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「売れない女優と小バカにされた経験はあります」 小西桜子が輪廻転生した役で突き詰めたもの

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)2023映画「僕らの千年と君が死ぬまでの30日間」製作委員会

平安時代から現代まで、不老不死となって生き続ける2人の男と輪廻転生を繰り返す女。漫画、舞台と連動した壮大な物語の終局を描く映画『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』が公開される。ヒロインを演じるのは小西桜子。デビューから3年で多彩な役を演じてきたが、ファンタジー作品での大役は初めてだ。自身を「何ごとも突き詰めるタイプ」と語っていたが、演技への取り組みに変化はあったのか?

動きで伝えるアプローチは新鮮でした

――小西さんが力を入れていたブログがなくなってしまったんですよね。

小西 そうなんです。復元できないか問い合わせをしたら、「サービスは終了しました」と言われてしまって。でも、ファンの方がデータを掘り起こして送ってくれました。またどこかで載せられたらいいなと思っています。

――以前の取材で、本音の言葉でブログを書くのは「必要なこと」と話されていました。また何らかの形で再開するのですか?

小西 どのツールがいいのか迷ってますけど、書くことは好きなので。最近はエッセイの仕事もいただいていて、書くと自分の気持ちを整理できます。仕事でなくても、いい頻度でやっていきたいですね。

――最近も出演作が続く小西さんですが、『スイートモラトリアム』での自由奔放な元カノ役はインパクトがありました。

小西 ああいう気性の荒い役は何度かありましたけど、あのドラマでは全9話でガッツリ、過去の回想からの長い時間を演じました。なぜああいう人格になったのか、バックグランドから掘り下げて、学びの多い現場でした。

――感情をぶつけるシーンもたびたびありました。

小西 エネルギーはすごく使いました。監督が舞台畑の方で、動きもはっきり付けてもらって。気持ちだけでバーッとお芝居をぶつけても、映像だと伝わりにくい部分もある。動きやアクションで伝えるのは、自分に今までなかったアプローチで新鮮でした。

自分で壁を蹴って骨折したことがあります(笑)

――普段はあんなに荒ぶることはないですよね?

小西 思春期には結構近いところがありました。すごくイライラしていたとき、自分の部屋の壁を蹴って、足を骨折したり(笑)。大人になるとアンガーマネージメントができるようになって、それほど溜め込むことはなくなりました。『スイートモラトリアム』では、理性が働かなくて、どうしても抑えきれない当時の気持ちを思い出しながら、演じていました。

――その思春期に足の骨を折ったときは、病院には行ったんですか?

小西 行きました。親には「転んだ」と言って(笑)。

――『スイートモラトリアム』では一方で、つき合っていた古着屋の店長からDVを受けたり、薄幸な雰囲気も出ていました。

小西 確かに、私はワケありだったり、何かを抱えている役が多くて。そういう役が自分に合っているのかなと思います。

描かれていない部分の穴埋めを考えました

『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』プロジェクトの映画版は現代が舞台。記憶喪失で不思議な力を持つ草介(辰巳雄大)と、すべてを知って彼に寄り添う光蔭(浜中文一)。そして、平安時代の少女・とわが輪廻転生した女優の卵・舞(小西)の3人が、永い時を経て再び出会い、一緒に住むことになるが……。

――『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』で演じた舞はワケありを越えて、千年も輪廻転生を繰り返している役でした。

小西 ちゃんと準備をして、監督とすり合わせをしたうえで、現場に臨みました。どうして自分の身を挺してまで草介と光蔭のことを想えるのか。自身の境遇をどう受け止めてきたのか。その過程は映画の本編では描かれてなくて、「何でだろう?」という部分の穴埋めを、監督と意思疎通しながら考えました。

――考えた末に、腑に落ちたんですか?

小西 いろいろな人の意見を聞きながら、自分の中でいちおう結論は出て、それを軸にお芝居していた感じです。草介のことは好きだとして、光蔭さんへの気持ちが難しくて。結局、舞に転生したとわは草介を悲しませるのはわかっていても、超越したところから2人を俯瞰していて。光蔭さんと草介で生きてほしいという、深い愛なんだろうなと思いました。そんな大人の思考ができる舞を意識していました。

――演じる参考に観た作品はありますか?

小西 いつも作品に入る前は近いものを観るので、何か観た気はしますけど、覚えていません(笑)。何となく気持ちをそっちに寄せました。

(C)僕らの千年プロジェクト(C)2023映画「僕らの千年と君が死ぬまでの30日間」製作委員会
(C)僕らの千年プロジェクト(C)2023映画「僕らの千年と君が死ぬまでの30日間」製作委員会

記憶はなくても心で感じていることはあって

――輪廻転生をしている役は演じ甲斐はありました?

小西 舞ととわは同じ人格ですけど、舞にとわの記憶はなくて。本来のとわらしさは抑え込んでしまっている状態だと思うんです。地続きでも違う人生を送ることによって、舞ととわに変化が出ているところは心掛けて演じました。

――劇中のある時点で、舞はとわの記憶を取り戻していました。

小西 それまでも記憶はなかったけど、頭でなく心で感じていたことはたぶんあって。そのさじ加減が絶妙で大変でした。

――舞の無意識の領域にはとわがいて?

小西 そうですね。草介が脚本を書いた舞台の稽古をしていく過程で、違和感みたいなものが重なっていったんだろうなと思います。

――やっぱりハードルは高い役でしたか?

小西 ファンタジーの設定で、リアルな感覚ではないというか。前世の記憶を思い出すようなことは、生きていてあまりないので(笑)、すごく難しかったです。

――舞の台詞にあった「絶対初めてじゃない。記憶が流れてくるよう」といった経験はありませんか?

小西 デジャブみたいなことはあります。「この話は前にした気がする」とか「これは夢で見たかも」とか。私は前世があるとは信じてないので、脳のカン違いだと考えてますけど(笑)、舞はそういう感覚なんだろうなと思っていました。

デビュー後もバイトはたくさんしました

――舞はスナックでバイトをしながら、舞台のオーディションを受けていましたが、小西さんは映画デビューから『ファンシー』『初恋』と立て続けにヒロイン。ああいう下積み時代はなかったですよね?

小西 いえ、私もバイトをしながら、この仕事をやっていましたし、舞みたいにイジられることもたくさんありました。「売れない女優のくせに、いつも早く上がって」と小バカにされている感じもわかって、演じていても本当にイライラしました(笑)。

――でも、小西さんは売れてなかったわけでなく、映画祭で賞も獲っていました。

小西 一般の方々は、たぶん思っているほど、映画を観ていなかったりもするんです。だから、本当に「どうせ売れないのに」と見られていたと思います。

――ちなみに、どんなバイトをしていたんですか?

小西 何でもやっていました。この仕事を始めてからだと、飲食店、居酒屋、和食料理店、お弁当屋さんとか。接客やお弁当を作ったりしていました。

海に浸かってから本番を撮りました

――ほとんどシリアスなシーンだった中、3人で海に行って、舞が波打ち際ではしゃいだりもしていました。ああいうことは、素の小西さんもしますか?

小西 海や川は好きなので、撮影で行くと、終わったあとに入ったりはしますね。

――今回は、そのあとにクライマックスがありました。

小西 海では1日がかりで、前のシーンからずっと撮っていて、夕方くらいからは長いシーンでしたけど、陽が暮れるまでと時間が限られていて。そんなに余裕はなく、緊迫した感じでした。

――集中力を切らさずに。

小西 でも、1回休憩に入って戻ったら、潮が引いて海がなくなっていたんです(笑)。砂浜になっていましたけど、海に足だけでも浸かると、大きいエネルギーみたいなものを感じるので、本番を撮る前に入らせてもらいました。

自信がないから相手の幸せを優先したのかなと

――劇中劇の台詞にあった「100年に一度、それがたった30日でも、私はあなたと一緒にいたい」という心情は、なかなか想像がつきませんよね。

小西 いろいろ考えた台詞ですけど、このひと言に舞の気持ちが全部詰まっていて。舞にとっての幸せはそれだったんでしょうね。

――小西さんは「何ごとも突き詰めるタイプ」とのことですが、舞役を突き詰めるのはだいぶ大変な作業だったのでは?

小西 本当に自分だけではわからなくて、監督や脚本家さん、辰巳さんや浜中さんの助けを借りて埋め合わせながら、できたかなと思います。悩んだところも結構ありましたけど、初めてのファンタジー作品をやり遂げて、ステップアップになりました。

――他の人のアドバイスから、視界が開けたようなこともありました?

小西 すごく意外だったのが、「舞は本当は自信がないのでは」と言われたことです。「私なんて」という気持ちがあって、草介が自分のことをそこまで好きだとは思えていない。だからこそ、自分の身より彼に幸せになってもらうことを優先してしまった。私は舞を強い子だと思っていましたけど、そういう視点もあるなと思って、役作りに活かせました。

頑固だったのが周りに委ねるようになって

――ここ1年くらいで、小西さんの中で演技の仕方が変わってきたところはありますか?

小西 ありますね。自分で突き詰めて準備してきたものに頑固なタイプだったのが、最近は現場で言われたことに臨機応変になりました。監督を信じて、自分の考えは一度捨てる。役者のエゴを通すのは、周りを信じてないことになってしまうので、最終的には全部委ねる。スタッフさんや共演者さんも信じることを大切にしたいなと思っています。

――結構最近の変化ですか?

小西 本当に最近です。『スイートモラトリアム』でも、みんなと仲が良い現場だったので、私がああいう役で視野が狭くなっていたところで、フランクにアドバイスをいただけて。「あっ、そうだな」と学びがありました。

――一方で出演作も重ねて、演技により自信も付いてきたのでは?

小西 昔のほうが「自分は無敵だ」みたいなところがありました。最近は精神的に大人になって俯瞰できるようになったのか、自分の至らない部分がわかってきて。無鉄砲さはなくなりましたけど、ちゃんと反省して次に活かせるようになってきたと思います。

――昔は見えてなかったゆえの無敵感だったと。

小西 そうですね。エネルギーだけでやっている感じでした。

ロジックより素の部分を活かせたら

――小西さんはデビューから評価された分、新人時代からハードルが高くなっていた面もなかったですか?

小西 それはあった気がします。最初は新人の初々しさや、未知の可能性を買っていただいていたと思います。「この子に演じさせたらどうなるだろう」というところから、だんだんいろいろな方に知られてくると、「ああいうお芝居ができるはずだから」とオファーのされ方が変わってきて。ひとつひとつの作品で良いお芝居をして、結果を残さないといけない気持ちになってきました。

――2年前に取材させていただいとき、舞台で演出家さんに「お前は慣れたら終わり」と言われたというお話がありました。とはいえ、どうしたって慣れてはきますよね?

小西 当時はその言葉の意味がよくわかってなくて。最近は自分でロジックで考えて、「この役はこうだから」みたいな演技をしていましたけど、「桜子でロジカルな芝居をするのは違うよ」と指摘されることがありました。「ふらっとその場にいて、お芝居をするのが魅力なんだ」と。舞台で演出家さんに言われたのも、そういう意味だったのかもしれません。ロジックで演じてしまうのは慣れみたいなもの。それより自分の良さを考えたら、普段友だちと話していたり、ポケーッとしているときの素の部分を、バランス良くお芝居に活かすのがいいのかなと、最近また思うようになりました。

自分が出た映画は観に行きません

――『僕らの千年』は公開されたら、自分でも映画館に観に行くんですか?

小西 自分がちょっとしか出てない映画を観に行くことはありますけど、ガッツリ出ていると観に行かないですね(笑)。

――同じくヒロインを演じた『はざまに生きる、春』も観ませんでした?

小西 試写で観させてもらっただけです。データをいただいたので、それは10回くらい観ましたけど、映画館では観られません。

――大スクリーンで自分を観たいとは思いません?

小西 あまり……。観ても集中できなくなってしまうんです。「こうすれば良かった。ああしておけば」と思ってしまって。配信なら止めたり巻き戻したりしながら、ひとつひとつ解消していけますけど、映画館だと流れていってしまうので。

現実的でない場面も手を抜かないのがカッコよくて

――普通に映画を観に行ったりはするんですか?

小西 観ます。最近だと、一番面白かったのは『君たちはどう生きるか』です。観終わった瞬間、また観に行こうと思いました。3回くらい観ないと咀嚼しきれないというか。そんなふうに思った映画は初めてで、すごい経験をした感じです。

――実写映画ではどうですか?

小西 ちょっと前に『ザ・ホエール』を観ました。あと、『東京リベンジャーズ』も好きです。役者さんが本気のお芝居をしていて、エネルギーをもらいました。たぶん長い原作を映画にまとめる制限がある中で、監督もキャストもフィクションにちゃんと折り合いをつけていて。『僕らの千年』にも繋がることで、現実的にはちょっとおかしいようなところも、絶対に手を抜かないでお芝居しているのが、すごくカッコいい。自分も頑張ろうという気持ちにもなりますし、純粋に面白い映画です。

――わかりますけど、小西さんがヤンキー系の映画を観に行くのは、ちょっと意外な感じがしました。

小西 英(勉)監督とは『映像研には手を出すな!』でご一緒しました。『初恋』を撮り終わってすぐで、何もできない新人の私を見出してくださって。演技を叩き込んでいただいた監督の作品ということもあって、観たいと思いました。

ダイビングをして大きな力をもらいます

――この秋はどう過ごすんですか?

小西 今年はまだ、プライベートで旅行に行けてないんです。海や山の自然が好きなので、秋のうちに行きたいですね。

――どこか行きたい場所も?

小西 この作品に入る前くらいに、ダイビングのライセンスを取りました。まだ1回しかやってないので、ギリギリ暖かいうちに、景色の良い南のほうでできたらいいなと思います。

――海に潜ると、ものの見方が変わったりもしますか?

小西 そうですね。海は生命の源だと思っていて、大きな力をもらいます。

(C)僕らの千年プロジェクト(C)2023映画「僕らの千年と君が死ぬまでの30日間」製作委員会
(C)僕らの千年プロジェクト(C)2023映画「僕らの千年と君が死ぬまでの30日間」製作委員会

Profile

小西桜子(こにし・さくらこ)

1998年3月29日生まれ、埼玉県出身。

2020年にデビュー作の映画『ファンシー』と『初恋』でヒロイン。主な出演作はドラマ『猫』、『京阪沿線物語~古民家民泊きずな屋へようこそ』、『レンアイ漫画家』、『スイートモラトリアム』、映画『映像研には手を出すな!』、『猿楽町で会いましょう』、『ASTRO AGE』、『佐々木、イン、マイマイン』、『はざまに生きる、春』ほか。映画『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』が10月27日より公開。

『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』

監督/菊地健雄 脚本/保坂大輔

出演/辰巳雄大(ふぉ~ゆ~)、浜中文一、小西桜子、筒井真理子ほか

10月27日より全国ロードショー

公式HP

(C)僕らの千年プロジェクト(C)2023映画「僕らの千年と君が死ぬまでの30日間」製作委員会
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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