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桜井日奈子が順調に見える女優人生で悩んだこと。派遣社員から起業する役で大人なラブシーンも

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/S.K.

4月で26歳になった桜井日奈子。メインキャストを務める映画『魔女の香水』が公開された。“岡山の奇跡”と呼ばれた美少女として、華々しくデビューしてから8年。青春恋愛もののヒロインが続いた時期を経て、今回は派遣社員から香水に目覚めて起業する役で、23歳から30歳までを演じている。自身のデビューから今日までの心情と重なるところもあったという。

何もわからず覚悟もないまま脚光を浴びて

――日奈子さんは現在26歳。『魔女の香水』では若林恵麻役の23歳から30歳までを演じました。ご自分のこれまでの女優人生と重なるところもありましたか?

桜井 最初の恵麻の「自分の足で立って歩きたい」という意志はありながら、社会に怯えているようなところは、芸能界に入った頃の私とすごく重なります。上京したばかりで、何をどうしたらいいのかわからなくて、不安を抱えていました。

――ただ、恵麻は派遣社員で理不尽な目に遭ったのに対し、日奈子さんは「岡山の奇跡」と注目されて最初からCM出演が続いたり、順調なスタートでした。

桜井 そう見えましたよね(笑)。でも、本当にそんなことはなかったんです。成功しているように周りが見せてくれていただけ。ラッキーでしたけど、演技もバラエティでの振る舞いもゼロのところから、脚光を浴びてしまって。あまり覚悟が決まってないまま、仕事を始めていました。そのせいで、うまく行かないことがあると「別にこの世界でなくても、私は生きていける」と逃げの気持ちが出て、苦しくなっていたんです。

――実際、日奈子さんは高校時代から成績優秀で、たぶん他の道にも行けただけに?

桜井 今考えたら、いただいた仕事に対して、もっと向き合うべきでした。当時なりに一生懸命やっていましたけど、もっとできたと思えてしまうんです。

辛辣な言葉に芸能界にいる価値があるのかと

――『魔女の香水』では「こんな自分にも価値があるのか、知りたくなったんです」という台詞もありました。そんなことを考えたりも?

桜井 そうですね。世に出ると同世代の女優さんと比べられたり、お芝居でなく容姿のことで辛辣な言葉が目に入って。そういう言葉がひとつあると、みんながそう思っているんだとネガティブに捉えてしまって。私はこの業界にいる価値があるのか、悩んでいた時期はありました。今はそんなことはないですけど。

――今は自信が付いたから?

桜井 自信満々ではないですけど、何か言われても「そういうふうに思う人もいるよね」と、ポジティブに変換できるようになりました。前は絶対エゴサはしなかったのが、最近はするようになったり。辛辣な言葉があっても、以前よりは引きずりません。

――恵麻は香水のことをノートにビッシリ書いていました。あんな感じの演技ノート的なものを付けたりはしていました?

桜井 その日の反省や「もっとこうしたほうが良かった」ということを、ノートにまとめていました。当時のマネージャーさんが厳しいことも包み隠さず言ってくれる方だったので、その言葉もいっぱい書き溜めたり、紙に書いて部屋じゅうに貼ったりもしていました。

――どういう言葉を貼っていたんですか?

桜井 「誰に対しても敬意を持って接する」とか。そういう大切な言葉を忘れないようにしたくて。今は貼ってはいませんけど、まだ取ってあります。

怒らないことを自分のテーマにしました

――劇中でも、恵麻は“魔女さん”こと白石弥生(黒木瞳)から、いろいろな言葉をもらっていました。日奈子さん自身に刺さるものもありました?

桜井 「変えられるのは自分と未来だけ」というのは、そうだなと思いました。「あのときはああだったのに、なぜ今はこうなんだろう」とか「どうしてあの人はこうしてくれないんだろう」とか、誰かに何かを求めても仕方ない。それが叶わなくて自分の機嫌が悪くなったり、コンディションが崩れたら、誰も得しませんよね。

――そうですね。

桜井 私、今年のキーワードを「怒らない」にしているんです。「えっ?」と引っ掛かることがあっても、人のせいにはしない。自分の努力次第でどうにでも変えられる。何かしてもらいたいなら、そうなる動き方を自分がすればいい。そんな考え方に持っていくことを、テーマにしています。

もっと貪欲にいろいろな作品に出会いたい

――ノートに書き込むかは別にしても、作品について夜遅くまで考えることもありました?

桜井 昔はよくありました。眠れないくらい思い悩んでしまって。役のことから「私は本当にこの世界にいていいのか?」と、考えなくていいことにまでどんどん行ってしまうんです。最近はもう考えるのをやめました。悩んだら寝て忘れます(笑)。

――特に悩んだ作品というと?

桜井 毎回悩んでいますね。『魔女の香水』も結構悩みました。23歳から30歳という振り幅をどう演じるか。会社で働いた経験もないので、実際どうなのか。母が派遣会社に勤めていた時期があって、話を聞いたりしながら作りました。あと、『プラダを着た悪魔』や『マイ・インターン』を参考に観て、私の大好きなアン・ハサウェイさんを恥ずかしながらちょっと意識しました(笑)。

――26歳の今は、女優人生を順調に送れている感触ですか?

桜井 順調ではないかな(笑)。何をもって順調というのかわかりませんけど、もっともっと貪欲に、いろいろな作品に出会っていきたいです。私はもっとやれるんだぞと、いろいろな方に観ていただくには、現状に満足していてはダメですから。

自分で考えて動いたら前向きになれて

――今のメンタル的にはいい感じなんですよね。

桜井 そうですね。安定しています。

――恵麻は“運命を変える香り”に出会いました。日奈子さんはポジティブに変わったりするうえで、何かあったんですか?

桜井 マネージャーさんの話ばかりになってしまいますけど(笑)、最初に付いてくれた方が魔女さんのように、この世界で私を導いてくれたあと、新しい方に替わったのも大きかったです。以前はいろいろ言われてやることに精いっぱいで、自分で考えて動くことがあまりできてなくて。今は一緒に考えてくれる体制に変わって、ひとつひとつの現場で「こうしてみたい」と、前向きな気持ちで臨めるようになっています。

――年齢的にも、ちょうど変わる時期かもしれませんね。

桜井 そうですね。もう26歳で新人ではないですし、かと言って、経験はまだまだ積まないといけない。あいまいな場所にいるような感覚があります。演技派になるのか、バラエティもやっていくのか。私は何でもやりたい精神はありつつ、あくまで女優で行きたい。そのためには、いろいろ露出もしていかないといけない。あれこれ考えてしまいますね。

――特に日奈子さんは、青春恋愛もののヒロインがすごくハマっていただけに?

桜井 世間の方には、10代の頃の私のイメージが強いと思うんです。今はそれだけではないというところを見せられる作品に、どんどん出ていきたいです。

香水のことを調べたノートは自分で作りました

――そういう意味では、『魔女の香水』は大きな作品になったのでは?

桜井 ファンの方にも、スーツ姿は新鮮だったと思います。学生服のイメージがあったので。

――演技的にも新たな取り組みがあったんですよね?

桜井 私はこの作品に出会うまで、香水について無知だったので、協力していただいたパルファンサトリさんのアトリエまで足を運んで、どんな種類があるのか、どうやって作られるのか聞いてきました。劇中の香水のノートも、自分でまとめたものを使わせてもらっています。スタッフさんが作ってくれたものより愛着が湧いて、作品に対する姿勢も変わると思ったんです。そういうことは今まで、あまり意識していませんでした。

――恵麻がやっていたような営業は、日奈子さんはできそうですか?

桜井 どうでしょうね(笑)。魔女さんから「姿勢をいつも正しなさい。それがやる気と自信を映す鏡になる」と言われるシーンがあって。恵麻が起業する前と後で、姿勢を意識してお芝居をしていました。

もう一度やろうとしてもできないかも

――泣くシーンはきれいでないというか、リアルに崩れたような顔になっていました。

桜井 本当に内から出たものでした。涙の原因が残酷なことでしたし。あのシーンはすごいハードスケジュールの中で撮ったんです。エメラルド倶楽部(女性経営者の会)の方たちが出演されたシーンのあとで、初めてのベッドシーンを撮って、そのあと同じ日に泣く場面を撮影して、情緒がすごいことに(笑)。だから、できるかなと思ったら、一発OKでした。普通は段取り、リハーサルから本番という手順を踏みますけど、いきなり「本番で行きましょう」と言ってくださって。

――集中力が高まって、自然にあの涙が出たと。

桜井 そうですね。もう一度やろうとしても、できないかもしれません。

――初めてのベッドシーンも緊張する間もなく?

桜井 いえ、緊張しました。作品に必要であれば、積極的にやりたいと思っていましたけど、初めてだから、どうしていいかわからなくて。監督に「どうすればいいですか?」と聞きました。

――どうすればいいと言われたんですか?

桜井 恵麻にとって、相手の蓮さんは初めてに近いくらい強く心を惹かれた人だから、慣れてない感じのままでいいんだよと。そのシーンで、恵麻が蓮さんに「待って」と言う台詞があって、台本だけ見てると、これは言えるのかなと思いました。蓮さんがよくわからない人だったので。でも、実際に現場でお芝居してみると、平岡(祐太)さんが演じられた蓮さんの葛藤が見えて、心配したほどのことはなかったです。流れに任せて、お芝居できました。

30歳までにもう何段階か上に行きたくて

――女優として、恵麻みたいに30歳で成功しているイメージはありますか?

桜井 30歳はひとつの節目だから、それまでにもう何ステップか、上に行きたいなとは思っています。

――恵麻が起業した会社のように、海外進出も考えていたり?

桜井 海外ドラマは好きでいろいろ観てますけど、まずは日本を制覇したいです(笑)。

――ちなみに、『魔女の香水』の劇中ではシャレたバーにも定食屋にも行ってました。馴染みがあるのはどっちですか?

桜井 もちろん定食屋です(笑)。1人でよく行きます。大戸屋とかやよい軒とか。

――桜井日奈子さんがそういう店にいたら、驚かれません?

桜井 全然バレません。あそこにいる方はみんな、定食にしか興味ありませんから(笑)。私はサバみそ定食が好きです。

――バーには行かないんですか?

桜井 お酒は基本、家で飲むので。ふらっとオシャレなバーに行けたらカッコいいですけど、たぶん行けません(笑)。

――では、今年の夏はどう過ごしますか?

桜井 また作品に入りますけど、シレッと夏が終わってしまうのも悲しいので、合間を縫って家族と海外旅行に行きたいです。あまり家族でお出掛けをしてこなくて、年末に宿に泊まったりするようにはなったんですけど、海外はまだなくて。大きい仕事が決まったら絶対に連れていこうと思っていました。そしたら、目標にしていた仕事が決まったんです。

――海外のどこに行くんですか?

桜井 飛行機が長いと父がちょっと大変なので、近いところでハワイがいいかなと。いい夏にします。

撮影/S.K.

Profile

桜井日奈子(さくらい・ひなこ) 

1997年4月2日、岡山県生まれ。

2014年に「岡山美少女・美人コンテスト」で美少女グランプリ。2016年に舞台『それいゆ』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『僕の初恋をキミに捧ぐ』、『ヤヌスの鏡』、『ごほうびごはん』、『君と世界が終わる日に Season3・4』、映画『ママレード・ボーイ』、『ういらぶ。』、『殺さない彼と死なない彼女』など。映画『魔女と香水』が公開中。

『魔女の香水』

監督・脚本/宮武由衣 

出演/黒木瞳、桜井日奈子、平岡祐太、水沢エレナ、小出恵介、落合モトキほか

TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中

公式HP

(C)2023映画『魔女の香水』製作委員会
(C)2023映画『魔女の香水』製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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