みたいなものだと思っていて。役を通して、どこかに立つことは共通しています。

――演技の根本は変わらないと。

佐藤 お客さんが目の前にいるか、いないかで、お芝居の強弱が変わるくらいですね。それ以外は同じで、芯は通していきたいと思っています。

面白いと思う人も怖くなる人もいそうです

――『笑わせんな』はくすぐり、くすぐられることで快楽を得るという人たちの物語で、脚本を読んでどう思いました?

佐藤 捉え方によっては日常っぽいというか、自分からは見えていないところで、こういうことが本当にあるのかもしれないと思いました。台本ではいかにもコメディという描かれ方はしてなくて、演じ方によっては妙にリアルに感じられる作品かなと。オクイ(シュージ)さんの演出で、ブラックコメディになりそうな部分は散りばめられつつ、後半に行くにつれて、笑えるのかわからない要素も含まれていて。そこは見どころになると思います。

――佐藤さん自身は、くすぐりにまつわる経験はないですか?

佐藤 そこに目覚めたことはなかったです(笑)。でも、実際に快感に繋がる人もいるんじゃないかと、思える部分はあります。

――劇中のくすぐりは、何かのメタファーにも感じます。

佐藤 そうですね。くすぐりたくてやって来るキャラクターも、くすぐられないとダメなキャラクターもいて、何のメタファーと取るかはお客さん次第。見方によって面白いと思う人もいれば、怖くてウワーッとなる人もいるかもしれません。稽古に入る前から、演出によってどうにでも転がると感じましたし、演者の捉え方と演じ方次第で、どんどん変わっていきそうです。

対人関係が苦手で乱暴さの鎧をまとって

――佐藤さんは今まで、わりと真面目な役柄が多かった印象がありますが、今回の田中みゆは乱暴なキャラクターのようですね。

佐藤 乱暴な自分という鎧を着ている感じの女の子です。対人関係が苦手なのを隠したくて、強気なことを言うから、友だちができなかった。そういう内面が見え隠れすればいいなと思っています。

――表面的には「クソ男どもが」などと言いつつ。

佐藤 カッとなると乱暴な言葉が出るのも、過去の何かに起因している印象がありました。きっと変に真面目なんだけど、真面目に見られたくないんだろうなと。自分と共通している部分もありますし、見た目も含めて今ドキなキャラクターで、SNSも好きそうで承認欲求も持っている。舞台を観た方が「最近こういう女の子が多いな」と思うような演じ方をしていきたいです。

――佐藤さん自身、やっぱり真面目なタイプですか?

佐藤 私は小学2年生からアミューズに所属していて、歴だけは長いんですけど、「良くも悪くも何でも60点でできる」と言われてきました。真面目さでは、役柄と重なるところはあると思います。

――「60点で」というのは、平均点以上は出せるという意味合いでしょうか?

佐藤 才能がすごく秀でているわけではないけど、まったくできないこともない。そんなラインですね。私としては100点だと思ってやっているので、これだと60点なのかと受け取っています。

意識してないと暗くなりがちなので

――今回の『笑わせんな』で、自分の課題にしていることはありますか?

佐藤 私はどのお芝居でも、素が出ちゃうと暗くなりがちなんです。明るくやろうと意識せずにスッと入ると、ネガティブっぽく見えてしまう。田中みゆだと対人関係が苦手な部分が濃く出てしまう気がしていて。そこが見えるような見えないようなキャラクターだと思うので、一見明るいところを切らさず、グラデーションを付けることが課題かと思っています。

――佐藤さんの素は暗いんですか?

佐藤 すごくネガティブで、ちょっとしたことで心が折れがちです(笑)。

――夜中に落ち込んでいたり?

佐藤 夜はやらなきゃいけないことに集中しますけど、朝起きたとき「そういえば、あれがダメだったな……」と思いながら、頑張って稽古場に向かうことが多いです。

インスタでかわいい女の子を探すのが好きです

――『笑わせんな』はくすぐりがモチーフになっていますが、佐藤さんは「アミューズの限界オタク」と呼ばれていて。何か人に言いにくい趣味があったりもしますか?

佐藤 それをYahoo!で言うんですか(笑)? インスタでかわいい女の子を探すのは好きです。芸能人に限らず、自撮りをしている女の子を「まだ17歳なんだ。将来が楽しみ」とか思いながら眺めていて(笑)。アップにして「アイラインがわりと濃いんだな」とか。

――好みのタイプもありますか?

佐藤 あるかもしれません。たれ目が好き。一重もかわいい。「この子、自分に一番似合うメイクがわかっているな」と思ったりもします。

――有名人でいうと?

佐藤 畑芽育ちゃんのような顔の系統が好きです。目の色素が薄いな、肌が白いな、という。LE SSERAFIMのカズハちゃんも、一重でメイクの仕方ですごく映える。そんな感じで、日々タイプの女の子を探しています(笑)。

自分も舞台に立つから観ていても汗をかいて

――舞台は自分でも観ますか?

佐藤 よく行きます。ストレートプレイが好きで、友だちが出ている2.5次元の舞台も観ます。下北沢の小劇場系はなかなか行けませんけど、今回上演する本多劇場は行ったことがあって。自分が立ったら、どんな景色を見られるのか楽しみです。

――特に感銘を受けた舞台というと?

佐藤 仲村トオルさんや渡辺いっけいさんたちの4人芝居『住所まちがい』です。イタリアの戯曲を現代ふうに翻訳して、ノンストップで早回しみたいに演じられていて。お話がサクサク進んでいるようで、舞台上の皆さんの汗を見るだけで、これは本当に大変なんだろうなと、こちらも手に汗を握ってしまいました(笑)。

――それは同業の役者さんならではの見方かもしれません。

佐藤 観客としては、すごく面白かったです。「誰がウソをついているんだろう?」と思いながら観ていて。だけど、自分も舞台に立つ側だから、ちょっと流れが止まったら面白さが失速すると思うだけで、いろいろな汗が出てしまいました。舞台は怖い。たくさん経験を積んでないと、あそこに立つのは難しいと感じました。

――映画やドラマは観ないんですか?

佐藤 好きなドラマは繰り返し観ます。『カルテット』は会話のラリーが意味のあるテンポ感を生んで、その分、ちょっと止まると続きがまた面白い。そういう作品が好きですね。

読書後に自分の考えを落とし込むように

――佐藤さんは読書家でもあるそうですが、舞台が続いたりで忙しい中、どんなタイミングで読むんですか?

佐藤 書評をやっているときは、締切の前日に読み始めることもありました(笑)。自分が役と向き合って、余裕があるときは本も読めますけど、そうでないときもあって。台詞の多さと関係なく糸口が掴めそうな役なら、予習復習をこってりやらなくても、稽古動画を観て「次はこうしよう」とパッと浮かぶんです。観ても観ても「何が正解? どうしたら噛み合うの?」となると、どんどん泥沼にハマって、本を読んでいる場合ではなくなります。

――去年読んだ中で、特に印象に残った1冊というと?

佐藤 年齢を重ねるごとにイヤミスも好きになったり、読了後にちゃんと自分で考えて落とし込む作品を読むことが増えました。去年だと『方舟』は、大学時代のサークル仲間たちが地下に閉じ込められて、脱出するには誰か1人を犠牲にしなければいけないというお話で、重たい終わり方でしたけど、すごく印象に残りました。あと『黄色い家』は、10代の頃に引きずったものは大人になっても抜け出せないのかとか、いろいろ考えさせられました。

――他に、インプットのためにしていることはありますか?

佐藤 アニメはよく観ます。「ノイタミナ」枠で放送された脚本重視みたいな作品が好きです。『PSYCHO-PASS』とか『ギルティクラウン』とか『BANANA FISH』とか。

どうしたら面白いかを頭の中で整理します

――昨年末に25歳を迎えましたが、20代後半は人生のどんな時期にしようと考えていますか?

佐藤 20代ギリ前半の24歳で、声のお仕事でも舞台でもいろいろな経験をさせていただいて。お芝居の面白さは経験を重ねないと、気づけないことが多いと感じました。その面白さに気づくためには、日々インプットを重ねて語彙を増やして、言語化できることも必要だと思います。25歳になって貪欲にインプットを忘れず、アウトプットにも繋がるように、自分の感性を研磨したいです。

――お芝居の面白みは、10代の頃とは変わってきているでしょうね。

佐藤 全然違います。10代の頃のようにガムシャラに正解を探るのと、何をどうしたら面白いのかを頭の中で整理して舞台に立つのでは、輝き方が違うと思います。順序を変えて考えるだけで、「何が良かったか」でなく「こうだから良かった」とわかることが、最近増えていて。自分自身で積み重ねたものがないと、それがわからないから、どこかで光るための準備は忘れないようにしたいと思っています。

――それにしても、佐藤さんのお話はロジカルですね。

佐藤 よく「固い」と言われます(笑)。いろいろなジャンルの役者さんに出会って、特に『スタァライト』で「自分はこうしたら、この人たちに追い付ける」というものを見つけて、極めている部分ではあって。考えてお芝居をしてしまうので、たぶん感情で演じてほしい演出家さんには、面倒くさいヤツと思われています(笑)。

――でも、それが佐藤さんの演技スタイルなわけですよね。

佐藤 そこに自分の伸びしろがあると思っています。

Profile

佐藤日向(さとう・ひなた)

1998年12月23日生まれ、新潟県出身。2010年度から2013年度まで、成長期限定ユニット・さくら学院のメンバーとして活動。2014年にアニメ『くつだる。』で声優デビュー。主な出演作はアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』、『D4DJ』、アニメ&舞台『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』、舞台『Cutie Honey Emotional』、『ウマ娘 プリティーダービー』、『セトウツミ』、『アキバ冥途戦争〜浪速喰い倒れ狂騒曲〜』など。2月8日より上演の舞台『笑わせんな』(本多劇場)に出演。

舞台『笑わせんな』

脚本/福谷圭祐 演出/オクイシュージ 出演/浜中文一、山下リオ、鳥越裕貴、松島庄汰、岐洲匠、佐藤日向ほか

2月8日~18日・本多劇場

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事