Yahoo!ニュース

異母姉をストーカーする役で見せた「狂気じみた真っすぐさ」。岡崎紗絵が悩んで出会った新たな自分

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)Saga Saga Film Partners

母親が違い別々に生きてきた3人の姉妹が、思いもよらない交錯をしていく映画『緑のざわめき』。妹であることを隠し、姉をストーカーする役を岡崎紗絵が演じている。「Ray」モデルでもある自身は華のある佇まいながら、今回の劇中では陰な屈折感をリアルに醸し出した。自分を変える作品になったという。

純粋に「夏が好き」とは言えなくなりました

――岡崎さんは夏は好きというお話でしたよね?

岡崎 そう言ってましたけど、今年の暑さは生死をさまよう危険なアラートも出るレベルなので、ちょっとこたえています(笑)。純粋な気持ちで「夏が好き」とは言えなくなってきました。

――夏バテ対策は何かしていますか?

岡崎 暑いからと言って冷たいものばかり飲むと、臓器が弱っていくと聞くので、気をつけています。でも、この暑さで冷やさなかったら、普通に参ってしまいそうで(笑)。

――コロナ禍以前は、夏は南の島に行くとのことでした。

岡崎 そうです。でも今、自ら行くのは結構なものですよね。焦げてしまうので(笑)。もちろん楽しい場所であるのは変わらないし、行きやすくなってきたので、また行きたい気持ちはあります。

――『緑のざわめき』の嬉野ロケはいつだったんですか?

岡崎 去年の5月です。1年と2ヵ月くらい経ちました。

――劇中では、岡崎さんが演じる菜穂子が友だちとの温泉旅行にかこつけて来てましたが、温泉でのシーンはありませんでした。

岡崎 実際は撮影の合間に行きました(笑)。有名な武雄温泉が近くにあったので。歴史上の人物も入った個室の殿様湯があるんですけど、その時期は工事中だったんです。すごく古くからある温泉に入ってみたかったです。

一方通行の憧れが暴走してしまって

大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門に正式出品された『緑のざわめき』。病を機に女優を辞め、東京から福岡に来た響子(松井玲奈)。異母姉の彼女をストーカーする菜穂子(岡崎)は、姉妹だと隠したまま知り合いになる。叔母と暮らす高3の杏奈(倉島颯良)は、身元もわからない菜穂子からの電話に悩みを打ち明け始める。

――菜穂子について「初めての人物像。とても衝撃を受けました」とコメントされていました。理解し難い行動をするからですか?

岡崎 そうですね。驚かれるような突飛なことを、よくしていたので(笑)。特に、お姉ちゃんの家に勝手に忍び込むシーンは大きかったです。一方通行な想いが暴走してしまって。あれをやって、お姉ちゃんに受け入れられることはきっとないと思いますけど、純粋というか、憧れる気持ちの強さゆえかなと。

――本人の中では、お姉さんへの純粋な想いなんですね。

岡崎 傍からは狂気じみて見えるかもしれませんけど、本人は至ってピュアな気持ちを持っていると思います。

――暴走するにしても、「そっちに行く?」という印象でした。

岡崎 普通のアプローチではなくて、角度が違うんですよね。

考えすぎて考えるのをやめたくなりました

――そういう役を演じるハードルは高かったですか?

岡崎 今まで演じた役とは違っていたので、悩むところはすごくありました。陰のある役で、感情をわかりやすく前に出す人でなくて、むしろ自分の中にしまおうとする。そういう役は初めてでしたから。それでも友だちはいるし、自分のコミュニティみたいな場所はある。馴染めていなかったら、その場にいないはずで、いちおううまくつき合おうとしている。いろいろな顔がちょっとずつある人だなと思いました。

――わかりやすいメンヘラではない分、リアルに危うい雰囲気を、岡崎さんが絶妙に醸し出していました。

岡崎 監督と密にお話しする時間を取っていただけたのが、良かったです。1人では菜穂子を理解するまでに、すごく時間がかかったので。つかみどころがなくて、どういうふうにもできるから、違う方向もあるかなと、考えることがどんどん出てきてしまうんです。考えすぎて、もう考えるのをやめたくなったりもしました。

――頭から湯気が出るような?

岡崎 本当にそれくらいの状態で、試練だなと思った瞬間もあります。でも、監督とお話しして解消されたこともあって、カメラの前には疑問をナシにして立てました。ひとつひとつ、そうやって積み重ねた感じです。

自分を肯定されたい願望の裏返しなのかなと

――菜穂子は異母姉の響子の後をつけて、妹だと隠して声を掛けて、挙句に住居侵入まで。何をしたかったのでしょう?

岡崎 自分にコンプレックスがあるから、お姉ちゃんに理想を重ねてしまったところはある気がします。きっとネットで女優だったことも調べて、キラキラした存在に見えて、しかも自分と血が繋がっている。「どんな人なんだろう?」から始まり、だんだん菜穂子色に粉飾したように思いました。

――勝手に偶像化したと。

岡崎 本当は知らないことばかりなのに、「こうであってほしい」と自分の願望をいろいろ乗っけていて。家にまで忍び込んで「結局何がしたいんだろう?」というところはありますけど、理想に近づきたい、自分を肯定されたい、愛されたい……といったことが入り混じって、複雑になってしまった感じかなと。孤独感も抱えていて、血が繋がっている人とわかち合いたいというか。それで菜穂子なりにお姉ちゃんに近づくんですけど、お姉ちゃんも同じように近寄ってくれることはなくて。

――むしろ引かれますよね。

岡崎 どう近づいたらいいか。どう関係を構築していくか。それが菜穂子はわからなくて、一人よがりの行動ですけど、愛されたい、肯定されたい願望の裏返しなのかなとは思います。

――だいぶ捻じれている感じですけど。

岡崎 そう。お姉ちゃんの元カレの本屋さんの店員に、いきなりレジで話し掛けて仲良くしたのも、情報収集の一環。携帯を盗み見たり手段を選ばない感じで、そこまでやってしまうのは、狂気じみた真っすぐさですよね。

三姉妹の真ん中として理解できるところはあって

――菜穂子の異母妹の杏奈への心情は、どう捉えました?

岡崎 杏奈ちゃんへの気持ちのほうが、難しさがあったかもしれません。お姉ちゃんのことだけを考えていたら、いきなり妹が現れて、自分の妹でもあるかもしれない。しかも、杏奈ちゃんのほうがお姉ちゃんとうまくいっている。嫉妬心はあったと思います。一方で、杏奈ちゃんとは境遇がちょっと似ていて。菜穂子はお母さんと、杏奈ちゃんは育ててくれた叔母さんとわかり合えない。電話で心配する言葉を掛けたりもして、自分をお姉さんと意識したのか、菜穂子のそういう一面も出ていました。

――でも、自分から電話してすぐ切ったり、カフェで会う約束をしたのに行かなかったりもしました。

岡崎 直接は会えなくて、逃げていましたね。目の前に杏奈ちゃんがいると、まだ受け入れられない部分があって。そこはリアルだなと思いました。いきなり仲良くなれないし、状況も入り組んでいるので。それがラストに繋がるところもありました。

――全体的に岡崎さんの中にもあるものや、覚えのある気持ちは皆無でしたか?

岡崎 私も三人姉妹の真ん中です。お姉ちゃんへの執着に似た憧れや、妹に対する嫉妬はないですけど、姉妹の構成として理解できるところはあります。末っ子がかわいがられるのは、きっと私も幼少期に見てきたので、菜穂子に妹であり姉でもあるという感覚が徐々に出てくるのは、わかるなと思いました。

自分でもどうなるかわからない役でした

――難役ではありつつ、役者として演じ甲斐も大きかったのでは?

岡崎 そうですね。幅が広がった感じがします。未知の役で自分でもどうなるかわからなくて。悩みつつ撮っていて「よし!」みたいには思えませんでした。でも、このお話をいただいた時点で、今まで自分がやってなかった役を任せてもらえたことがすごく大きくて。やりながら「こんな感じかな」と少しずつ確認していきました。

――岡崎さんはルックスが素敵すぎるので、映画やドラマでもうっとり目線で見てしまいがちですが、この映画での岡崎さん=菜穂子は「うわーっ……」となる感じで、まったく素敵に見えませんでした。失礼かもしれませんけど。

岡崎 それは私には誉め言葉です。今まではきれいになろうとしていたり、ファッションやメイク、流行りに敏感な役が多かったので。そういうところと無縁の女性を初めて演じて、そう見えたのなら嬉しいです。自分をガラッと変える機会になって、やり甲斐も感じました。

明確な答えがないから言葉の温度感を大事に

――「私も響子さんの妹だから……」と涙ながらに話すシーンも、今までの泣く演技とは違っていました?

岡崎 わけがわからなくなって、「これを口にしていいのだろうか?」と思いながら話すのは、今までなかったものでした。涙ながらに訴えるシーンはありましたけど、ここまで心が揺れて言葉にならない感じになったことは、初めてだったと思います。繊細すぎて捻じれてしまって。

――試行錯誤はありました?

岡崎 あのシーンは菜穂子の中で一番大きくて、爆発をぶつけるようなところをどうしたらいいか、考えていました。どんなふうにもできてしまう菜穂子だからこそ、温度感や強い言葉の発し方をどうするか。撮影に臨む前に監督と松井さんと3人で、すごく話し合いました。

――話し合いの結果、どうしようと?

岡崎 菜穂子には後ろめたさがあるんですよね。お姉ちゃんをつけていたことも、いろいろ知っていることも、言ってみたら後ろめたい。その気持ちを全面に出していくのか。それとも、妹として認められたい気持ちのほうが強いのか。こっちの要素を上にすると、その話し方にならないとか、本当に複雑でした。言い方次第で変わることもすごくあって。この作品自体、明確な答えがないからこそ、空気感や言葉の温度感はすごく大事だと思うんです。

――僅かなバランスの違いで、大きな変化が生まれると。

岡崎 本当に難しかったです。松井さんも響子として来るから、一番いいぶつかり合いが生まれるにはどうするか、3人で考えたことがすごく印象的です。菜穂子としては疑問もなくぶつかれましたけど、終わって俯瞰すると正解がない分、「別の線もあった?」とか、考えることは膨大にありました。

たまたま雨ばかりだったのが良かったかなと

――それにしても、響子をストーカーして後をつけたり、人の携帯やメモを盗み見たり、演技とはいえドキドキするシーンが多かったのでは?

岡崎 勝手に人のものを見たりするのは、ハラハラしました(笑)。お姉ちゃんの交友関係とか、いろいろ知りたかったんでしょうけど、お姉ちゃんが知ったらどう思うかまでは、考えられてなくて。眺めているシーンが多くて、自分がしゃべれないもどかしさがどんどん積み上がっていく感じもありました。

――あと、雨のシーンが多かったようで。

岡崎 たまたまなんです。自分でも気づかなかったんですけど、取材で監督と1年ぶりにお会いして、私のシーンはほとんど雨が降っていたと聞いて、ちょっとビックリしました。雨降らしをしたわけではなくて、本当に降ったから傘を差しただけ。菜穂子という役はシトッとしているので、ちょうど良かったかなと今にして思います。

――普段から雨女なんですか?

岡崎 雨女でも晴れ女でもないです。この撮影の間だけ、なぜか雨でした。何かあったのかもしれないですね(笑)。

現場の空気で作り上げたものが一番でした

――監督から演出で求められたことはありました?

岡崎 声のトーンのことは言われました。忍び込んだときに「もうちょっと低めで」とか。普通に気をつかって話しているとき、妹への嫉妬が出ているとき……。声で表情も変わったり、いろいろな連鎖がありました。

――クランクアップのときに、胸をよぎったことは?

岡崎 最後も響子さんと杏奈ちゃんをつけるシーンで終わりましたけど、この作品では初めてのことばかりで、客観的に見る余裕もなくて。現場でモニターをプレイバックすることも一切なく、駆け抜けました。全部撮り終わっても、監督と話し合いを重ねたことがどんな感じになるのか、楽しみと不安が入り混じっていました。

――完成して試写で観たら、どう感じました?

岡崎 いろいろ考えて演じましたけど、やっぱり現場の空気で作り上げたものが一番だなと思いました。

――女優として転機の作品になりました?

岡崎 新しい自分と出会わせてくれた作品です。何年か後に振り返っても、悩んで揺れながら演じたことを、きっと思い出す気がします。

20代のうちにニューヨークに行きたくて

――公開日は9月1日。まだまだ暑いと思いますが、秋に楽しみなことはありますか?

岡崎 ファッションですね。秋の服装が一番好きなので。モデルの撮影では秋物を先取りで着ていて、今年は何を着ようか考えられるのは、ちょっとお得な気分です(笑)。

――反面、モデルさんあるあるで、暑い時期に秋物や冬物の撮影をするんですよね?

岡崎 本当に季節逆転なので、だいぶ過酷です(笑)。この炎天下にブ厚めのニットや真冬のコートを着て撮影しています。

――最初に南の島の話をうかがいましたが、コロナ禍が緩和して、改めてしたいことは他にもないですか?

岡崎 20代のうちに海外に行きたいです。コロナ前は韓国やべトナム方面に行っていたので、アメリカがいいですね。いろいろなものを吸収したいから、また違う刺激が欲しくて。

――ニューヨークは街を歩いているだけで、気持ちが高ぶると聞きます。

岡崎 エンタテイメントの本場なので、ショーを観たりもしたいです。今までにない経験ができそうで、自分の新しい糧にしていきたいです。

Profile

岡崎紗絵(おかざき・さえ)

1995年11月2日生まれ、愛知県出身。

2012年に「ミスセブンティーン」でグランプリ。「Seventeen」モデル卒業後の2016年から「Ray」専属モデルに。女優として2015年に映画デビュー。主な出演作はドラマ『教場Ⅱ』、『ナイト・ドクター』、『花嫁未満エスケープ』、『オールドルーキー』、映画『mellow』、『名も無い日』、『シノノメ色の週末』など。9月1日公開の映画『緑のざわめき』に出演。

『緑のざわめき』

監督・脚本/夏都愛未 出演/松井玲奈、岡崎紗絵、倉島颯良、草川直弥(ONE N' ONLY)、カトウシンスケ、黒沢あすか他

9月1日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

公式HP

(C)Saga Saga Film Partners
(C)Saga Saga Film Partners

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事