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義足のモデルの障害を越えた心の変化。伊礼姫奈が「弱いところを出さず自分の力で進む姿を見せました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)2023映画『シンデレラガール』製作委員会

『子宮に沈める』、『飢えたライオン』と現代社会の問題を鋭く切り取る映画を送り出してきた緒方貴臣監督の新作『シンデレラガール』が公開される。片脚を切断した義足の女子高生モデルが引け目を越えていく物語で、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』で主人公が推すアイドルを演じた伊礼姫奈が主演。可憐なたたずまいの中に秘めた強さがリアルな彩りを添えた。

初の海外は見たことない世界に飛び込む感じ

――春の取材ではJTBのCMの台詞通り、海外に「めっちゃ行きたい!」とのことでしたが、ケアンズに行ったそうですね。

伊礼 5月に行きました。楽しかったです。現地の方と話すと皆さんラフで、日本と違う文化の流れを感じて。ヘリコプターに乗ったり、熱帯雨林に行ったり、見たことのない世界に飛び込む感じでした。

――インスタに「いい夏でした」と書かれてもいました。

伊礼 出会いが多かったんです。お仕事でご一緒した方と仲良くなって、「遊びに行こう」とお出掛けしたりしていました。

――今年の夏は暑さがキツくなかったですか?

伊礼 私は去年より暑さに強くなった気がします。あまり苦にならなくて、日傘とか対策はしながら、結構外に出ていました。

――いつも旺盛な食欲も変わらず?

伊礼 むしろ夏は食欲が上がりました。お店に行くと、ごはんをたくさん食べて、ドーナツも頼みました(笑)。

映画というよりドキュメンタリーに近くて

――『シンデレラガール』はいつ撮影したんですか?

伊礼 去年の冬で寒かったです。オーディションが『推し武道』のクランクアップの日で、岡山からそのまま向かいました。やってみたい想いが強い作品だったので、決まって嬉しかったです。

――作品のどんなところに惹かれたんですか?

伊礼 オーディションのときから、シーンの台本の他に全体のプロットもいただいて、緒方監督の作品に対する想いも書かれていたんです。それを読むと、いろいろ見えてくるものがあって、面白そうだなと思いました。主人公の音羽も芯の強い女の子で、今まで演じたことのないカッコ良さがありながら、年相応の女の子でもあって。そういうところにも惹かれました。

――緒方監督の他の作品は観たことありました?

伊礼 オーディションのお話をいただいたときに観ました。メッセージ性が強くて、映画というよりドキュメンタリーに近いものを感じて。『シンデレラガール』もそんなふうに撮りたいと言われてました。

強さを大事にして演じようと

――そういう撮り方だと、役者側はやりやすいものですか?

伊礼 あまり張り切りすぎずにできました。全部のシーンでカット数が少なくて、2カットくらいで終わって。だから、ずっと新鮮な気持ちで楽しかったです。

――それでドキュメンタリー的な臨場感が生まれるんですね。

伊礼 ただ、お芝居をする前に「このシーンはどう思う?」と聞いてくださって、ちゃんと自分の意志を持ってないと監督に向き合えませんでした。わからないことがあったら、納得するまで撮影に入らず、細かいところまで共有して作っていく方でした。

――自分に求められていることも明確だった感じですか?

伊礼 オーディションのときに思ったのは、きっと強さみたいなものを大事にされているのかなと。音羽の気持ちが前向きになっていく物語でもあるので。

――そこが伊礼さんにハマっていたんでしょうね。

伊礼 負けず嫌いやちょっと気の強いところで音羽に似たものを感じたと、監督に言われました。自分が持っている強さも持っていない強さも、大事に見せなければいけないと思いました。

母子の絆が見えて愛おしいシーンに

――12歳で片脚を切断した音羽は、過酷な状況でも平然としているように見えましたが、陰では泣いたりしていたと思いますか?

伊礼 それも監督と話しました。テレビで自分がモデルの再現ドラマを観て、お母さんに「私って、あんなふうに見えるのかな?」と言うシーンで、「暗くしないほうがいいですか?」と聞いたら、「元気にやってほしい」と言われました。もしかしたら泣いていたのかもしれませんけど、映画でそこは見せたくない。音羽の明るい強さを出したいということでした。でも、たぶんみんなと同じで、家で泣くことはあったのかなと思います。

――「(再現ドラマの中の)私、弱くてかわいそうだった」と言っていたのも、そう見られたくないということですかね。

伊礼 たぶんそうですね。義足になってから、ある程度の年月が経っていたので、自分の中で強く生きていく決意ができていて。

――そこはわかる気持ちでした?

伊礼 このシーンはリハーサルを何回かやって、掴むのが難しかったです。私はそういう感情になったことがないので、音羽がどういう気持ちで言っているのか、ていねいに演じるようにしました。

――試行錯誤があったわけですか。

伊礼 最初はもうちょっと淡々とやっていました。お母さんとの関係性も見えるようにしたいという話もあって、2人の絆や音羽の素が出て、愛おしいシーンになったと思います。

生活の一部になっていることがわかって

――伊礼さんが義足に触れたのは初めてですよね?

伊礼 はい。実際に使われている方にお会いする時間をいただきました。動いている姿や階段を昇るところを見せてくださったり、本当に細かいことまでお話をうかがいました。

――イメージと違っていたこともありました?

伊礼 私のイメージでは電車に乗るのも時間が掛かったり、大変なのかと思っていましたけど、ズボンをめくったりしないと義足だと気づかなくて。思ったより生活の一部になっている方が多いことがわかりました。

――そうしたことが演技でも役立ちました?

伊礼 すごく役立ちました。監督は「義足だからと不自然には撮りたくない」とおっしゃってましたけど、座るときに義足のほうは曲げられないとか、普段と違うことはやっぱりあるので。基本的なところを意識しながら、撮影に臨んでいました。

――心情的な部分も、当事者に話を聞くと想像と違いました?

伊礼 全然違いました。皆さん、最初に義足を付けたときは大変で、辛かったと話されていて。でも、それからパラ陸上を始められたり、新たな出会いがあったりと前向きに語られて、こういうことなんだとすごく勉強になりました。

松葉杖で歩く後ろ姿で伝えようと

――劇中の後半でも、音羽は苦難の中で毅然としていました。

伊礼 松葉杖をついて廊下を歩くシーンは、色合いが違いました。監督も「大事なシーン」とこだわっていて。ただ歩くだけでなく、表情を見せない後ろ姿で伝える。松葉杖の音だけが響く中で、音羽が1人のときはこういう感じなんだというふうに映していました。

――背中で演じながら、何往復もしたんですか?

伊礼 結構しました。松葉杖も最初は難しくて、脚を付けない状態だから腕の力も必要で。あの撮影の日はずっと、その状態で歩いていたから、体力を使いました。

――モデルとしてのシーンもありましたが、伊礼さんは4歳からキャリアがありつつ、そっちの仕事はやってないんでしたっけ?

伊礼 雑誌とかの撮影はありますけど、本格的にモデルをやったことはありません。ウォーキングを本職のモデルの方に教えていただいて、たくさん練習しました。最初ちょっと歩いてみたら、他の方があまりにカッコ良くて、これではダメだなと。撮影の準備中や空き時間も、ずっと教わっていました。

――ポイント的なことがあったんですか?

伊礼 姿勢や歩き方からアゴの高さまで、細かいところをちょっと気を付けるだけで変わりました。それで、堂々と歩けるようになりました。

ここまで変われたと自信を見せる表情で

――表情をキメる場面もありました。

伊礼 何回か歩いて、監督が「今の表情は良かったよ」と言ってくださっても、それをもう1回やろうとしたらできなかったり。結構撮り直しはしました。

――自分なりにイメージしたことも?

伊礼 前向きだけど、失ったものがあることも出たらいいなと思いました。表情を5パターンくらい考えていって、3パターンめで「いいね」と言ってもらった感じです。自分の力で強くなった。他の人の力を借りなくても前に進める。そんな気持ちを出そうということで、「ここまで変われたぞ」と自信を見せたつもりです。

――実際、劇中で音羽は変わりましたよね。

伊礼 最後のほうのマネージャーさん、デザイナーさんと話すシーンで、変わった音羽が見えます。人に対する感情も自分のお仕事への向き合い方も、ひとつ階段を昇ったなと感じました。

――最初は人気ブランドを知らずに、マネージャーに「そんなんじゃ仕事なくなるよ」と言われていました。

伊礼 モデルの仕事は学校生活の延長という感覚だったんですよね。小さい頃の私も近いものがありました。オーディションの前に監督の作品を観るとか、昔はしたことがありません。

――やっぱりマネージャーさんに指摘されたんですか?

伊礼 母に「もっとちゃんとしなさい」と言われたことがあります。原作を読んだり、共演する俳優さんが出ている作品を観たほうがいいと。

理想が高いのでコンプレックスはあります

――『シンデレラガール』の撮影を通じて、女優として学んだこともありましたか?

伊礼 どんなシーンにしたいのか、監督と一緒に考えて決めてから、カメラマンさんとも共有して作る感じだったので、表でない部分にも参加できました。制作側のお仕事をいろいろ知ることができて、どういうふうに見えるかを考えるきっかけになって、今までと違う成長ができたと思います。

――音羽は引け目を感じていた義足を武器と考えるようになりました。伊礼さんも身体的なことでなくても、何らかのコンプレックスを乗り越えた経験はありますか?

伊礼 わりと理想が高いタイプで、お芝居に関しても「何でああいうふうになれないんだろう」とか、コンプレックスはいろいろあります。私はそれを武器にするより、コロッと切り替えたほうが良い結果に繋がりますけど、人前で弱いところを見せないようにするのは、音羽と似ているかもしれません。

――ヘコんでいるところには、家族にも見せないと?

伊礼 部屋で1人で泣くことは全然あって、バレないようにしています(笑)。

――音羽が友だちと撮っていたようなTikTokは、伊礼さんはやらないんですか?

伊礼 流行っている踊りを友だちに教えてもらって、一緒に撮ることはあります。でも、制服ではやりませんし、本当に仲良い子と遊んだとき、たまに「ちょっとやってみる?」くらいの感じです。

――タレントとして、公式アカウントでバズらせようとは?

伊礼 全然ないです。恥ずかしいので(笑)。世に見せないところで、自分たちで「こんなことやったね」みたいな思い出にしています。

ワイヤーアクションやCGに初挑戦しました

――トリプル主演を務めたプチ超能力者のドラマ『EVOL』の配信も始まりました。伊礼さんは手のひらから火を出す能力を持つ役で、「ここまで役と向き合ってきたのは初めて」とコメントされていました。

伊礼 今までで一番大変でした。原作は私があまり見ないジャンルの作品で、ワイヤーアクションやCGは初めての挑戦。演じたアカリが手のひらから火を出すところも、現場で実際には火が出ないので、どんなものか想像しながらやっていました。

――「落ちるところまで落ちて」ともありました。

伊礼 虐待されるシーンも多くて、1人で暗いところで撮影していると「こんなに辛いんだ……」ということがありました。普段は家や学校ではコロッと切り替わるんですけど、『EVOL』は撮影時間がすごく長くて、原作に合わせて髪を切ったこともあって、私生活でもアカリが自分の中にいました。楽しいことがあっても、素直に楽しめなかったり。

――それだけ役に入り込んでいたんでしょうけど、原作に寄せるようにもしたんですか?

伊礼 いつでも原作が見られるようにしていました。アカリはすごい表情ばかりするので、毎回の撮影前に「ここはこういう顔」と確認していました。

残りの高校生活でやれることは全部楽しめたら

――主演作が続く11月ですが、秋も楽しく過ごしていますか?

伊礼 去年はごはんを一番に楽しんでいました。おイモ系の季節限定商品がたくさん出るのを、無限に食べていましたけど、今年はほどほどにしようかと(笑)。普段もサツマイモを食べているので、特別感がなくなってきました。

――高校生活も残り半年を切って。

伊礼 学校行事も最後になるので、みんなと全力で楽しめたらと思っています。体育祭も練習から参加できて、思い出になりました。もともと行事は好きなタイプです。

――今までで特に印象的な行事の思い出というと?

伊礼 中学の体育祭は毎年800m走に出ていました。1人どうしても勝てない子がいましたけど、その次に速かったです。

――卒業前にやっておきたいこともありますか?

伊礼 (取材日時点では)制服ディズニーがまだ叶っていないので、そろそろやらないと(笑)。早く大人にはなりたいですけど、あと半年もない学生生活で、やれることは全部やっておきたいです。

――また海外に行きたくもなりませんか?

伊礼 ケアンズに行ったのを機に、もっと行ってみたいと本当に思って、調べたりしています。オーストラリアは遠いイメージだったのが、こんなにすんなり行けるんだと知ったんです。ずっと行きたかった韓国は近いですから、友だちとサラッと行ってみたいなと思っています。

Profile

伊礼姫奈(いれい・ひめな)

2006年2月7日生まれ、群馬県出身。

4歳から女優活動をスタート。主な出演作はドラマ『とと姉ちゃん』、『向こうの果て』、『今度生まれたら』、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』、映画『マイ・ブロークン・マリコ』、『18歳、つむぎます』、『この小さな手』、『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』など。ドラマ『EVOL~しょぼ能力で、正義を滅ぼせ。~』(DMM TV)が配信中。主演映画『シンデレラガール』が11月18日より公開。

『シンデレラガール』

監督/緒方貴臣 脚本/脇坂豊、緒方貴臣 配給/ミカタ・エンタテインメント

出演/伊礼姫奈、辻千恵、泉マリン、太田将熙、筒井真理子ほか

11月18日より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

公式HP

(C)2023映画『シンデレラガール』製作委員会
(C)2023映画『シンデレラガール』製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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