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『あまちゃん』再放送に潮騒のメモリーズ。2人組アイドルの伝統は令和では消滅したのか?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
写真AC

 NHK BSプレミアムで10年ぶりに再放送され、関連ワードがTwitterでトレンド入りなど根強い人気を見せている『あまちゃん』。2日の53話では、ヒロインの天野アキ(のん)と足立ユイ(橋本愛)が地元の観光PRのために結成した「潮騒のメモリーズ」が、お座敷列車のイベントで歌う名シーンが流れた。

 80年代カルチャーをフィーチャーした朝ドラだが、現実の2人組アイドルは10年前の時点でめっきり少なくなっていた。そして現在では、ほぼ絶滅危惧種の状態。アイドルらしいパフォーマンスを最も体現できるのが2人組で、ある時代までは脈々と受け継がれてきた伝統文化だったが、なぜ下火になったのか?

ピーナッツ、ピンク・レディー、Winkなどが引き継いだ系譜

 2人組アイドルの系譜を振り返ると、元祖と言えるザ・ピーナッツから、ピンク・レディー、おニャン子クラブから派生したうしろゆびさされ組、Wink、元モーニング娘。の辻希美&加護亜依のW(ダブルユー)といったところが挙がる。(女性デュオということならPUFFYもいるが、アイドルのスタンスではなかった)

 ピンク・レディーの『UFO』や『渚のシンドバッド』などの振りは、日本中の子供たちがマネをしていた。うしろゆびさされ組は凸凹コンビだったが、正統派の路線は背格好の似た“双子感”。そもそもザ・ピーナッツはリアル双子で、ザ・リリーズやFLIP-FLAPなどのコンビもそうだった。

ダンスでない振りを最も体現できるスタイル

 アイドルとアーティストをあえて分けるなら、大きな要因は“振り”か“ダンス”か。まず、90年代のアイドル冬の時代に、ダンスが主流になり振りは廃れていった。1996年にデビューしたSPEEDが決定づけた流れ。

 フリフリ衣装で女の子のかわいらしさを表現するのでなく、アーティスティックに高度なパフォーマンスを見せる。それは進化でもあったが、ダンスでない振りこそ、アイドルをアイドルたらしめていたことも実感させた。

 そのアイドルらしい振りを、さらに最も端的に体現できるのが2人組なのだ。背中合わせになったり、手のひらを合わせたり、並んで腕を振りながら同じステップを踏んだり。あのシンメトリー感はソロでも大人数グループでも表現できない。そういう意味では、Winkがデコラティブな衣装で2体のマリオネットのようにシンクロしたのは、ひとつの極みでもあった。

アイドル戦国時代に主流は大人数グループへ

 以後のアイドルシーンは、1999年のモーニング娘。のブレイクを経て、2009年からのAKB48の社会現象的ブームが生まれ、“戦国時代”と呼ばれる活況に。ただ、そこで圧倒的主流は人数の多いグループアイドル。80年代のようなソロアイドルはめっきり減った。

 AKB48に起因するアイドルブームのキモはファンが“会いに行ける”こと。ビジネス的には握手会を特典にCDの複数買いを煽る商法で、シングル38作連続ミリオン(オリコン調べ)という途轍もない記録も生んだ。

 ソロアイドルは同じ手法を取っても、1人で握手会の数をこなすには限度があり、「何人かのメンバーと握手したい」という需要は当然ながら生まない。セールスを上げるうえでは不利だった。AKB48のエースだった前田敦子のソロシングルでも、AKB48本体の売上の10分の1にも届いてない。

2人では握手会の効率が悪くステイタスも薄く

 それで、当時「ソロのアイドルがいなくなった」とよく言われていた。だが、実際のところ、前述の前田敦子や板野友美、渡辺麻友らAKB48からのソロデビュー組だったり、剛力彩芽のような女優の歌手デビューだったり、きゃりーぱみゅぱみゅのようなカワイイ系アーティストまで含めれば、それなりに見られた。

 本当にドッと減ったのは2人組アイドル。2人では“グループ”といっても、握手会を回す効率はやはり悪い。それでいて、ソロのように個人名義のステイタスもない。時代とマッチしなくなった。AKB48からの派生ユニットでも、ノースリーブスやフレンチ・キスの3人が最少。総合プロデューサーの秋元康夫人は、元うしろゆびさされ組の高井麻巳子なのだが。

 アイドル戦国時代にはまだ、バニラビーンズやWHY@DOLLなどがメジャーデビューし、声優アーティスト界にはゆいかおりという出色の2人組がいたが、さらに10年を経てアイドルシーン自体が退潮傾向の今は、ほとんど見当たらなくなっている。戦慄かなの(元ZOC)と頓知気さきな(元青春高校3年C組アイドル部)の姉妹によるfemme fataleがセルフプロデュースで活動しているのが、目に付くくらいか。

のんと橋本愛の対照的な個性を引き出し合って

 『あまちゃん』で潮騒のメモリーズが歌う『潮騒のメモリー』は、1986年の同名青春映画の主題歌という設定。主演した鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)が歌って大ヒットしたが、実際にレコードに吹き込んだのはアキの母親の天野春子(小泉今日子)だったことが、のちに明かされる。

 お座敷列車で歌ったアキとユイのシンメトリックな振りも、80年代の王道アイドルっぽさを取り入れていた。ドラマ内のユニットゆえ、本物のアイドルのようなシンクロ感には欠けるものの、当時ののんと橋本の醸し出す空気は理屈抜きに、演技を越えたアイドル性を感じさせた。

 ベクトルが正反対の美少女2人組という点では、うしろゆびさされ組を彷彿させる。高井麻巳子の清楚さと岩井由紀子(ゆうゆ)のおしゃまな感じが、対照的ゆえに引き立て合っていたように、潮騒のメモリーズは、おっとりしてかわいらしい感じのアキ=のんと、シャープな美形のユイ=橋本の良さが相乗効果で際立った。

『あまちゃん 歌のアルバム』(ビクターエンタテインメント)
『あまちゃん 歌のアルバム』(ビクターエンタテインメント)

不在が続くか思いも寄らない継承者が現れるか

 2013年に発売されたコンピレーションCD『あまちゃん 歌のアルバム』は、ジャケットに潮騒のメモリーズのイラストがあしらわれ、もちろん『潮騒のメモリー』の2人が歌ったお座敷列車バージョンも収録。当時のブームもあり、オリコンの週間アルバムチャートで1位になっている。

 潮騒のメモリーズは同年の『紅白歌合戦』の企画、『あまちゃん』コーナーでも歌い、2人組アイドルの不在を束の間ながら埋めた形になったが、現実にはそれから10年経っても、伝統を継承する存在は現れていない。

 ビジネス的な難しさはいっそう増していて、無理に作ろうとしてうまくいくものでもない。だが、アイドル文化のひとつの象徴だった2人組がこのまま絶えたら、やはり寂しい。思いも寄らない形で、令和流のメジャーな2人組アイドルが現れることに期待したい。

映画『私をくいとめて』でも共演した橋本愛とのん
映画『私をくいとめて』でも共演した橋本愛とのん写真:2020 TIFF/アフロ

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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