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『すずめの戸締まり』から『波よ聞いてくれ』でラジオAD役の原菜乃華 「1番になる気持ちは必要だなと」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『波よ聞いてくれ』より(C)テレビ朝日

大ヒットした新海誠監督のアニメ映画『すずめの戸締まり』で、ヒロインの声優を務めた原菜乃華。現在、ドラマ『波よ聞いてくれ』に出演している。小芝風花が演じる破天荒なラジオパーソナリティーに感化されるAD役。もともと10代にして演技力の高さには定評があったが、1年ぶりのドラマではコメディの中で面白さも発揮。クライマックスを前に取り組みと心境を聞いた。

初めての社会人役でテキパキ動いてます

――『すずめの戸締まり』がロングラン公開になり、海外でもヒットしました。菜乃華さんの身の周りでも、何か影響はありましたか?

 気づいてもらうことが増えました。「声でわかる」と言っていただけて。お店でマネージャーさんとお話しているとき、目の前の方が声を掛けてくださったりしました。

――知名度も爆上がりしたようですね。

 どこに行っても、皆さん「すずめ、すごく良かったよ」と言ってくださって、嬉しいです。新海監督にも「菅田(将暉)さんが『素敵だった』とおっしゃってました」とか、報告のLINEを送っています。

――ロングだった髪をボブにしたのは、何か心境の変化から?

 これは『ミステリと言う勿れ』の役のためです。お手入れは楽になりました。長いと顔を隠せて落ち着けますけど、短いと顔がしっかり出てしまうのが、最初は慣れなくて。でも、それで気持ちが明るくなった気もします。

――1年ぶりのドラマ『波よ聞いてくれ』で演じる瑞穂は、23歳でラジオ局のAD。初の社会人役ですが、その部分で意識することはありますか?

 私は学生時代、ボーッとしていて(笑)、あまりシャキシャキ動いてなかったんです。社会に出て働いている人としては、ちゃんと時間を把握しながら動いたり、所作をテキパキしたほうがいいかなと。本物のADさんを見ながら、声の掛け方とか細かいことからマネしました。

――どんな声の掛け方をしたんですか?

 室内にいる全員が、再開時間をわかるように声を張ったり。他にも、機敏に行動するように気を付けています。

ラジオは散歩中に聴くと孤独を感じません

――菜乃華さんは役作りを念入りにされるそうですが、今回は事前に準備したことはありますか?

 コメディで初めてのことばかりだったので、現場に入ってから、皆さんと一緒に作る気持ちが強かったです。ラジオも普段から聴いてますけど、裏側はわからないので。撮影現場のラジオ局に入って、何となく掴んでいけたらと。

――ラジオを聴いてはいたんですね。

 よく夜にお散歩をしていて、必ずスマホでラジオを聴いています。芸人さんの『オールナイトニッポン』を聴いたりしますけど、人が話している声が耳に入ってくるのが好きなんです。もちろんお話も楽しみつつ、にぎやかな笑い声が聞こえると、孤独を感じないのが気持ち良くて。

――瑞穂が飼っている亀には、馴染みはありました?

原 ないです。でも、すっごいかわいいんですよ! 見ていて飽きません。ゆっくり動いていて、眺めていると時間もゆっくり進む感じがして。気づいたら5分とか経っていたり、落ち着きます。1匹ごとに「この子は活発だな」というのもあって、瑞穂ちゃんの亀愛はよくわかります(笑)。

おかしさがちょいちょい出るのが魅力だなと

――瑞穂は最初はただ真面目なADかと思ったら、おかしなところが出てきて(笑)。

 そうですね。ミナレさんを初め強烈なキャラクターばかりで、瑞穂ちゃんは一見、常識のあるタイプ。視聴者さん側にいるのかと思ったら、彼女も全然おかしくて(笑)。そのおかしさが、ミナレさんの陰でちょいちょい出てくるのが、魅力だなと思っています。

――2話では「呪われてる」というファックスを送ってきたリスナーの家に、ミナレと一緒に押し掛けました。

 2日間くらい撮ったのかな。楽しかったです。巫女コスプレを初めてして、小芝さんとノリノリで写真を撮ったりしてました。

――天井から血の雨が降ってきて、その巫女の衣装にも赤く落ちて。

 あのマトン肉の回は原作から大好きで、実写でやれて本当に嬉しかったです。放送も観て大爆笑して、家族にも「めちゃくちゃ面白い」と言ってもらえました。

――瑞穂は「怖い怖い!」とドタバタしてました。

 ハンディのカメラがあんなに重いんだと実感しました。ずっと右手で持っていたら、肩がすごく凝ってしまって。いつも持ってくださっているスタッフさんに感謝だなと、改めて思いました。

オタク要素を探り探り出しました

――4話で放送作家の久連木が書いた官能小説の説明をしながら入り込んで、ミナレに「戻ってこい!」と言われるのも面白かったです。

 監督に「オタク要素を出してほしい」と言われました。「上から読んでも下から読んでもポルノルポって言葉遊びも含まれてます。フフッ」と、オタク笑いをしてほしいと(笑)。そこも楽しかったですね。どうしたら瑞穂の変ぶりがうまいこと出るか、探り探りでした。

――オタク笑いって、菜乃華さんも普段するんですか?

 しなくもないです(笑)。アニメや(10歳離れた)妹の動画を観ているときにしてます。間違えて電源を切るボタンを押してしまって、真っ黒なスマホ画面に映った自分の顔に「うわっ!」となることもあります(笑)。

――瑞穂はもともと久連木が憧れの放送作家で、高校のワークショップでラジオの話を1対1で聞き、ラジオ局に入社しました。ミナレには「片想いの相手が50過ぎのオッサン」と言われてましたが、瑞穂の久連木への想いはどう捉えていますか?

 憧れや恋心だけでなく、尊敬が強いと思います。友人でも恋愛でも、近づきたいのは尊敬できる人なので、瑞穂の気持ちがすごく固い理由はわかります。高校時代、「その程度に思っているならラジオ局に必要ない」と言われて。1日会っただけの関係で、正しいことを厳しく言ってくれる大人はいなかったので、「この人なら信じられる」と思えた存在なんでしょうね。

コメディは現場で作り上げていくものだなと

――監禁された久連木を助けようと乗り込んだときは、瑞穂も暴れてました。

 いつもの瑞穂ちゃんではなかったですね(笑)。でも、私の何倍も小芝さんがすごかったです。アクションの動きを一瞬で覚えて、きれいに動いてらっしゃって。「何かやっていたんですか?」と聞いたら、「何もしてない」ということでビックリしました。私もアクションを習おうかと思ったくらいです。

――菜乃華さんは子役時代から演技力は評判でしたが、コメディもそんなに壁ではないですか?

 周りのキャストの方に恵まれていると思います。どういうふうにしたら面白くなるか。1人で台本を読んでいたときはまったく出なかったものが、一緒にお芝居をしていく中で、不思議といっぱい出てきたりするので。コメディはやっぱり現場で作り上げていくものだと、『ナンバMG5』でも今回でもすごく実感しました。

――一方、同じ4話で「2年以内にチーフディレクターになります」などと涙ながらに語った長台詞は、胸を打ちました。

 あそこは切り替えました。たぶん控えめに生きてきた瑞穂が、初めて自分の想いを吐き出すシーンで、台本を読みながらいろいろ考えました。

昔から言われてた父の言葉が腑に落ちました

――瑞穂が久連木に言われた「いつかトップに立って」とか「図々しいくらいの夢や目標を持つ」という言葉は、菜乃華さん自身にも響きました?

 「誰かのために」と言ってるうちはダメ、みたいなことを言われて、ハッとした経験は私にもありました。争いが好きでなくて、勉強でも「1番でなくていい」とずっと思っていたんですけど、「そんな考えだと2番にもなれない」と、父に怒られたことがあって。

――最近の話ですか?

 だいぶ昔から、ずっと言われてきました。その父の言葉がピンと来なかった時期もありましたけど、今回の台詞を読んで「こういうことか」と腑に落ちました。すごく素敵な言葉だと思います。

――では、菜乃華さんも今は、女優としてトップに立ってやろうと?

 まさに図々しいですけど、それくらいの気持ちでいないとダメだと、思えるようになりました。

落ち込んだら余計なことを考えないように

――瑞穂は落ち込むと一心不乱に包丁を研ぐ、というくだりもありました。

 あれは2パターン撮ったんです。その包丁で自分のことを刺してしまいそう……というバージョンと、久連木さんを刺しにいくんじゃないか……というバージョンと(笑)。放送では、刺しにいきそうなバージョンが使われていました。

――菜乃華さんが落ち込んだときは、どんなことをしますか?

 ひたすら寝ます(笑)。あまり人に話したりはしません。気分転換にお散歩するか、マンガや映画を観るか。落ち込んだままだと、悪いほうに考えてしまいがちなので。考えても仕方ないと思ったら、余計なことで悩む暇を潰す感じですね。

――瑞穂のキャラクターの中で、几帳面というのは菜乃華さんと重なるのでは?

 私は几帳面ではないです(笑)。瑞穂は職場でよくできる子で、家でも崩れないのがすごいと思います。お部屋はきれいで、亀の水槽も手入れがされていて、本もたぶん彼女なりのこだわりできちんと並べてあって。おつまみは袋からお皿に出すんですよ。そういうことは私はしません。整理整頓が得意なわけではないです。

――菜乃華さんの部屋はそこまできれいではないと?

 片付けは一気にやります。暇ができたり、ちょっと汚くなってきたと思ったら、ガーッと。瑞穂は毎日コツコツ掃除してそうで、何か違います。でも、私もちゃんときれいにはしています(笑)。

自分では考えられない行動に惹かれます

――ミナレ役の小芝風花さんは、撮影してないときはあんなガラが悪いわけではないでしょうけど(笑)、やっぱり切り替えはすごいですか?

 全然変わってカッコいいです。とにかく台詞が多くて長回しもあるのに、噛まずによく聞き取れるように話されていて。カットが掛かった瞬間、キャストとスタッフさんが全員拍手。本当に素敵なお芝居で、もっと近くでたくさん勉強させてもらいたかったので、撮影が終わってしまうのが寂しいです。

――瑞穂はミナレについて「平凡な人生を壊してもらえる気がするんです」と話していました。菜乃華さんには、そんなふうに人生に影響を受けた人はいますか?

 たくさんいらっしゃいますけど、身近だと、やっぱり父ですね。私は瑞穂と同じで保守的で、父はどちらかというとミナレさん側。小さい頃から厳しいことを言われて、全然わからない話もありました。同級生だったら、絶対仲良くなっていません(笑)。正反対なんですけど、そんな父の言っていることが、大切なものになる瞬間もあって。「平凡な人生を壊してもらえる」というのは、自分が思っていたことを言葉にしてもらった感じで、瑞穂の気持ちはすごくわかります。自分では考えられない行動をする人は、私には魅力的です。

20歳になったら記念にカップ酒を(笑)

――『波よ聞いてくれ』の後半にも、瑞穂的な見どころはありますか?

 4話の宣言のあと、瑞穂がミナレさんの影響を受けているのが、少しずつ顕著になっていきます。監督に「この動きはミナレさんに言われたからですか? 瑞穂が自主的に?」と確認すると、「自主的です」と言われることが増えました。わかりやすく成長が見えると思うので、注目していただきたいです。

――今回は実年齢より上の23歳の役ですが、菜乃華さんも8月には20歳になります。意識しますか?

 あまりないです。私は全然変わらなそうなので(笑)。このまま年齢を重ねていくんだろうなと思います。でも、『波よ聞いてくれ』のカップ酒をミナレさんたちと飲むシーンでは、中身はお水やお茶だったので。20歳になったら、記念に本物を飲んでみたいかもしれません(笑)。

Profile

原菜乃華(はら・なのか)

2003年8月26日生まれ、東京都出身。

2009年に子役としてデビューし、映画『地獄でなぜ悪い』やドラマ『朝が来る』で注目される。主な出演作はドラマ『死との約束』、『ナイト・ドクター』、『真犯人フラグ』、『ナンバMG5』、映画『3月のライオン』、『はらはらなのか。』、『罪の声』、『胸が鳴るのは君のせい』、アニメ映画『すずめの戸締まり』(声優)など。ドラマ『波よ聞いてくれ』(テレビ朝日系)に出演中。9月15日公開の映画『ミステリと言う勿れ』に出演。

金曜ナイトドラマ『波よ聞いてくれ』

テレビ朝日系/金曜23:15~(一部地域を除く)

公式HP

(C)テレビ朝日
(C)テレビ朝日

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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