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震災で家族を亡くし認知症の恩師を介護。イマドキガールの吉田伶香が絶望から希望を見出す役で主演

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)三英堂商事/アイ・エム・ティ

東日本大震災で家族4人を失った介護士が、絶望の淵から希望を見出そうとする映画『こわれること いきること』。『めざましテレビ』のイマドキガールの一員、吉田伶香が主演している。朝に見せる元気で明るい笑顔は潜め、虚しさを抱えながら施設で働き、出会いから変わっていく姿を演じた。山形から15歳で上京して女優を目指して以来の経緯、意外な素顔も語ってもらった。

おままごとが好きで何もわからずオーディションに

――小学生の頃からオーディションを受けていたんですよね?

吉田 そうです。でも、私は芸能界にそんなに興味なくて(笑)。おままごとが好きで、父が見ていて「向いているんじゃないか」と、コンテストに応募してくれたんです。

――ごっこ遊びをしているのが、お芝居っぽかったんですかね。

吉田 父や母につき合ってもらって、おままごとセットのレジをピッとやりながらお店ごっこをしたり、1人でずっとぬいぐるみに話し掛けたりしていました。普通は小学校低学年でやめるのに、4年生、5年生になっても引きずっていたので、最初は「おかしい子なんじゃないか」と思っていたみたいです(笑)。

――結果的には、お父さんが思われた通り、向いていたんですね。

吉田 当時は女優やモデルという職業があるのも知らず、何もわからないままコンテストに出ていましたけど、賞が獲れないのは悔しくて。それで「もう1回!」と続けているうちに、賞をもらったりもしました。

――サスペンスドラマは好きだったとか。

吉田 そうなんです。小さい頃から、『おばさん会長・紫の犯罪清掃日記』とか『赤い霊柩車』とか2時間もののサスペンスを、昼間の再放送で観てました。

――小学生にしては渋いですね(笑)。

吉田 今は恋愛もののほうが好きですけど、小学生の頃は犯人を追い詰めるサスペンスばかり観ていて(笑)。『科捜研の女』も好きでした。

高校から東京に出て頑張ろうと

――高校に入学するとき、山形から上京したとか。

吉田 山形市内の高校か、東京の高校にするか迷って、父が何校かピックアップしてくれた中から、オープンキャンパスを回ったりもしました。結果的に「ちゃんと芸能活動をするなら東京で頑張ろう」となったんですけど、サラッと決まったわけではなくて。三者面談で先生の前で親子ゲンカをしたり(笑)、言い争いもありました。

――吉田さん自身、芸能界でやっていく意志は強かったんですか?

吉田 やる気はありましたけど、たぶん本当の覚悟が見えなかったんだと思います。今考えれば、父に怒られるのも当たり前でした。一大決心とはいえ、まだ中3で将来のことまで考えてなくて。楽観的というか、ちょっとナメてる自分がいました。

――その時点で、事務所には入っていたんですか?

吉田 入ってましたけど、高1のときに辞めました。もともと地元でレッスンを受けていて、仕事はしてなかったんです。辞めて半年くらいは、何もしませんでした。そしたら、父が「ミス・ティーン・ジャパン」に応募していて、「また勝手に?」という(笑)。

――ファイナリストになったんですよね。

吉田 賞は獲れなかったんですけど、事務所さんのオファーをいただいて。何社か面談した中から、父が「ここが良いと思う」と言った今の事務所に入りました。

駅の出口が多すぎて迷子になります

――山形から上京して、東京暮らしに戸惑いはありませんでした?

吉田 まず高校の入学式で「そう言えば、友だちが1人もいない!」と気づきました(笑)。山形ではバス移動が普通で、私がいつも乗っている路線は30分に1本しか来なかったんです。1分でも遅れたら、30分待たないといけない。しかもバス停は外だから、冬は寒くて! 東京に来て電車に乗るようになったら、3分おきに来たりするのが感動的でした(笑)。

――便利になったことばかりでしたか?

吉田 本数が多すぎて迷うこともあります。同じ新宿行きでも、1番線と2番線でどう違うの? とか。特急に乗っちゃって「止まらない! 降りられない!」って、遅刻を何回かやらかしました。池袋とかは出口が多すぎて迷子になって、めちゃくちゃ遠回りして時間がかかったりは、いまだにあります。

――仕事のほうは、今の事務所に入ってからは順調のようですね。

吉田 高2のときに育成契約の形で入って、専属にするか否かというとき、恋リアの『恋とオオカミには騙されない』が決まったんです。ちゃんとお仕事をしてみて楽しかったし、「これをやっていきたい」と改めて思いました。自分と向き合って、やっと「女優を目指そう」としっかり決められました。

食レポは効率良くできるようになってきました

――『めざましテレビ』のイマドキガールも楽しんでやれていますか?

吉田 食レポもグッズ紹介も短い時間で要点をまとめるのが、最初は難しかったです。「ひと言めは自分の感想を」と言われても、適当なことは言えないし。だんだん「酸味が効いています」とかワードのチョイスは、ちょっと身に付いたかなと思います。

――最近だと、台湾祭の屋台グルメやあんバタースイーツのレポートがありました。

吉田 食レポは苦手です。「おいしい」以外でどう表現したらいいか。あと、モグモグして「早く飲み込まなきゃ」となっていたんですけど、食べて「うーん」と反応したら、そこでカットして後から繋げられると教えてもらって。その間に考える時間ができて、言える言葉が増えました。最初の頃よりは、効率良くできるようになってます。

『名探偵コナン』を全話観直してます

――吉田さん自身、普段から“イマドキ”ですか?

吉田 最先端にはいない気がします。たとえば自分の好きなリップの新しい色が出たとか、興味があるものには詳しいくらい。高校生の頃から、大人の方に「何が流行っているの? タピオカ的なものはない?」と聞かれても「そんなの知らない!」と思って(笑)。そう考えると、私はイマドキではないと思います。昔のものが好きだったりもするので。

――昔のどんなものが好きなんですか?

吉田 音楽とかです。尾崎豊さん、プリプリ(プリンセス プリンセス)さん、今も活躍されている小田和正さん、スピッツさん……。流行りの曲も好きですけど、年代バラバラで聴いています。

――他に趣味的なものはありますか?

吉田 人と話すことが好きなので、休日は友だちと出掛けることが多いです。でも極端で、ずっと家にいることもあって。私、『名探偵コナン』が大好きで、配信されているものは全話観直そうと思っています(笑)。

――『名探偵コナン』の全話って、相当な数ですよね。

吉田 今配信されているのは900何話で、テレビではもう1000話ちょっと。「ここ、前も面白かったな」と思いながら観ています。

力を入れすぎないようにしたら自然に涙が出て

――『こわれること いきること』の主人公の河合遥役はオファーがあったんですか?

吉田 オーディションでした。私は「受かりたい」と思ったときほど受からないので、力を入れすぎないようにラフに行きました。

――映画の1シーンをやったんですか?

吉田 震災で辛い想いをしている人たちが集まって、悩みを吐き出すグリーフケアのシーンがありました。「家族で私1人が生き残って……」という台詞では、「泣いてください」とかはなかったんです。でも、「受からなきゃ」という重荷が自分の中でなくて、たぶん自然に感情が入って涙が出たと思います。言葉に詰まったりもして、手応えはなかったんですけど、撮影が終わる間際に監督に「なんで私だったんですか?」と聞いたら、「演技に感動した」と言ってもらえました。

――そのシーンは完成した映画でも、悲しみが伝わって胸が震えました。

吉田 実際に泣いていたんですけど、出来上がって観たら、あまり泣いているように見えなくて。いくら気持ちがこもっても、見せ方が大事だと勉強になりました。

――普段は泣くことはありますか?

吉田 ドラマや感動ものを観ると、すぐ泣きます。『silent』はほぼ毎話泣いて、自分でビックリしました(笑)。『志村どうぶつ園』でもよく泣いてました。動物の話で泣きやすかったりします。

『こわれること いきること』より (C)三英堂商事/アイ・エム・ティ
『こわれること いきること』より (C)三英堂商事/アイ・エム・ティ

演じるために津波の映像を見直しました

吉田伶香が主演する映画『こわれること いきること』。東京の介護専門学校に通う遥(吉田)は、地元でのいとこの結婚式に出席しなかった。当日に東日本大震災が発生。車で式場に向かっていた家族4人は亡くなってしまった。遥は深い贖罪の意識と喪失感に苛まれ、人間関係を遮断しながら、地元の介護施設で働き始める。ある日、高校の恩師で吹奏楽部顧問だった小田由美子(藤田朋子)が、夫に付き添われて入居してくる。彼女は認知症を患っていた。

――オーディションに受かったとはいえ、遥を演じるのは相当な覚悟が要る気がしませんでした?

吉田 「私にできるかな」と思いました。主演でナイーブな役で、フルートも吹かないといけない。重いというか悲しみが深くて、やり切れるかどうか。

――東日本大震災が起きたのは、吉田さん自身は9歳のときでした。

吉田 小3だったのかな。山形にいたので地震が怖かったというより、そのあとの生活が大変だったのを覚えています。何日間か電気がつかなくて、部屋がずっと暗くて、母が「ごはん、どうしよう」と言ってました。携帯の充電もできず、何もすることがない。夜は真っ暗で、ろうそくや懐中電灯だけで過ごしていました。

――それも大変だったでしょうけど、遥の家族をすべて亡くした悲しみは、想像するしかなかったですよね?

吉田 自分だったらどうだろう……と考えると、想像でしかないですけど、壮絶だろうなと思いました。福島の津波の映像をYouTubeで見たりもしました。ニュースで見たことはあっても、はっきり覚えてなかったので。演じるうえで、見ると見ないとではだいぶ違っていたと思います。

人を支えて歩く介護シーンは自分で調べました

――撮影に当たって、介護士の仕事も学んだんですか?

吉田 人を支えて歩くシーンがあったので、どうすれば体重が掛かりにくくなるかとか、自分で調べたりはしました。あとは食べさせたり話し掛けるシーンだったので、実習や介護施設の見学はしていません。でも、祖母が施設にいて、普通に行ったことはあって。介護士の方とお話もしていたので、イメージはしやすかったです。

――認知症を患った先生との接し方についても考えました?

吉田 それも実際に自分だったら……と想像しました。元気だった先生と久しぶりに会って、変わった姿を見たら、きっとビックリするだろうな、とか。監督もアドバイスをくださって、「こういう行動はどうですかね?」「いいと思う」みたいな感じで作っていきました。

――施設の入居者を看取るシーンもありました。

吉田 私も身内を亡くしたことはあるので、気持ちは入りやすかったかなと思います。

運命は変えられなくても自分を変える勇気があれば

――この作品を通じて「どんなに不幸な運命でも、善し悪しどちらにするかは自分次第と思えた」という趣旨のコメントをされていました。

吉田 遥には不運が続いてましたけど、悲観して殻に閉じこもっていたら、さらに不幸になっていたかもしれません。彼女は行動を起こして、ものごとと向き合って、成長した結果のエンディングになりました。死なない人はいませんし、それは変えられない運命。震災などで急に来たら、心の整理はつかないとしても、定めと受け止めて、自分を変えていく勇気を出せるかどうかで、そのあとの人生は違うのかなと思ったんです。

――吉田さんも自分の行動で運命を切り拓いてきたと?

吉田 期間が限られた中で決断を迫られて、追い詰められたことはあります。進学でも「今、決めないといけないの?」って。夢って早くから決まっている人もいれば、大学でも決まらない人もいると思いますけど、何でもいいというわけにもいかない。芸能をやるか、勉強のほうでいくか。大学はどちらでもいける形にしましたけど、結局2年生のときに辞めて、仕事1本になりました。

『こわれること いきること』より (C)三英堂商事/アイ・エム・ティ
『こわれること いきること』より (C)三英堂商事/アイ・エム・ティ

ハードルを下げられたくなくて「できます!」と

――『こわれること いきること』ではフルートの練習もしたんですか?

吉田 家で動画を観ながら、だいぶやりました。フルートは触るのも初めてだったのに、撮影が始まるまで1~2週間しかなくて。最初は「できるか!」と思いました(笑)。クランクイン後も、朝から夜まで撮影して、家に帰ったらフルートの練習。もう遅い時間で次の日の朝も早いけど、だからと言って寝てられない。睡眠不足を気にする余裕もなくて、とにかく間に合わせなければダメだと。本当に意地でしたね。

――小さい頃も、コンテストで賞が獲れないのが悔しくて受け続けたとのことでしたが、負けず嫌いなんですか?

吉田 それはあります。フルートも「できないなら、もっと簡単にする?」と言われると、「いや、できます!」という。ハードルを下げられたくないんです。高く上げられすぎると、内心「できないよ~」となるときもありますけど(笑)、意地っ張りなところはあると思います。人に負けたくないというより、自分に課せられたことをできずに終わらせたくないんですよね。

――これから目指す女優像はありますか?

吉田 演技を磨いて「こんな役もできるんだ」と言われるようになれたらと思います。『名探偵コナン』は映画も毎回観に行っていて、ゲスト声優で出られるくらい有名になるのがひとつの目標です。あと、2時間サスペンスも観てきたので、自分でも犯人を追い詰める探偵役をやりたいです。

BLUE LABEL提供
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Profile

吉田伶香(よしだ・りょうか)

2002年4月5日生まれ、山形県出身。

2021年に『恋とオオカミには騙されない』(ABEMA)に出演。女優としての出演作は映画『オカムロさん』、『貞子DX』、ドラマ『しょうもない僕らの恋愛論』など。『めざましテレビ』(フジテレビ)でイマドキガール。主演映画『こわれること いきること』が5月26日より公開。

『こわれること いきること』

監督・脚本・編集/北沢幸雄 出演/吉田伶香、藤田朋子、宮川一朗太、斉藤暁、寺田農ほか

まちポレいわきにて先行公開中、5月26日よりシネスイッチ銀座ほか全国公開。

公式HP

(C)三英堂商事/アイ・エム・ティ
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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