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ドラマに付きものの波乱万丈を排した『日曜の夜ぐらいは…』。リアルタイム視聴でこそ成り立つ安らぎ

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)ABCテレビ

人生にままならない悩みを抱えた3人の女性の友情を描くドラマ『日曜の夜ぐらいは…』が、明日最終回を迎える。連続ドラマに付きものの波乱万丈がなく、このまま3人の夢であるカフェがオープンしてハッピーエンドを迎えそうだ。タイトル通り、日曜の夜ぐらいはこんなドラマがあってもいいと思える。

悩みを抱えた3人がカフェを開く夢に近づいて

 公団住宅に車イスの母と2人で暮らす岸田サチ(清野菜名)。タクシー運転手で1人暮らしの野田翔子(岸井ゆきの)。祖母と北関東に住み、ちくわぶ工場で働く樋口若葉(生見愛瑠)。3人はラジオ番組主催のバスツアーで出会い、元ヤンキーの翔子が初めての彼氏の名前のタトゥーを入れた途端に別れたなど、互いの身の上を少し話して意気投合する。

 ツアーの別れ際、サチが「楽しいことがあるとキツいときに耐えられない」と言い、思い出だけを胸に連絡先を交換しなかったが、1枚ずつ買った宝くじでサチは3000万円が当たっていた。山分けにする約束を果たそうと、応募してなかった次のバスツアーに強引に乗り込み、2人と再会。

 一緒に銀行に行ってドギマギしながら3000万円を受け取り、1000万円ずつ分ける。3人でサチの家に泊まり、これまでの人生を語り合ったりもしながら、若葉が「一緒に生きていきたい。お金を一緒に使いたい」と持ち掛けた。そして、3人でカフェを開くことが夢になる。

 若葉は祖母の富士子(宮本信子)と共にサチ親子と同じ団地に引っ越してくる。やがて、サチが団地の別の部屋を借りて3人で住むことになり、サチの母の邦子(和久井映見)と富士子が同居。

 理想のカフェにうってつけの古民家も見つかり、カフェプロデューサーの住田賢太(川村壱馬)とプランを練りながら、店に置く食器やエプロンを楽しげに選んだり、開店準備は順調に進んでいく。店名は「サンデイズ」に決まった。

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序盤には重苦しさや不穏な場面も

 序盤では、3人の過去をうかがわせる重苦しい描写もあった。サチが高校生の頃、忘れた弁当を渡そうとした母が階段で転げ落ち、車イス生活になったトラウマ。「私のせいだ」と高校を中退して働き、離婚した父は助けようとはしてくれなかった。

 若葉はちくわぶ工場で「どんくさい」などと責められ続け、富士子の運転する車の中で「私はずっと“あの女”の娘で、一緒に遊んだらいけない子だった」などと涙ぐむ。翔子はたまたまタクシーに乗せた兄から、「俺に妹なんていない! 母さんは初対面の人に『子どもは息子2人』と言っている」と罵倒される。

 宝くじが当たり、3人が会うようになってからも、不穏な場面はあった。若葉の元には「お金が貯まると来て全部持っていく」という毒親のまどか(矢田亜希子)が現れ、金を渡せと強要する。若葉は1000万円のことは言わず、工場で働いて貯めた93万円が入った通帳を差し出した。

 サチのバイト先にも、邦子の車いすが新品になったのを見た父親の博嗣(尾美としのり)が訪れ、土下座で金を無心。サチは3万円を渡す。翔子は久々に連絡してきた同級生に高額の美容グッズを売りつけられたり、コンビニでトラブルに巻き込まれて潰したカップラーメンを全部買い取ったり、無駄な出費を重ねていた。

大波は起きずに温かい余韻が残って

 だが、若葉たちが引っ越した後に再び訪ねてきたまどかは、近所の人が富士子に託された住所を訪ねると、海辺のボロ家に辿り着く。その家は無人で、アカンベーをした落書きがぶら下げられていた。

 博嗣もサチの羽振りを探り続けていたが、邦子に気づかれ、呼び出されてビンタされる。「子どもはやめなさい! 絶対に許さない!」と叱り飛ばされて。不安要素だった2人は、これをもって“退場”となったようだ。

 ドラマや映画に波乱万丈は付きものだ。特に10話前後続く連続ドラマは、波風を立てないと視聴者を引っ張れないと考えられているのだろう。その理屈はわかる。登場人物たちがただ平和に過ごしているだけなら、話が持たない。

 しかし、『日曜の夜ぐらいは…』では中盤以降、波乱は影を潜めた。3人それぞれ抱える問題は依然あるが、小波程度に収まっていて。お互い励まし合い、毎回温かい余韻が残るようになった。

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友情の亀裂も開店へのトラブルも一度もないまま

 普通の連続ドラマのパターンなら、結局は修復されるにしても、3人の友情に亀裂が入ったり、ぶつかり合う展開が一度はありそうだ。だが、そんな気配は一向に起きない。

 3人で川の字になって寝て「幸せ~」と口にしたり、開店準備中のカフェで翔子が1人で事務手続きをした後に2人が現れ、サプライズで誕生パーティーを開いたりと、小さな幸せのシーンが続く。

 その誕生パーティーでは、若葉が「私たちって喧嘩したことないですよね。これからするのかな。イヤだなー」と切り出し、喧嘩の原因になりそうなことを挙げていったが、サチは「今の私には遠い国の出来事のように感じる」と言う。

 カフェを開くにしても、何らかの現実的なトラブルに直面したり、開店危機に見舞われる話があるかと思いきや、それもまったくないまま来ている。

 住田にはコンサルタント料として200万円を振り込んだ。一見いい人そうだが金だけ奪って……みたいなことも考えられ、3人も一抹の不安を抱いていたが、彼は正真正銘のいい人だった。彼女たちの要望を受け止めながら、開店へ的確にプランニングしていく。

 エスプレッソの講習では、翔子のラテアートだけ何が描かれているのかわからず、笑い合ったりもしながら、3人は夢へ向けて一歩一歩進んでいった。

敏腕の脚本家があえて派手さを抑えて

 このドラマの脚本は、ベテランのヒットメーカー・岡田惠和が手掛けている。反町隆史と竹野内豊をスターダムに押し上げた『ビーチボーイズ』、アメリカの名作SFが原作の『アルジャーノンに花束を』、今回の『日常の夜くらいは…』と日常テイストは通じる大人の恋愛コメディ『最後から二番目の恋』など、多種多様なドラマで深みのある物語を描いてきた。

 毎日15分の中にヤマ場が求められる朝ドラも『ちゅらさん』、『おひさま』、『ひよっこ』と3本で手腕を発揮している。波乱万丈のない『日常の夜くらいは…』は盛り上がりに欠けるとも言えなくはないが、あえてそうしているのだろう。その分、3人をはじめ周辺の人物像まで、かなり掘り下げられている。

ただ幸せになっていくのを見守る心地良さ

 ドラマを観ていて登場人物に感情移入すると、中盤でも「もう波風は立たなくていいから、このまま幸せになってほしい」という気持ちになることがある。実際はそこから波乱が起きてクライマックスへ向かうことが多く、「まあ、そうでないとドラマは成立しないよな」などと思う。だが、『日曜の夜ぐらいは…』は大事件が起こらない中で、3人が少しずつ幸せになっていくのを安らいで観られた。

 今はドラマも、TVerなど配信で好きな時間に観ることができる。だが、波乱万丈を排した『日曜の夜ぐらいは…』はタイトルそのまま、日曜の夜の空気の中で観てこそ心地良いドラマになっていた。 

 何もトラブルが起きないのは、逆に非現実的かもしれない。そもそも、たまたま1枚買った宝くじが当たったところから始まった話だが、そんな夢物語に浸るのも日曜の夜ぐらいはいい。

 最終回の予告には「胃が痛くなるような不安や、納得のいかない現実も無くなりはしない。そんなサチの心の揺れに、翔子と若葉がそっと寄り添う」「そしてオープン当日。サチたちがサンデイズの扉を開けると…」とある。ここまで来て、どんでん返しのバッドエンドはないだろう。3人の夢が叶うのを見届けて、共に幸せな気分になりたい。

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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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